思い出と希望 5
その夜、文子様は一智佳様に寄り添い語りかけた。
『こちらに眠る耀子さんのこと、思い出が生んだ姿だって星水晶さんは知ってたんですのね…』
目覚めの時、星水晶が会いたいと願ったら、眠っている耀子様が現れた。だが、それは耀子様本人ではなく、紅茶やスコーンと同じ、星水晶の願う心が生み出したもの。
思い出、そして希望でもある。
夜明け前のお茶会で、文子様が不安そうな顔をしていたのは、それに気づいた時、星水晶がまた生きる気力を失うかもしれないと思ったからだ。
『あの子は大丈夫や、文子さんは心配性やね。』
『一智佳さん…。』
一智佳様は文子様の不安がなくなるまで頭を撫でてあげていた。
『あら、そうだったの?でも、心の支えは必要でしょ?』
美凪様は本当に気づいていなかった。
度々、上目遣いで星水晶にお菓子をねだっていたので、一智佳様も文子様もそんな気はしていた。
『あと、シリアスな雰囲気のところ悪いんだけど…
思い出だとすると、なんであの耀子ちゃんは服着てないの?』
一智佳様と文子様は無言で顔を見合わせた。
顔がよく見えないのに星水晶だけがはっきりお姉さまと認識していたのは、おそらく体の特徴からだった…。
星水晶がお祈りをしているところに、ポピーが来た。
隣に座って、二人でお祈りをする。
ポピーには、この静かな時間を神様が見守ってくれているように思えた。
「…嫌いな人のために祈らなくてはいけないの?」
「嫌いな人?」
「セイラ、あたしのこと嫌いなのに、祈ってくれてるんでしょ」
「私はポピーのこと、嫌いじゃないですが…
例えば、あの人のこういうところが嫌いなんですって素直に神様に打ち明けてみるんです。
そうしたら、自分の嫌いな部分に似てるから?とか、相手の立場にふと気づいて、気持ちが整理できたりするんです。
そうした経験があるから、私は祈らずにはいられないのかもしれません。」
そう言って立ち上がったセイラは、とても大きく見えた。
以前はポピーが、怖いから見下ろさないで!と怒ったこともあったが、今はなぜか頼もしく、凛々しく見えた。
「神様は声や姿を現さなくても助けてくれていると思います。
でも、命を全て守ろうとすると、人間の自由を制限しなくてはならない。だから神様はそうしないのではないかしら…。
見えなくても、聞こえなくても、お祈りするポピーのことを神様はちゃんと見ているし、愛されているわ。」
ポピーは、久しぶりに目が覚めたような、頭がすっきりした感覚だった。
不幸にあうのは神様に愛されていないからではない。
セイラは、不幸にあっても、素直に神様に心を向けて、自分を傷つける他人も、自分の中に受け入れてしまう。だからいつも穏やかな表情でいられるのだ。
(いつか…あたしもセイラのようになれる?)
「ポピーと私は似ていますから。」
心の中では何度も思っていたことを、星水晶はようやく口にできて、笑顔だった。
それが心の中を読まれたようなタイミングだったので、ポピーは元から大きな青い目をさらに大きくして驚いていた。
大聖堂から手紙の返事が来たのは、そのすぐ後だった。
「やぁシスター・セイラ。ほら、お待ちかねの手紙だよ。」
「ごきげんよう、アルバス様。わざわざ届けてくださったのですか?
こちらからまいりましたのに…」
おそらく今は休憩の時間なのに、修道女寮に立ち寄ってくれたことに星水晶は恐縮した。
「気にしないで、ついでだから。ほら、こっちはシスター・メアリー。こっちはリュカ大神官宛だ。」
アルバス様は何枚かの手紙を持ってヒラヒラとさせてから行った。
待ちきれなくてその場で開封したが、そこには予想もしないことが書いてあった。
"ロマリア大聖堂にヨウコという名の巫女はいません"
星水晶も、ご先祖様も、しばらくの間呆然としていた。
『星水晶…。』
「どうして…?巫女の神託があったから治癒師が来ていたのではなかったの?」
『どういうことですの一智佳さんっ!』
その話を聞いたのは一智佳様だけだったので、文子様は動転して問い詰めていた。
『文子さん、そんな、ゆすぶらんといてー』
『と、とりあえず…神託があって来たっていう治癒師のこと、リュカ大神官に聞いてみましょうよ。』




