魔法使い1/4
『文子さま、魔法めちゃくちゃ使いたそうにしてたわね。』
「気持ちはわかるんですけど、今にもあそこの菷にまたがりそうでした…」
それでも、ギリギリのところで理性が働いたようだ。
文子様はもう一度魔法を試したがっていたが、ひどく疲れてしまったので心の中へ戻らなくてはいけなかった。
美凪様に交代して神殿に帰る途中、懇願するようにカインは言った。
「セイラが魔法を使えるようになったことは、ここだけの話にしてもらえないだろうか。」
もし、後天的に魔法が使えるようになった者が現れたら、天地をひっくり返すような大混乱が起きるだろう。
「俺もそうだが、もし魔法が使えるようになるなら、人は何だってすると思う。
原因を調べるため、セイラが望まない場所へ連れて行かれる可能性もある。
このことを相談できるとしたら、アルバスか、アルバスの知人に信頼できる良い魔法使いがいれば…。」
何となくカインの言葉の裏には、本当は原因を究明したいという野心があるように聞こえた。
『うちも、魔法使いになるんは反対や。文子さんは怒るかもしれへんけど。』
いつもはおっとりした一智佳様がピリピリしていることに星水晶も美凪様も気づいたが、どうしてなのか理由はわからなかった。
「なにも魔法使いになるなと言ってるわけじゃない。
魔法が使えるならこの世界の生まれだと思われるだろうから、そういうことにしてしまえばいい。
異世界から来たことを秘密にして、誰も知らない町で、新しく人生をやり直すという生き方もできるんだ。
シスターの修道誓願はまだ先だから、それまでに色んな道を探すのもいいと思う。
アルバスのように魔法使い以外の仕事をしている人も多い。」
カインの青い瞳からは、先程の炎のような温度は消えていた。
星水晶は、修道女寮の部屋で休みながら、今日あったことを思い返していた。
先程のカインの言葉には考えさせられた。
(元の世界に戻れなかったら、私、どうやって生きていけばいいのでしょう…)
今までは学生だったから、毎日学校に行って真面目に勉強していればそれで良かった。
裕福な家庭で育ち、生きていくのに困ったことなど一度もない。
そんな星水晶が異世界に飛ばされても、何もできず最後は神様の元へ行くだけだ。
それなら異世界へ飛ばされた意味は?お姉さまと再会できたら、その後は?
『星水晶さんが神様に生かされたのは、何か使命があるんじゃないかしら!例えば、魔法で世界を救うとか。』
文子様は、星水晶の人生に意味を見出そうとしてくれている。
星水晶は、文子様が魔法使いとして活躍する姿を想像した。
それはとても自由で心躍る光景だった。
異世界に守護霊がついてきたということに意味があるなら、守護霊の『こう生きたい』という気持ちに身を任せた方がいいように思えた。
「文子様が望むなら私は…」
『そうやって人の言いなりになる星水晶の性格、素直すぎてうちはあんまり好かん。』
一智佳様に注意されて気がついたけれど、確かに星水晶は魔法使いになりたいとは思っていなかった。
何となく雰囲気が悪くなったのを察して、美凪様は明るく言った。
『親の指図を受けないで、世間の目も気にしないで、何にでもなれる自由を手に入れたのよ?
文子さまだってそりゃあワクワクして冒険の旅に出たくなるわよ。
この国は平和で、救済が必要なほど困ってないと思うわ。
だから今すぐに決めなくたっていいじゃない。』
美凪様の言う通りだった。
『旅行は計画してる時が一番楽しいし、恋愛だって友人以上恋人未満の時が一番楽しいんだから。
あたしからしたら、星水晶ちゃんが自分で選んで、悟りを開いたお坊さんみたいな生活をしてるのが信じられないわ。
あなた本当に花も恥じらう17歳?年齢詐称してない?』
『この中でいちばん若作りなのによう言うわぁ』
それをきっかけに、険悪になりかけていた雰囲気が良くなったので、星水晶は美凪様にこっそり
「ありがとうございました。」と伝えた。
『ううん。昼間はごめんね。危ない目にあわせちゃった。』
くすっと笑って腕を組んでくれた。
美凪様は星水晶よりも素手が強そうだったが、びっくりするくらい細くて柔らかい腕をしているので照れくさかった。
その後、文子様以外の三人で、魔法が使えるか試してみたが、何も起こらなかった。
たぶん掛け声に意味はないとわかっていても、チェストー!と何度もやっていたら文子様に怒られた。
どうやら、魔法が使えるのは文子様だけのようだった。
『交代したら魔法が使えるのね』
『一人で勇者パーティー組めますわね』
「私は、僧侶でしょうか?」
『一智佳さまは遊び人…賢者?』
「美凪様が武闘家」
『いやあれはバーサーカーやろ』
『肝心の勇者がいませんわ』
次回からしばらく修道女寮編になります。
ついに主人公の出番が増えるかも?




