第七話:オタク三人衆⑦死
〜前回のあらすじ〜
宿屋で謎の女に襲われた。
おげろヴぇろヴぇろヴぇろヴぇろヴぇろヴぇろヴぇろ……。
「うぅ〜まだちょっときついでござる」
ゴザルはトイレに張り付いていた。
「すぐ楽にしてやる」
そんなゴザルの背後から声をかけてくる者。
「──え?」
グシャ!
ゴザルの頭が潰れた。がすぐに再生する。
「急に何するでっ……て、お! 気持ち悪いの治ったでござる! そうか! リセットすればよかったでござったか」
「頭を潰して死なないだと!? どうなってやがる」
そこには宿屋のカウンターに座っていたおっさんが、棍棒を持って立っていた。
「その反応はどうやら助けたくてしたわけじゃないでござるね。大方拙者のイケメンさへの嫉妬でござろう」
そう言うと、ゴザルは腰から二本の中国刀のような曲がった刀を取り出した。
「死ぬまで殺してやらぁ!」
ムキムキのおっさんがそう言って叫び棍棒を振り上げる──
そのとき既にゴザルはおっさんの後ろに立っていた。一瞬間がありおっさんがその場に倒れる。
「峰打ちでござるよ。……ウヒョヒャヒャヒャ決まったでござる!」
ブゥン!
ゴザル目掛けてものすごい速さで灰皿が飛んできた! ギリギリでかわす。
「な、何するでござるか! 新田氏!」
「詰めがあめーんだよ」
振り返るとゴザルに殴りかかろうとしていたおっさんの額に灰皿がぶつかっていた。ぐふぅ……と声を漏らしておっさんが崩れ落ちる。
「き、気づいてたでござるけどね!」
襲撃してきた 女と男二人を縄で縛ると、部屋に連れてきた。
頑なに口を割らなかった二人だが、ブゥが帰ってきて食べていいぶぅ? と言うと途端に話し始めた。
大食い競争のところから見張っていたそうだ。いくつか策を用意していて、串屋に腹を下す虫を食わせるようにしていたのもその一つ。この宿屋も店主は他にいるらしい。
二人は命令されて俺たち狙っていただけで、狙う理由は知らないとのこと。雇い主は、この都市一番の学園の校長だそうだ。
全く心当たりがないが、学園へと向かうことにした。
◇
学校があった。
いや何の話だよと思うかもしれないが、学校があったのだ。
街の人に道を聞き辿り着いた学園。その学園とやらは、俺たちの地球の学校と全くと言っていいほど似たような見た目をしていた。
学園には警備の人がいたが、<<認識阻害>>の魔法を俺と二人に掛け、なんなく学園内に入れた。
学園内に入ると魔法が勝手に解けた。これがゼノスの言っていたやつか。
この世界は魔法への対策が進んでいて、王都内では一部の攻撃魔法は使うことが出来ない。
施設によっては、一切魔法が使えない場所があると言っていた。この学園がそうなのだろう。
厄介だなと思っていたが、学園内に人は殆どいなかった。偶にいても、さも関係者のように堂々と挨拶すれば笑顔で返ってきた。ちょろいな。
そしてなんの問題もなく校長室前到着。
「会話してみるが攻撃してきたら遠慮するな」
その言葉に二人は頷く。俺はドアを勢いよく開けた。
「クソ親父だぶぅ!」
校長室はかなり広かった。
その部屋の中心に、漆色で統一された机と椅子があり、その椅子に座ってる人物を見てブゥが叫んだ。
「クソ親父とは随分な言い方だブゥ、あの二人はしくじったブゥか」
椅子に座っている人物は退屈そうな顔をこちらに向けた。
「なんで校長がいるでござるか!? 命を狙われる理由が分からないでごさる!」
「フン、私が消したかったのはまひろただ一人。お前たちはついでだブゥ」
「オマケ感覚で殺されちゃーたまんないなぁ、ブゥ遠慮なくぶっ飛ばさせてもらうがいいか?」
「むしろ今すぐ息の根を止めてやるぶぅ」
「万が一でも勝ち目はないブゥ、命令する。跪づけブゥ」
そう言うと同時にブゥの親父——俺たちの校長の指輪が光り、俺たち三人はその言葉通りに動いた。
「か、体が勝手に動いたでござる! 操る系の能力でござる!」
「命令する。私の許可なしに話すことを含めるあらゆる行動を取るな」
体を動かそうとするが全く動かない。解除方法はなんだ? こんな無茶苦茶な能力あっていいのかよ。
「私の能力は従服の印をつけたものへの絶対的命令権を得ることだだブゥ。印をつけるのが大変だがつけた後は負けることはないブゥ」
ステータスの名前の隣にあった(従服)とはこれのことだったのか! いつのまにつけられたんだ?
ニヤリと喜悦に歪んだ表情で俺たちを見下ろす校長が、得意そうに続ける。
「印がいつつけられたのか不思議だろうブゥ。昨夜地球の校長室でお前たちを気絶させ、魔法陣に放り込んだのは私だブゥ。本来ならそれで死ぬはずだが、万が一の為に服従の印を付けておいたんだブゥ。
解除するには私を殺すしかなないブゥ。ブヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ」
校長の笑い声だけが室内に響く。何か打つてはないのか!? こんなやつに殺されてたまるか! 俺は必死に頭を回転させる。
「その反抗的な目が気に入らんな。おいメガネ。新田を殺せ」
その言葉に、ゴザルはスッと刀を抜くと、俺の方に構えた。必死に抵抗しているのか体が震えている。
しかし抵抗は虚しく刀は振りぬかれ、俺の右腕を切り落とした。
「ン゛ーーーー!!」
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い
切り口が焼けた。実際には違うのだが、そう勘違いするほどの痛み。
激痛が全神経を蹂躙し、反射的に俺は転げ回ろうとする。しかし、校長のスキルがそれを許さず、体がミチミチと嫌な音を立てるに終わる。
「ブヒッヒッヒ、友達を苦しめるとは酷いブゥ。早くトドメをさしてあげろブゥ」
校長が嗜虐的な笑みを浮かべる。それは自らが絶対者であることを疑わぬものであった。
そして校長の操り人形と化したゴザルの顔は、涙と鼻水でグショグショになっていた。
なんて顔してやがる—— 。
再び震えながら刀を振り上げるゴザル。
ゴザルの抵抗も意味をなさず、刀は無慈悲に俺の首目掛けて振り下ろされた。
急に意識が遠くなる──
離れたところに首のない俺の体があった。断面からは血が流れ続けている──。
もう感覚は何もなかった。死ぬってこういうことなのか。こんなにもあっけないものなのか──。
そこで意識は途絶えた──。
「うぎゃああぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
校長の腕が舞い上がる。切り落とされたのだ。ゴザルによって。いやゴザルの姿をした俺によって。