第三話:オタク三人衆③修行
〜前回のあらすじ〜
ゴザルが雷に打たれた…… 。
池の中心に何かモヤが現れたと思うと、段々とモヤが形になっていき、まるで逆再生の映像を見せられているかのように何かかが現れた。裸の男。ゴザルだ。
「野郎の裸なんか誰も見たかねーよ」
「いや拙者もなりたくてなったわけじゃないんだが! 黒焦げになった友人への一言目がそれでござるか! 悪魔でござるよ!」
「親の顔よりみなれてるぶぅ」
「いやまひろ氏! 勘違いされるようなこと言うのやめるでごさる!」
遠くまで離れていて正解だった。それにしてもあの雷でも形がそのままとは特別な本なのだろう。
「いいから早く本を持ってこい露出魔」
プンスカと文句を言いながら本を持ってきた。
表紙には何も文字は書かれていない。
「中に書いてある文字何も読めないでござるよ、折角拙者が命がけでとってきたでござるのに」
「何言ってんだ? 普通に日本語で書いてるじゃねーか」
「新田氏はこれが読めるでござるか!? なんて書いてあるでござるか?」
どうやらゴザルには、本の文字が読めないらしい。俺には普通に日本語に見えるが。もしかしてこれが俺のスキルか? ブゥは興味無いようで食べ物を探してクンクン辺りを嗅ぎ回っている。
「どうやら魔導書のようだな、魔法とその説明が書いてある。例えば一つ目の魔法は……<<تقوية الجسم>>」
「何て言ったでござる!? 特に変化は見られないでござるが」
「これは身体強化系の魔法らしい。まぁ読んだだけで効果があるとは思えないけど」
そう言うと俺は落ちていた石を拾い思いっきり投げてみた。
キラーン
そんな効果音が聞こえてきそうな程速いスピードで、石は壁の方に飛んでいきお空のお星様になった。
ブゥに張り手をしてもらったが全然ダメージはない。
「チ、チ……チートでござる!」
「これはやべーな、今なら素手でゴザルを殺れそうだ」
「何物騒なこと言ってるでござるか!」
「フォッフォッフォッ早速使っておるのう」
「「!!??」」 「……?……」
俺とゴザルは見知らぬ声に驚き同時に振り返った! ブゥは理解が追いついていない!
そこには白いローブに立派な髭を蓄えた小さい爺さんが立っていた。まるで仙人のようだ。
「……!?」
一瞬で爺さんが視界から消えた! と同時に隣にいたゴザルが消え、代わりに爺さんが立っているのを視界の端に捉える。
ドォォォン
背後で岩が崩れる音がする。
なんだ!? 何が起きた? 訳も分からず俺は振り返ろうとする。しかしそれが叶うことはなかった。
ゴフッ
口から内臓が飛び出たと思うほどの衝撃。肺が必死に酸素を取り込もうとする。爺さんのパンチが鳩尾に突き刺さったのだ。転げ回ることしかできない。
身体強化してこれだと!? 出鱈目じゃねーか。
「フゥン!」
俺は腹をおさえ、這いつくばりながら顔だけを上げる。
ブゥが爺さんに張り手をするのが見えた。それは片手で受け止められ、お返しと言わんばかりにブゥのお腹に拳が突き刺さる。
「ブヒヒヒーン」
ブゥが白目を剥いて崩れ落ちた。遠くではゴザルが崩れた岩に紛れて倒れている。俺は立つこともできない。
いやヤバすぎる。なんだこいつ……。
「魔導書の封印が解かれたから何者かと思ってきてみたが……軟弱じゃのう。はて? 猛毒の水はどうしたのじゃろかい」
「おいおい、いきなり襲ってきて何て言い草だよ。水なら喉が渇いたうちのブゥが飲んじゃったよ。本ならすまん誰のか分からなかったんでね、返すよ」
俺は痛みを必死に我慢しながらそう答える。
「フォッフォッフォッ飲んだ? あれを飲んだとなフォッフォッフォ
すまんのぉ、ほんの遊びのつもりじゃったんじゃがちと張り切り過ぎたかのぉ。
本ならいらんいらん持って帰るが良い。そもそもそれはワシのもんではない。ワシは魔法はてんでダメじゃ」
あれが遊びかよ……笑えないなぁ。というかこの世界に来て初めて人と会った。この世界の人は皆んなこんなにつえーのかよ。
ブゥが目を覚ましたところで、俺たちは今までの経緯を説明した。
「……とするとお主らは別の世界からやってきたのかの」
俺たちが目指していた壁に囲まれている都市は王都というそうで、この大陸最大の都市だそうだ。
ゼノスはあまり国のこととかは詳しくなかった。ボケてるのかもしれない。ゼノスとは爺さんの名前だ。
驚くことに王都を治めているのは異世界人だそうだ。
「本当にきたばかりで何にもわかんないんだよ」
「そうかそうかならお主たちが……ならワシがお主らを鍛えてやろう!」
一人納得しだすゼノス。
「おぉ! 修行編突撃でごさるね! 一人だけ狼に負けたから悔しかったんでござるよ……二人とも運動神経良くてずるいでござるよ」
「お前も中学三年間ベンチ温め続けた実力出せばよかっただろ」
「誰が年中ホッカイロでござるか!」
パン!
ゼノス手を合わせてると視界が切り替わった。
見渡す限り真っ白。床も壁も天井も……まじで何もねーな。学校の体育館程の大きさの長方形の部屋だ。
「ここの部屋は特別性でな、存分に暴れてもらってかまわん。風呂やトイレなど必要なものは準備してある。では早速……おっとまずはお主らのユニークスキル教えてほしいのじゃ。先程の感じ全員能力持ちじゃろ?」
「ユニークスキルってのは何のことだ?」
「おーそうかそうかまだ自分のステータスも知らんのかお主ら。困ったのぉ基本的にステータスは教会でしか確認出来んからのぉ。まぁよいその都度確認していくのじゃ。
ユニークスキルというのはじゃな、一人一人自分だけが持つ能力のようなものじゃ。この世界ではそういった能力を持つものがごく稀におる。その能力に合った戦い方をお主らには教えていこうと考えておる」
「あーまぁなんとなく心当たりはあるなぁ」
「そして二年後には体の一部を硬くしたり、敵の行動を先読みしたり、雑魚を触らずに気絶させられるようになるでござるね!」
「ここの部屋の一ヶ月は外での一時間じゃ。なのでそんなに時間は過ぎたりせん」
「精○と時の部屋ぶぅ!」
「変なとこ隠さないでほしいでござる!」
この世界は、何かをやればやるだけ熟練度のレベルが上がり成長する世界だそうだ。
なので普通の主婦が地球のプロ並みの料理の腕だったりする。最高じゃねーか。
また、モンスターを倒すことで経験値が貯まりレベルも上がる。
レベルが上がると筋力、体力、魔力などの基礎能力が上昇する。
魔力というのは、基本誰しもが持っているそうで、魔法を使う際に必要になってくる。使っても時間が経つと自然と回復してくるそうだ。
この世界は魔法がかなり発展している分、魔法への対策も進んでいるらしい。
ゼノスはあまり魔法は得意ではないということもあり、修行は体術が主になった。
こうして俺たちはゼノスの指導の元各々の能力を確認し、自分に合った戦い方を学んでいったのだった。