第五話:オタク三人衆⑤大食い大会
〜前回のあらすじ〜
何者かが三人衆の命を狙っている。
白い空間。睨み合う二人。ブゥとゴザルである。
三十メートル程離れた位置にお互い立っている。各々ゼノスと修行をして初めての手合わせだ。
「雑魚をいたぶるのは好きではないんでござるけどね。仕方ないでごさる! 我が最強の術で焼き豚になるがいいでござる! フォォォ──え? ちょ……」
バコォォォォン
ゴザルの姿が消えたかと思うとブゥの目の前に現れた! すかさず繰り出されたブゥの張り手によってゴザルの顔面が吹き飛んだ。
は〜い、リアルアンパ○マンのかんせ〜い♪
すぐに再生して反撃しようとしたゴザルだったが、その前にブゥに体を抑えられてどうすることも出来なくなっていた。
「噛ませ犬としては百点満点だ」
◇
あれから一年が過ぎた。つまり外の世界では、半日の十二時間が過ぎているだろう。
三人とも仙術という体に陽のオーラを纏う体術を共通して習い、後はスキルに合わせて修行した。
オーラに関しては鎧がわりに纏うだけで精一杯だが、ゼノス曰く他にも使い道があるそうだ。
魔導書に書いてあった魔法は、魔力量的に身体強化系、生き物の姿を変えられるもの(体格が違いすぎると出来ない)と、あとある条件の元一度だけ発動する魔法しかまだ使えない。
魔導書とは別に、<<認識阻害>>という魔法も覚えた。ゼノスが唯一使える魔法だったのだ。
ゼノスのこの空間は最大八日入れるそうだが、また必要になることがあるかも知れないということで、今回は一年で出ることにした。
また、教会で自分の能力を確認してレベルがあがった頃にくることにしよう。といってもどうやって会えるのかは知らないけど。
一年でもゼノスの教え方がうまかったこともあり十分に強くなったと思う。ただ、モンスターを倒していないので、レベルは変わっていない。
「それじゃまたいつか会うとしようかのぉ。気まぐれにワシの方から会いに行くのじゃ」
「本当に世話になったよゼノスの爺さん。ありがとうな」
各々別れの挨拶を交して別れた。ゼノスが手を叩くと、そこは路地裏のような場所だった。ゼノスが言うには王都の裏道らしい。
本当に一瞬だなおい。便利すぎんだろ。
サービスじゃと言って加護を受けた。この世界の人との会話に困らなくなるそうだ。服装も異世界に合わせたのを見繕ってくれたし、少しのお金も貰った。本当にありがたい。
ちなみにこの世界は、一円=一ゴールドだそうだ。
「まさかこんな形で王都に入ることになるとはでござるな。おかげで面倒くさいで定番の門番に絡まれるイベントは回避できたでこざるけどな!」
「早速大通りに行ってみるぶぅ! さっきから美味しそうな匂いがして暴れ出しそうでぶぅ! 肉! 肉が食べたいぶぅ!」
一年間はゼノスの手料理だった。美味しかったが魚の煮付けや、煮物が主で肉が出ることはあまりなかった。
俺も濃いめの味のものが恋しく感じていたところだ。
大通りに出ると沢山の人で賑わっていた。ファンタジー王道の街並みで、アニメでみたような建物が並んでいる。
時刻は夕方の五時ごろ。祭でもやっているのだろうか、多くの出店がでている。イメージしていたよりは少ないが、人間以外の姿のものもいる。
空には絨毯に乗ったり、羽を生やして飛んでいる人もいる。
犬、猫の顔の人は所謂獣人ってやつかな? あの耳が尖っているのはエルフかな? お? ドワーフもいる! やっぱ実際に見るとテンション上がっちまうな!
「肉ぅ〜、肉ぅ〜」
どうやらブゥはそれどころじゃないようだ。そんなときとっておきのイベント情報が舞い込んできた。
「さぁさぁ大食い大会もうすぐエントリー締め切るぜ!!! 自信のある方はドシドシ応募しな!!! 優勝賞品はミノタウルス三頭分の肉! アイテムボックスに入った状態でもらえるぜ!」
「これは優勝間違いないな! まひろ氏行ってくるでござるよ!」
もはや言葉を忘れて野生に戻りかけているブゥの代わりに代金を払いエントリーを済ませてきた。ちょうど最後で、すぐにルール説明が始まった。
「ルールは簡単! ランダムに運ばれなてくる料理を片っ端から食い尽くすだけ! 制限時間内に食べた皿の枚数で勝敗が決まる! 今回のエントリーは十八人だ!」
屈強な男たちがステージの上に並ぶ様は中々の迫力があった。驚くことにブゥよりでかいやつもゴロゴロいる。
「おいおいガキの来るところじゃねーぜ」
「ビビって声もでねぇーか、えぇ?」
「ブヒィ、ブヒィ……」
ブゥがいじられている。観客の間では誰が優勝するか賭けが始まっていた。
「やはり三年連続優勝のブルーモスだろ!」
「俺も!」
「おれもだ!」
「おいおいそれじゃあ賭けになんねーだろ」
「じゃあ俺はあの一番若いのに賭けるよ」
そう言って俺はゼノスからもらったお金を全て賭けた。ブゥが負けることはあるまい。
驚いた顔をした男たちだったが、賭けにのってきた。
「えっへっへっへ、田舎もんだぜきっと知らないんだ」
小声で男たちは笑い合っていた。聞こえてるっつーの。
そうこうしているうちに、参加者一人一人の目の前に大盛りの料理が積まれる。
「料理の準備が出来ましたのでそれでは参りたいと思います、レディッッツスターート!!!」
一斉に食べ出そうとする参加者! 観客の声援が飛び交う!
──それがやむのは一瞬だった。
ブゴォォォォォォオ!
まるでブラックホールのようにブゥの口の中に食べ物が消えていった。それも十八人分。
誰も声を発する者はいない。いや発することができないでいた。ただ一人を除いて
「おかわり持って来るぶぅーーーー!」
「ど、ど、どうだ見たか……! これがうちのメンバーの実力でござる! まだまだこんなの準備体操でござるからね!」
「まだ屈伸してるぶぅーーー!」
十八人分食べてまだ準備体操の最初のようらしい。知ってはいたがまじでバケモノだな。そこでようやく我に返った観客たちが叫び出す。
「やべぇー、なんだあいつ!」
「すげぇーよ! あんなん初めて見たわ! 笑うしかねぇーな!」
「ダークホースきたぁぁぁぁあ!!」
「俺の金がぁーーー」
喜ぶ者。金を失って悲しむ者。反応は様々だ。
参加者の中には文句を言うものもいたが、食うのがおせぇーのが悪いんだぁ! と観客に言われてしぶしぶ引き下がっていた。ノリのいい人たちが多くて助かった。
それからしばらくして時間が来て予定通りブゥが優勝した。
アイテムボックスが手に入ったのはでかい。異世界の必需品だろこれ。
ラッキーなことに、中に入れたアイテムは、時間が止まって食べ物のなどの中身が腐ることはないそうだ。ついでに金も増えてウハウハだ。
「お疲れブゥ、さすが!」
「ようやく準備体操終わったぶぅ。次は屋台に行くぶぅ」
頼もしいすぎんだろ……気のせいか心なし体も逞しくなっているように見える。
お金のことで絡まれると面倒なので、俺は自分と二人に″姿を変える魔法″を使って、全く別の人の姿になると、その場を後にした。
こうして幸先いいスタートを切った俺たちは、屋台に行きたいとごねるブゥを宥めながら、ステータス確認の為教会へと向かうのであった。
仙術・・・目には見えない『陽』のオーラ纏う体術。オーラは使うと減るが、太陽の光を浴びることで、最も回復する。
また、寝たりすることでも回復し、生命力を削ることでも回復できる。
イメージとしては、自分の意思で状態変化を起こせて、動かせる水のような物質(不可視)が体の周りにある。
『気』、『液』、『固』の三つの状態がある。