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初めてのお出かけ

 星水晶は、カインに腹を立ててはいたが、一智佳様に弄ばれている様子を見て少しは溜飲が下がったので、今日の目的を思い出した。

 一智佳様には声をかけて、心の中に戻っていただいた。


「カイン様。謝罪の気持ちは受け取りました。

今日は私も用があって…お礼を申し上げたかったのです。

 リュカ様や、アルバス様から、大怪我をして酷い状態だった私にいち早く救いの手を伸ばしてくださったと聞きました。

 お陰で命が助かりました。ありがとうございました。」


 しっかり頭を下げたところで、星水晶はこの国の文化ではお礼のやり方が違ったと思い直し、カインの手をそっと握った。

 両手を握ることが、この国の最上の感謝の示し方だった。

 すぐに手は離れたが、カインには触れた感触と熱が、ずっと消えないように思えた。

 

 剣を持って戦うことではなく、勇気を出して命を救おうとしたことに感謝してもらった。

 左遷されたわけでもないのに、中央から東の神殿に赴任してきた元近衛兵。その上、以前は一部隊を率いる隊長だった。

 年も護衛騎士としては若く、少し浮いていたのだが、カインはあの事件をきっかけに仲間から信頼されるようになっていった。

 カインは改めて、護衛騎士になってよかったと嬉しく思った。


「あの、実は一智佳様…ご先祖様が、行きたいところがあるそうなんです。

もしこの後お時間があるなら、案内していただけませんか?」


「…!はい、お任せください!」


 今まで、カインは星水晶に敬語を使っていなかったが、一智佳様に対しては敬語になってしまうようだった。


 サンタマリア・クレール神殿、通称東の聖殿。

 大神官1人と5人の神官、9人の護衛兵。シスターも8人が住んでいる。

 その他、荷運び、馬番、庭師などが10人ほど、通いで働いている。


 毎日朝と晩に礼拝があり、本殿の教会を使用する。

 また、信者たちは安息日に神殿に赴き、神官の話を聞いたり、お祈りをして、聖歌を歌うのだ。

 裏手には畑もあり、小麦や砂糖の原料になる植物を育てて、鶏も飼っている。

 それを材料にしてお菓子を作り、バザーで売って神殿の維持費にしている。


 一智佳様は本で読んで、シナモンによく似た木がこの国に存在することを知った。

 そこで、バザーでシナモンクッキーを作って売ろうという話になった。


『ちなみに、シナモンクッキーをバザーで売ろうというのは文子の案ですわ!』


『よしよし、文子さんは賢いなぁ。あんた商売人の才覚を持っとるな。』


『まずはシナモンの木を探すか、安く仕入れませんと!』


 一智佳様におだてられ、文子様はすっかりその気になっていた。


 『昔からシナモンは香辛料だけやなくて、魔除け、縁起物として使われてたんや。

古代ローマでは神殿の装飾に使われたこともあったんやって。

 ちなみに、日本産のはニッキ。似てるけど別の種類や。味もちょっとシュッとしてピッとするで。』


「その擬音だけの表現、わかるようなわからないような…」


確かに、ニッキを使った八ツ橋は少し刺激が強かった気がする。

 

『治癒師がいるから市販薬はあんまり流通してへんと思うけど、胃腸薬の材料にもなるんやで。

もしかしたら、薬の材料として流通してるかもしれへんわ。

 寒いところでは育たんから、あるとしたら南、雨が多いとこやね。』


 ここは山に近いため、冬の寒さは厳しいだろう。

 シナモンには防腐効果もあり、体を温める作用もある。

もし、香りが受け入れられなくても、これから冬を越すのに、あったらいいなと思った。


「なるほど。では南に行って探してみましょう。

 もし今日見つからなかったら、仕入れの時に商人に問い合わせてみようか?」


「はい、お願いします。」


こうして、星水晶は初めて神殿の外に出ることになった。

「シナモン?この道シュッといってその角ピッと入ってぶわーってがった方にあるんちゃうかな、知らんけど。」

関西人の道案内、あるある。



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