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メガネチャンダイオー、まだまだ出ない編

 そんなダラダラ、ときどき来客の日々を過ごしていると、今度は騎馬の集団が現れた。スーパーマーケットのバックヤードでメガネちゃんと「子育てのストレスに疲れ果てたヤンママ万引き犯と凄腕万引Gメンごっこ」をしているときのことだった。


 全身を金属鎧に固めた、いかにもファンタジー騎士様な出で立ちだ。このショッピングセンターの中は空調が効いているからいいけれど、外は寒暖差が相当に激しい。そんな全身金属鎧で大丈夫なんだろうか。あたしだったら、昼間なら2時間以内に熱中症になるし、夜なら凍え死んでる自信がある。


 騎馬集団はショッピングセンターから少し離れたところに留まると、一騎だけ長槍に旗みたいなものを付けた騎士がショッピングセンターに入ってきた。エントランスの広場まで進み、例によって「ほんげなんとか……」みたいな大声を張り上げたけれど、面倒なので今後は翻訳済みの日本語で書くことにする。


「頼もう! 貴様らは我ら正統なる第二中央帝国直臣、東部瘴気領域伯リッシュバイゲン卿の権地を不当に占拠している! いますぐ両の手のひらを隠すことなく我らに明かし、身を包むものをすべて我らに差し出すならば、これまでの非理は捨て置き、臣民として郷に組み入れることを約束しよう。返答やいかに!?」


 うん、翻訳されてるけどよくわからない。メガネちゃん解説によると、「無条件降伏して全財産差し出せやオラァ。その後も悪くはしねえからよ……ぐへへ」という意味だったらしい。要するに、この辺の偉い人が金のなる木を見つけたからたかりに来た……ってことでいいのかな?


 普段ならここでドラちゃんたちが出撃してつまみ出すところだけど、不思議なことに何も起きない。というかメガネちゃんが指示を出さない。何か小声でつぶやいている。「やっぱりこういうイベントあるよね……。そろそろ示しを付けた方がいいタイミングかなと思ってたし……」なんか怖い。


 何の返答もなく静まり返ったエントランスで居心地が悪くなったのか、やってきた先触れの騎士はしばらく周りをうろちょろして観察したあと、こう叫んだ。


「次の雷鳴の刻までに返答なくば、この遺跡を接収する! 我らは正統なる第二中央帝国直臣、東部瘴気領域伯リッシュバイゲン様の誇りし、精強なる万物を突き破る槍の穂先団一千五百騎なり。我らが槍の血錆となりたければ沈黙を保つがよい!」


 翻訳されてもやっぱりわからん。メガネちゃん解説によると、「降伏しないと実力行使で皆殺しだよ」という意味らしい。なにそれ超怖い。


 ところで、一千五百騎だとか言ってるけど、どう見たって向こうは百人もいない。こっちをビビらせるために盛ったんだろうけど、盛り過ぎは逆効果じゃないかなあ。


「まあ、無いとは思うけど、伏兵の可能性もあるからね。上限千五百人だと思って対応した方がいいよ」


 と、メガネちゃん。いやいや、こっちは女子高生二人だよ? 千五百人どころか一人の成人男性だって相手にするのは厳しいよ? もうちょっと危機感的なアレが必要な気はしなくもないんだけれど。


「ふふ、大丈夫。こんなこともあろうかと……準備しておいたの」


 メガネちゃんはメガネの奥に妖艶な笑みをたたえつつ、スーパーのバックヤードを出てショッピングセンターの通路に出て、その一角にある防火扉をおもむろに開いた。いや、たしかに防火扉で侵攻は多少防げるだろうけど、追い返さないと根本的な解決には……って、あれ?


 《なんでも揃う銃砲店田中屋 ~三八式歩兵銃から対物ライフル、大陸間弾道ミサイルまで取り揃えております~》


 防火扉を開くと、そこは銃砲店でした。モデルになったショッピングセンターには当然銃砲店なんて存在しない。これは完全にメガネちゃんによる追加設定だ。


「ショッピングセンター転移だからさ、てっきり初手はゾンビの大群とかかなと思ってたんだけど……人間の軍隊っていうのもありだよね」


 ありとは?


 メガネちゃんは銃砲店田中屋のカウンターにいる田中さん(仮名。見た目は一般ドラちゃんと差異がない)にあれこれ注文をし、銃火器を受け取っていく。全長30センチくらいありそうな拳銃にはじまって、銃口が二つ並んだショットガン、戦争映画の兵士が持ってそうな突撃銃に、肩で担ぐロケット砲。その他諸々ををショッピングセンター仕様の大型カートに載せて、メガネちゃんはエントランスに向けて勢いよく走り出した。


「いやさ、ナーロッパ転生だから魔物とかアンデッド相手はあると思ったけど、考えてみたら人間の軍隊相手っていうのもあるよね? こっちは何にもしてないんだから正当防衛だよね? だから、仕方がないよね?」


 ちょっとよくわからないです。っていうかナーロッパとか言っちゃいけない。


 エントランスに着くと、ドラちゃんたちが半円状に並んでいた。エントランスから出っ張る形で、ショッピングセンターの出入り口を完全に塞ぐ陣形だ。いつの間にか迷彩服に衣装チェンジしたメガネちゃんが中央のドラちゃんに背中を引っ付ける。あたしもそれに倣ってドラちゃんの一体に背中を預けた。


「そろそろ雷鳴の刻ね……準備はいい?」


 なんの準備でしょうか?


 ドッゴーン! という轟音と共に、東の空が真っ白に染まる。この季節は東西南北で(おそらく)決まった時間に雷鳴が轟き、それがこっちの世界での時間の基準になっているらしい。


 さっき先触れの使者に来た、リッツなんとか騎士団の人がまた前に進み出て、口上を叫ぶ。


「東の雷鳴の刻は来た! 貴様らの返答はいかに!?」


 迷彩服モードから古代ローマ巫女風に衣装チェンジしたメガネちゃんが、背を預けていたドラちゃんの頭頂に上って叫び返す。


「雷鳴に慄き震えるのはよちよち歩きの幼児と、哀れな六ツ足に跨るなまくら槍の騎士もどきとだけと知れ! 惰弱な貴様らがクソ重たい甲冑を着込んでいるせいで、馬たちが重い重いと嘆いておるぞ!」


 よく見てなかったけど、騎士団が乗っている馬は六本足だった。さすが異世界、馬も一足違うぜ。あと、メガネちゃんがめっちゃ煽ってるのもわかった。それから、騎士団の人たちが鉄兜の上から血管が浮き出るくらいブチ切れてるのもなんかわかった。


「槍の穂先団、突撃! 神人を僭称せし瘴気まみれのエセ人どもに我らの聖なる槍の鋭さを見せつけてやれ!!」


 騎士団のリーダーっぽい人が叫ぶと、土煙を巻き上げながら全身鎧で身を固めた騎士たちが押し寄せてくる。あ、ちょま、これめっちゃ怖いんですけど。助けを求めてメガネちゃんに視線を送ると、


「……とりあえず威嚇射撃からだよね」


 メガネちゃんはぶっとい筒状のものを肩に担いでました。なんていうんだっけこれ、ロケット砲? バズーカ? あ、RPGだ、たしか。


 答え合わせの前にズドーンと言う轟音と共に筒が火と煙を吹く。そして突撃してきた騎士団の目の前の地面が吹き飛ぶ。六本足の馬たちがヒヒーンと棹立ちになる。あ、馬のお腹、カブトムシみたいでキモい。よく見たら足も昆虫ライクですね。


 騎士団の突撃は完全に収まった。馬がビビって進めなくなったようだ。落馬した騎士さんたちが地面でうめいている。めっちゃ痛そう。


「わかったか! いまのは警告だ。次はぶち当てる。粉々に砕いて丁寧にかき集めてから肉片を余さず貴様らの遺族に送ってやろう。その程度の慈悲も我らにもあるのだ。さあ、次の突撃を待ってるぞ? ハリーハリーハリーハリー!!」


 どうしよう、メガネちゃんがめっちゃアガってる。超アガってる。というかキマってる。ガンギマリだ。


 メガネちゃんの煽りに対して、騎士団たちはすっかり逃げ腰だ。落馬した仲間たちを引きずりながら、ズルズルと交代していく。


「貴様らが我らをまちゅ……まつろわぬことはよーくわかった! 今回は所詮、先遣隊よ。貴様らが戦術級魔術を用いることは理解したし、貴様らが我らにしたがゅ……従うつもりがないこともよーくわかった! いつちゅ……五つか六つの雷鳴の後、貴様らに訪れるのは破滅でしかないぞ!」


 騎士団のリーダー的な人が口上を述べると騎士団の人たちはすごすごと逃げ帰っていった。まさしく、効果音をつけるなら「すごすご」がぴったりな煮え切らない逃げ方だった。女子高生二人にワンパンで追い返されるのはさすがに納得がいかなかったんだろう。私はずっと隠れてたから見えてないだろうけど。あと、めっちゃ噛んでたよね?


 そんなこんなで第一次ショッピングセンター前異世界戦争は幕を閉じた。私的な発見としては、メガネちゃんは怒らせたらマズそうという点だ。今後は絶対怒らせないようにしよう。っていっても、いままで喧嘩することなんて一回もなかったけど。


 あの騎士団たちも捨て台詞を残していったけど、さすがにワンパンで逃げ出した程度の戦力なのだ。雷鳴5回か6回くらいでまた攻めて来れるほどの根性はないんじゃないかな。

3000字強くらいで区切ってみてるけど、読み心地がどうなるかどうにもわからンヌ

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