第九話:前半オタク三人衆⑨鬼
〜前回のあらすじ〜
悪魔を倒した。
「新田氏……ツノが生えているでござるよ!」
何言ってんだこいつと思いながらも、頭を触れてみると確かに何か硬いとんがったものがあった。あのとき頭に激痛が走ったのはこれか。
「おそらくそのツノに魔力が貯められていたか、もしくはそのツノが周りから魔力を集めたことによって本来使えない魔法が使えたのでないでござるかね」
ゴザルが考察をブツブツ述べていると、吹っ飛んでいったブゥが戻ってきた。
学園の校舎は半壊しており、学園長室はめちゃくちゃだ。地球に行く扉も壊れてしまっている。
「ここにいても埒があかねーな。とりあえず宿屋に戻るか」
俺はそう言ってヨロヨロと立ち上がった。ツノは意識すると引っ込めることができた。
学園内を歩いていると、戦いの余波で床の底が抜けていて、地下への入り口を見つけた。
「きっと黄金か宝物が眠ってるんでござるよ!」
さっきまでの疲れはどこへやら、男の子はやはり宝物という言葉に弱い。俺たちは地下への階段を颯爽と降りていく。
丈夫そうな分厚い鉄製のドアをブゥが張り手でぶち壊すと、中から赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。
慌てて駆け寄ると一人の赤ちゃん泣いている。
「もう大丈夫でちゅよ〜、拙者がだっこしてあげるでござる」
ゴザルの声に益々泣き声が大きくなる赤ちゃん。まさか気持ち悪がられているんじゃないだろうか……。
そこで代わりに俺が抱っこしてみると途端に泣き止んだが、すごい熱くなってきた。熱でもあるのかもしれない。
他にも鎖に繋がれている獣人などがいたが、赤ちゃん以外に生きている者はいなかった。
校舎を出ると、憲兵のような人たちが集まって来ていた。事情聴取みたいなものがあると面倒なので、<<認識阻害>>をかけると、そのまま宿屋へと戻った。
悪魔のことや赤ちゃんのことなど考えることはたくさんあったが、布団に入ると泥のように眠ってしまったのだった。
◇
翌朝目が覚めると街はとある話題で持ちきりだった。王都一の学園が破壊されていること。ではない。現国王が死んでしまったのだ。
窓の外を見ると、黒いローブに金のブローチをした人たちが多く見える。
宿屋の一階の食堂にいくと、色々な噂が飛び交っていた。
「病気で亡くなったらしいな」
「いや、学園が壊れていたのと関係しているそうだぜ、あそこの校長は国王の孫だろ。校長が何か良くないことをしてたからその罪滅ぼしに自殺したって噂だぜ」
「国王祭で王国騎士団がいない隙を狙った暗殺って俺は聞いたけどな」
「朝から魔法憲兵のやつらがウロウロしてるしな、何かヤバいことが起きてるのは間違いない」
どれが本当かはたまた真実は別にあるのか分からない。
王国騎士団というのは、王国最強の戦闘集団で、国王の護衛を行なっている。
国王祭になると、騎士団の人それぞれが狩に行き、祭の三日目に狩の成果を国王に示して競い合うのが仕来りだそうだ。
俺たちが朝食を取り部屋で今後について話していると……
「フォフォフォ大変だったようじゃな」
どこから現れたのかゼノスがやってきた。
「聞きたいことが山のようにあるわ……てか魔導書の魔法はどこでも問題なく使えるって知ってたなら教えてくれよな。あとこれを見てくれ」
俺はそう言ってツノを出した。
「なんと! そのツノは鬼族のツノじゃ! 鬼族は遥か昔に滅んでしまった一族なのじゃが…… 。魔導書に関してはすまんのぉそれはワシも知らなかったわい」
なんでも鬼族のツノとは、周りの人の魔力を吸収して貯めておき、好きなときに放出できるそうだ。
上手く使いこなせるようになったらかなり強くないか?
「今王都はきな臭いでのぉ。まぁそれは建前なのじゃが一つお願いを聞いてくれんかのぉ。これを亜人の国のある人物に渡して欲しいのじゃ」
そう言ってゼノスは必要な賃金と地図、それに小包を渡してきた。
ゼノスには大変世話になっている。俺たちは快く引き受けた。
「落ち着いたらで大丈夫じゃ。それじゃあすまんが頼むのぉ」
ちょうどそのとき赤ちゃんが泣き始た。すっかり忘れていた…… 。
どうすべきか悩んでいると、赤ちゃんはゼノスが引き取ってくれることになった。
引き渡すときに必死に離れまいと俺にしがみついてきたのは心苦しかったが。
赤ちゃんを引き取ったゼノスは、それじゃあのぉと言うと消えてしまった。
「亜人の国かぁ! エルフ! ドワーフ! 小人! 獣人も含まれるでござるかね! 夢が膨らむでござる」
「エルフのお姉さんに鞭で叩かれたいぶぅ! ハーレムだぶぅ!」
ブゥはそれしか言ってないが結局飯を食うことに一生懸命になって忘れてるじゃねーか。俺は思わず苦笑した。
「なにニヤニヤしてるでこざる! 気持ち悪いでござるよ!」
俺は流れるように関節技を決める。
叫ぶゴザル。それをみて笑っているブゥ。
異世界に来たというのに変わらない関係の俺たち。
『何をするか』、『何処に行くか』じゃなくて『誰といるか』で楽しさって決まるよな、なんて柄にもないようなこと思ったりした。
何はともあれ、俺たちの次の目的地が決まったのであった。
◇◆◇◆
聖マドレーヌ教会の礼拝室。そこでシスターが一人お祈りをしていた。
その静寂を壊すように笑い声が響きわたる。他でもないシスター本人の笑い声だ。
「ウフフ……フフ…………アハハハハハハハッ!……ハァ〜。国王の暗殺がこんなにも上手くいっちゃうとわ。S級冒険者も王国騎士団もいないときを狙ったのが正解だったはね。
それにしても孫も殺されちゃったのね……誰の仕業かしら」
「誰がやった! 誰がやった!」
いつのまに現れたのか、ピエロのお面をした人物が立っていた。その肩にはオウム止まっている。
「あらいたのね、そっちの調査はお願いするわ」
それを聞くとピエロは闇へと消えていった。
「邪神の召喚ももうすぐね」
そう一人呟くシスターの表情には笑みが浮かんでいた。それは昔からずっと変わらず。
ここまでが第一章です!
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