第一話:オタク三人衆①学校の七不思議
「あでぃー、あでぃーよ」
炎天のもとダラダラ歩きながら学校に向かっている。文句を言っても暑さは変わらない。分かっているがついつい声に出してしまう。
あ、自己紹介が遅れた。俺の名前は、新田 聖貴。どこにでもいる高校2年生だ。よろしくな!
「新田氏〜、何をさっきから一人でブツブツ言ってるでござるか? 気持ち悪いでござるよ」
この気持ち悪いメガネは、崎野 勇気。通常ゴザル。語尾が『ござる』という絶滅危惧種的オタクだ。
「今失礼なこと思ったでござるね!」
「何でもねーよ、この暑い中わめくなよ」
勘のいいメガネだな全く。学校まで後もう少しだなと思っていると、後ろからブヒィー、ブヒィーと呼吸音が近づいてきた。
「二人とも歩くのはやいぶぅ、アイス食べたいだぶぅ」
こいつは、黒豚 まひろ。通常ブゥ。語尾が『ぶぅ』というもはや漫画にも出てこないような話し方だ。ちなみに普段親も同じ話し方だそう。
既に食べ終わったアイス5本を片手に、身長190体重100を超えているであろう巨大を揺らしながらやってきた。
アニメのような青春を夢見ていた高校入学当初。あっというまにグループが出来ていき、カップルもちらほら。現実を思い知らされるのに三ヶ月とかからなかった。
「類は友を呼ぶ」とはよく言ったもので、今では、俺とゴザルとブゥの三人、気づけば話す仲になっていた。
その日の昼休みのこと。ゴザルの机の周りに集まり、夏アニメについて話していると、急にゴザルが別の話題を振ってきた。
「この学校に伝わる七不思議って知ってるでござるか? 面白いんでござるよ!」
「花子さんとかそういうやつだろ? どこにでもあるだろ。それともなんだ? 偶数なのに何故か余るとかか? お前の体験談じゃねぇーか」
「全然違うでござる! あ、余ったのはみんな拙者と組むのは緊張するんでござるよ! 全く……馬鹿にしたお返しに、後で筆箱に納豆詰め込んでやるでござる!」
「そんなことしたら、お前メガネ買い替えることになるけどな」
「暴力反対でござる! その無駄に硬い頭をぶつけられるのは勘弁でこざるよ!」
「話が進まないぶぅ、七不思議について話してほしいぶぅ」
話が逸れ出したところで、ブゥのツッコミが入る。
「それが、満月の夜にはバケモノたちが茶会をしている。巨樹の下には死体が眠る。校長室には異世界転移の扉がある。みたいな感じで全然聞いたことないやつばかりでござる!」
「異世界転移! ハーレム作りたいだぶぅ!」
「異世界転移は確かに憧れるよな! 確かに変わっているけど……正直だからなんだって話だな」
「新田氏〜、その頭は飾りでござるか? この学校の裏掲示板には異世界転生に関する書き込みが少なくないんでござるよ! 前々からこの学校には何かあると思っていたでござる! そこでこの七不思議に関して我等で調べてみようって話でござる!」
このメガネは後でシメるとして、確かにこの学校に何かあるのではというのはわかる。
というのも、学校設備へのお金のかけ方が尋常ではない。学生寮の食事はバイキングだし、生徒用のトレーニングジムもある。他にも至る所にお金がかけられている。
それだけならまだ分かるが、あまりにも立ち入り禁止の施設や教室が多い。さらに、警備員の数も。
だからと言って……
「だからってそんなことやろうってなるかよ、小学生か」
「早速今日! まずは、一番わかりやすい校長室からの異世界転移を確認するでござる! 18時に正門に集合でござる!」
おいおい耳くそつまってんのかよメガネ。
「やあっふぅーいだぶぅ!」
「これで二対一でござる! 我等は民主主義! よって決定でござる!」
無茶苦茶いいやがる……と、苦笑しつつも正直真夜中の学校に忍び込むっていうのは少しやってみたかった。
幸い三人とも家は学校のすぐそば。どうせなら楽しむかと思うのであった。
そして夕方。懐中電灯など必要になりそうなものをリュックに詰め、学校に集まった。
テスト期間のため生徒は殆ど残っていない。教師に見つかると面倒だ。俺たちはあらかじめ決めていた図書室にコソコソと向かう。放課後遅い時間だったが、女子生徒が一人残っていた。
まだ読んだことがないライトノベルがないかチェックしながら今後の予定について話す。
暗くなってきたので、隠れて今期のアニメの話題で盛り上がっていると、あっという間に22時を過ぎた。
「それにしても警備員多いなぁ」
何度も巡り会う警備員にヒヤヒヤさせられる。
校長室に向けて歩いている途中、講堂と呼ばれる文化祭の劇などで使われる場所の明かりがついていた。
「こんな時間に怪しい! せっかくだし覗いていくでござる!」
ドアの隙間からこっそり覗くと、そこにはドラ○ンクエストに出てくるような格好をした人たちがいて、何やら話をしていた。
「一人丸々太った奴がいるぶぅ。自己管理がなってないでぶぅ」
「演劇部の練習でござるかね?」
「さぁー?」
声はこちらまで聞こえずすぐに興味を失った俺らは、再び警備員から隠れつつ校長室へと向かった。
「夜の校舎はワクワクするな! ブゥ好きな女の子のリコーダー舐めたりするなよ」
「そんなことしないぶぅ、僕は本人の目の前で嫌がる様子を見ながら舐めるぶぅ」
「おまわりさーんこいつでござる」
「誰かいるのかぁー?」
「「「!!??」」」
タイミングよく警備員が現れて、俺らは慌てて物陰に隠れた。
コツコツコツコツコツ……
足音が近づいて来る! 後ろでもぞもぞ動く二人にジェスチャーで注意すると、ゴザルの奴が変顔で返してきた。
吹き出しそうになるのを必死に堪えた。体が燃えるように熱くなり、変な汗が噴き出てくるのを感じながら、何故か目までつぶって息を潜めた。すぐ側で警備員の気配がする──
どうやら気づかれなかったようで足音が遠ざかっていった……
ハックション!!!!(くしゃみです)
「やっぱり誰かいるなぁ!!!」
警備員が俺らの隠れているところを目掛けて走って来た!
「逃げるぞ!」
俺はそう叫ぶと走り出した。
「まひろ氏ー! 何してくれるでござるか!」
「僕じゃないぶぅ〜」
「どうやらしゃぶしゃぶになりたいようだな! 急げ!」
夜の校舎で突如始まった鬼ごっこだったが、すぐに勝負は決まった。
「ハァ、ハァ、もうダメぶぅ〜、眠ってもらうぶぅ」
そう言ってブゥは立ち止まると、警備員の顔面に張り手をくらわせたのだ。鳴ってはいけない音がして、警備員が崩れ落ちる。
普段はアホだが、ブゥは二年連続相撲インターハイ優勝の化け物である。
「殺ったか?」
「いや殺してたら一大事でござるよ! どのみちこれはまずいでござるね……」
とりあえず警備員をブゥが担いでトイレに置いてきた。
ここまで来たらということで、校長室までやってきた。
「すぐ鍵を開けるでござる! ちょっとまつでご……あれ? 鍵が空いているでござる」
何故か鍵が開いていた。部屋は真っ暗だったので、閉め忘れだろうと考える。不審な思いながら三人とも部屋に入ると内側から鍵を閉めた。
しばらく室内を物色していると、隣の部屋へつながるドアを見つけた。校長室の隣に部屋なんかあったかなと思いながらドアを開けると……その床には、怪しい光を放つ魔法陣のようなものが描かれていた。
おいちょっとこっちきてみろよ! そう言おうと思い振り返ろうとした瞬間……
ゴンッ!
世界が暗転した。
「............上手くいったぶぅ.....」
◇◇◇◇
……どのぐらい時間が経っただろうか。気がつくと野原の上に倒れていた。夜空には星が輝いている。
どうやら本当に校長室から異世界転移してしまったようだ。
何故そう思ったかって? だって夜空には満点の星空と三つの三日月が……まるで笑った人の顔のようにこちらを眺めていたのだから。
○持ち物
新田 ・・・携帯、財布。
ゴザル・・・携帯、懐中電灯、ピッキング一式
バック、ラノベ…… 。
ブゥ・・・バック、爆弾おにぎり10個、分厚い本。