表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/72

思い出と希望 3

『なんで怒らないの?完全に八つ当たりよ、あれ。』


「美凪様なら、いつかそう聞くと思ってました。

…答えを用意していたわけではないのですが…今までも、こういうときはお姉さまの教えに従ってきたのです。」



 お姉さまの膝に顔を乗せて、星水晶は悩みを打ち明けていた。


「そうね…どう言えばいいのか…

あのね、自分のやったことが返ってきたって思うと、自分を悪く言う人のことを、責める気持ちはなくなるわ。

 あっ、私は悪口なんか言わない…って今思ったでしょ?」


 お姉さまは、うふふといたずらっぽく笑う。笑うたび、長い黒髪がゆれるのがくすぐったかった。


「星水晶はそんなこと言わないって、私も知ってる。

でもね、今私に相談していることが、相手からしたら悪口のように聞こえることもあるのよ。」


(実際、お姉さまに憧れてた子の嫉妬、だったのよね…

みんなの憧れのお姉さまに、私はその子の言ったことで悩んでいると打ち明けた。

もしそれを何かで知ってあの子が嫌な気持ちになったら、結局はあの子も私も同じ…)


「人が生きる以上、これは避けられないこととして受け入れるの。

傷ついた心も、傷つける他人の言葉も、形は違うけど自分から出たものなのよ。」


 他人の行いで傷ついたと思っても、それは自分の行いから生まれたもの。時間差はあるけど起点と終点は同じ…?

星水晶はお姉さまの言葉を受け取り、考え続けた。


「そうして、…いつしか、傷つき悲しむ気持ちは冷静になっていたのです。」


『今まで星水晶さんのこと、ただいい子って思ってましたけど、そういう考え方と知ると嫌いじゃないですわ。哲学的ですわね。」


『せやね、わざわざ仕返しする必要なんかない。神様はちゃんと見てはるってこと。』


『悪人が報いを受けない場合はどうなるんですの?』


『そんなん、死ぬまでずうっと見張ってるわけにいかへんやん?

 それこそ、人の範疇を超えてるから、なおさら手を出す必要はないってことや。』


「一智佳様のおっしゃるとおりですわ。私も神様のなさることを信じています。

それで、嫌われても冷静に受け取れますの。心は痛いですが、彼女のことを怒ってはいませんわ。

それに、あの子は私と同じですから…。」


 家族と離別する悲しみ。生きることへの拒絶と諦め。事故の記憶に悩まされる夜も、星水晶はよく理解できる。

 彼女の怒りが八つ当たりだとしても、ポピーも、そして自分も責めないことで星水晶の心は穏やかになれた。


「二度と家族に会えないと思うと、今でも心が空っぽになります。

ポピーが事故を思い出すのなら、私が出ていった方がいいのかもしれません。ここは元々彼女の居場所ですから…」

 

『文子は、ここを出るなら止めませんわ。魔法使いでお金を稼ぎますわよ!』


『とりあえず生きていくためなら、それもいいかも…』


『どうしても合わない人間がいるなら、離れるのも手やけど。

星水晶がそうしたいなら、好きにしはったらええんちゃう。』


 一智佳様だけはどことなく、賛成していない気がした。



 その後、星水晶はパトリシアの部屋を訪れていた。


「シスター・パトリシア。少しいいですか?」


「何か用だった?」


「少し話したいことが…これを、今度バザーのクッキーに入れてみようと思うんです。」


 星水晶は乾燥させたシナモンを持ってきていた。


「何これ、植物?甘い匂いがするね。」


「シナモンという木の皮から取れるスパイスなんです。」


「変わってるけど、なんだか落ち着く香り!いいと思う。食べられるの?」


 パトリシアはくせになったのか、ずっと匂いをかいでいる。


「気に入ったわ、少し分けてもらってもいい?」


「もちろん、どうぞ。実はこの間、これを取りに行くのに、カイン様に案内してもらったんです。」


「そっか、さっきのこと、気にしてくれてたんだ。

 っていうか私だけじゃないよ?イザベラも、ローズだってショック受けてたんだから。」


「カイン様は人気者ですわね。」


「当たり前よ!気にならない子なんていないでしょ。

他の護衛騎士ってかっこよくても皆妻子持ちだし。」


『星水晶ちゃんが恋バナを!?』

『文子はアルバス様の方が…』

『アルバスさん妻子持ちやんか』


(…昔よりこういう話についていけてる気がするわ。)


 今までこういった話は苦手で避けていたが、恋がしたいという美凪様の影響で、以前ほどは嫌悪感がなくなっていた。


「まぁ、カイン様の方はセイラのこと気にしてるみたいだけど、こうしてシスターになったんだし、付き合う気なさそうなのはわかってるよ。」


「そうですね、そういう気持ちはありませんね…。」


 星水晶が困ったように言うと、美凪様が突っ込みを入れた。


『そこはカインは私のものよって牽制しときなさいよ!』


 美凪様はそう言うが、パティは、もし私がカイン様の恋人で色目使う女がいたら張っ倒すけどね。と言っていて、セイラは思わず身を震わせた。

 (お姉さま、恋する乙女って、暴走するとみんなああなのでしょうか…?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ