第八話:オタク三人衆⑧シナリオ
〜前回のあらすじ〜
新田が死んだ。校長の腕がとんでった。
「アッハッハあぶねーガチで死んだと思った」
「笑い事じゃないでござるよ! 本当泣きそうだったんでござるからね!」
ゴザルが泣きながら叫ぶ。ここは校長室。ただし一日前の。
俺は確かにゴザルに首を刎ねられて死んだ。そのときにそう死んだときに一度だけ発動する魔法が機能したのだ。
この魔法がというのが、死んだ時から一日過去に行くというもの。過去の自分と出会ってしまうと認識のズレが生じて過去の自分が消えてしまう。
学園内で魔法が発動した理由として、魔導書の魔法は特別なのではと推測して、実際に身体強化を使ってみると発動した。
「とは言っても助かったわけじゃない。このままいくと俺の首は飛んでしまう。さてどうしたもんか……」
「過去改編は慎重行わないといけないでござる! なんせ少しの変化が未来を世紀末にしてしまうことがあるでござるからね!」
そこにブゥから思わぬ情報が飛び出る。
「ここの扉くぐったら学校の講堂に出るぶぅ」
学園の校長室の端にある扉。なんの扉かとは思ったが、まさか地球に繋がっていたとは。
そこで俺はある作戦を閃き二人に伝えた。
◇
「久しぶりの地球でござるなぁ」
俺たちは扉をくぐり地球の講党にやってきた。
日にちは一日しか過ぎていないが、ゼノスのところで修行をしていたので、一年振りである。
「暗くて全然見えないぶぅ」
そう言ってブゥが電気をつけた。おいもっと気をつけて行動しろ! そう注意しようとしたとき話し声が聞こえてきた。
『こんな時間に怪しい! せっかくだし覗いていくでござる!』
過去の俺たちだ! 俺たちは慌ててドアと反対を向いた。
『一人丸々太った奴がいるぶぅ。自己管理がなってないでぶぅ』
『演劇部の練習でござるかね?』
『さぁー?』
しばらくすると過去の俺たちは歩き去っていった。危なかった……。
「まひろ氏自分自身に注意してたでごさるね」
笑いながらゴザルが言う。
「……フッ……シナリオ通りだぶぅ」
ブゥはドヤ顔で返していた。
俺は自分と二人に<<認識阻害>>をかけると、過去の俺たちを追いかけた。
追いつくと過去の俺たちは、物陰でコソコソしていた。何してたっけこのとき?
——ハックション!!!!(くしゃみです)
ブゥが盛大にくしゃみをした。
どこからか怒鳴り声が聞こえてくる。過去の俺たちが慌てて逃げていった。
校長室にたどり着き、ドアを覗くと校長と部下たちが俺たちを気絶させているところだった。
俺は校長に<<認識阻害>>を掛け、従服の印をつけたと認識させた。また過去の俺たちにも、従服の状態であるという認識するよう魔法をかけた。
「............上手くいったぶぅ.....」
そうしてまた講堂から異世界に戻ると、一日時間を潰した。
◇
最後の仕上げに、学園の校長室前で過去の俺たちと会って入れ替わり、もう一つの魔導書の魔法である″姿を変身させる魔法″を用いた。
ゴザルを俺の姿に、俺をゴザルの姿にして校長との対決に挑み、俺の姿をしたゴザルの首が飛んでいったのであった。
「うぎゃああぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
校長が叫び声をあげる。
「なぜだ! なぜだブゥ!」
「アッハッハッハ! お前を倒すだけならいくらでも方法はあったが、絶望させるのにはこれが一番だと思ったんだよ!」
「悪魔でござる〜、悪魔がいるでござる〜」
まぁ過去を変えすぎることに不安があったというのが事実だ。
俺は容赦なくもう一本腕を切り落とそうとしたところで、指輪がより一層光り──校長が爆せた。
そいつはまるで校長の体を、中から突き破ったかのように出てきた。
人型の生き物。頭からは角が二本。そして羽が生えていて、全身紫色。記憶の中にある悪魔の姿に似ていた。
そいつは不愉快な奇声を発したかと思うと、こちらに飛びかかってきた。
臓腑を侵す悪寒。直感的にヤバいと感じた。
<< تقوية الجسم >>
俺は瞬時に身体強化を行いその場を蹴った。強烈な破裂音を鳴らし俺の足元が爆ぜる。一瞬のうちに間合いがゼロになり──
──拳と拳がぶつかる。
俺と悪魔を中心にして起こった衝撃波が、部屋の中のものを吹き飛ばす。
つばせり合いの状態から悪魔が蹴りを入れてくる! 咄嗟にガードをしたが、壁まで吹き飛ばされた。
すぐに起き上がると、ブゥが悪魔に張り手をくらわせているところが見えた。
怯んだ隙に、ブゥが悪魔を後ろからガッチリ押さえ込む。そこにゴザルが空中で回転しながら飛びこみ刀で切り込んだ。
カランカラン……刀が折れた。
驚愕するゴザルの顔に悪魔の拳が突き刺さる。尻尾の先でブゥを貫き、拘束を逃れていたのだ。
悪魔がブゥの足を掴んだかと思うと、ハンマー投げのようにブゥを振り回し吹っ飛ばした。
瞬間走り込んできた俺は、悪魔の横腹に蹴りを入れる──ツゥア……まるで壁を蹴っているようだ。
足を掴まれ、何度も俺は地面に叩きつけられた。
床が破片を撒き散らす。意識が吹っ飛びそうだ── 。
悪魔は飽きたオモチャのように俺を投げ捨てた。
「ハァ……ハァ………」
俺はヨロヨロと立ち上がり、身体中に力を込めて魔力を練った。こいつを殺す。そのことだけを考えて。
──頭に激痛がはしった。
全身に魔力が漲るのが分かった。それは感覚的な行動だった。魔導書にあったが魔力が足りなくて使えなかった魔法
<< شمس سوداء>>
太陽のような黒い炎が悪魔を包み込む。黒炎はそのまま校舎を突き破り空へと消えていった。
俺はそのまま仰向けに倒れ込んだ。指すら動かせない。目線の先には三つの三日月がこちらを見て笑っていた。