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あて所に尋ねあたりません

 リュカ大神官は忙しい身ではあるが、セイラのために少しだけ時間を取ってくださった。

 リュカ大神官も、手紙の返事は気にかかっていたからだ。


「確かに治癒師は、巫女の神託によってこの神殿へ来たと言っていましたよ。不思議ですね…。」


「その治癒師様は今どちらに?」


「もう神殿を出てずいぶん経つんですが、礼拝に集まってくれた信者に頼んで調べてみましょう。私も気になります。」


 一体、国一番の治癒師がそんな意味もなく嘘をつくだろうか?

 しかも、重傷の星水晶を癒してくれたのはその治癒師なのだ。

 

 大聖堂があえてお姉さまの存在を伏せた可能性も否定できない。

 秘匿しなければならない事情があるか、あるいは…考えたくはないが、お姉さまが手紙の受け取りを拒否した可能性もある。


 カインは、落ち込んでいる星水晶のことが気にかかっていた。

そして、教皇付きの近衛である弟のアルベルトに聞けば何か事情がわかるかもしれないと考えていた。

 大聖堂から逃げるように去った自分を、弟はどう思っただろうか。

思い悩みつつも、セイラのために何かできることをしたいと思っていた。


後日、リュカ大神官に呼ばれて調査の報告があった。


「結論から言うと、治癒師はこの神殿を出た後、行方がわからなくなっています。

黒髪の綺麗な方でしたから、周辺で立ち寄った所があれば、誰か覚えているはずなのですが…」


「黒髪…?黒髪だったのですか?もしかして女性ではありませんでしたか?」


星水晶は必死になって問いかけた。


「ローブを着ていて、顔も髪もあまり晒さないようにされていましたが、女性でした。」


『その治癒師が耀子ちゃん!?』


『でも、魔法が使えるなら、この世界の人ではないかしら?』


 その前提も、文子様が魔法を使えたことで崩れている。可能性はあった。


『耀子ならやりかねんわ、あれで結構、いたずらっ子みたいなところがあったから…』


"神託" "巫女" "ヨウコ"という手がかりを会話に紛れこませてメッセージを残すところは、お姉さまらしいといえばそうだった。

 だが、こういう手段で存在を伝えるしかなかった事情も気がかりだった。


 星水晶は、手がかりになればと似顔絵を書くことにした。


星水晶…お姉さまを美化しすぎて、本物との乖離が酷い。


一智佳様……画伯。芸術が爆発。


文子様は、絵は上手いが、前衛的過ぎて似顔絵として使えず。


美凪様が描いた絵が一番マシだったが、耀子様の特徴を完全に捉えられているとはいえず、手直しをしてから提出することになった。


「しかし、4枚描いてこうも画風が変わるとは…」


 カインやアルバスは一生懸命絵を描いている星水晶をしげしげ見つめた。


「できましたわ!…どうでしょうか?」


「少し違うようにも見えるけど、雰囲気は似ているね。カインはどうだ?」


「俺には別人に思える。他の人にも聞いてみるといい。」


(お姉さま…今どこでどうしているの?

今すぐ探しに行きたいのに…。)


『探しに行くにしても先立つもんはないし、ここを出ても住むところも食べるものもない。準備しとかんと行き倒れる。難儀やなぁ…』


『それに、もうすぐ冬なのよね。』


 星水晶はこの世界に来て初めて心細いと思った。

親もいない。確固たる身分も、お金もない。

 元の世界のように、ライトや暖房がついた車で、昼夜問わず移動できるわけではない。

 手ぶらで出かけても、数十メートル歩けばお店や自動販売機で暖かい飲み物や食べ物が買えるような世界じゃない。

 そんな世界で、それでもお姉さまは星水晶を助けに来てくれた。

 きっと、並大抵のことではなかっただろう。


(難しいかもしれないけれど、私は何とかしてお姉さまに会わなくちゃ…)


『冬の間、何か方法を考えてみるわ。まるっきり当てがないわけではないんや。』


書き直しが終わって一息ついたところで、アルバス様はセイラに訊ねた。


「シスター・セイラのいた世界ってどんなところだい?」 


 ちょうど、ホームシックになりかけていたため、星水晶はいつになくよく話した。


「この世界のように魔法は広く使われていませんが、その代わり科学が発達しているのです。

 手紙を送るのもほんのひと時で世界中の人とやり取りできますわ。」


『文子の時代はそうじゃなかったわ。』


『私もよ。』


「アルバスの魔法よりすごいじゃないか!」


カインがからかうように言うと、アルバスも応える。


「その世界で僕は仕事を失いそうだなぁ」


「あと、移動手段も色んな方法があります。

 自動で動く車、たくさんの人を運ぶ列車、海を渡る船、空を飛ぶ飛行機。宇宙…空のさらに上に行くロケット。

 あと、海の底の地面に穴を開けて、もちろん海水が入ないように囲って、先ほどの列車で海峡を渡ったり…

 空の上に届く塔に自動で上がる、軌道エレベーターというのも、もうすぐ実現しそうです。」


「天に届く建物… 神様の領分を侵すことになりそうですね。」


いつの間にか、リュカ大神官もやってきて会話に加わった。


「はい、バベルの塔といって、昔、天まで届く塔を建てようとした人間たちに神様が怒って、みんなバラバラの言葉にして通じなくしてしまったという言い伝えがあります。

 こちらでも似たような話が教典にありましたわね。」


「この国では、そういった神のみわざに近づくような行いは悪魔の怒りを買うと昔から言われています。」


 そのため、魔法が使えない人間が多いにも関わらず、文明の発展が遅れているのだった。

 しかし、通信や大陸間の移動手段の少なさは不便だった。

 まるで、バベルの塔の崩壊後の世界である。

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