表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巨大汎用人型決戦ショッピングセンター・メガネチャンダイオー  作者: 瘴気領域


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/4

メガネチャンダイオー、まだ出ない編

まだ出ません。

 この世界に転移して、一体どれくらいの年月が過ぎたんだろう。


 空を見上げると複数の太陽が輝き、それがやはり複数の真っ黒な球体とせめぎ合っている。この世界は四六時中ずっとぼんやりと明るくて、それが変わるのは雲で空が覆われるときだけだ。そのせいで、「一日」という感覚がなくなってしまう。


 ショッピングセンターに付属してきた各種の時計もどうやらおかしい。いろんな時計を並べてみたけど、アナログ時計は一秒を刻むペースが違うし、デジタル時計なんかは「菴墓腐/縺薙 l縺瑚.ェ:.ュ繧:√.k?」みたいな表示に文字化けしててはっきり言って怖い。はじめて見たときは思わず蹴り飛ばして破壊してしまったくらいだ。


 とはいえ、もう時間なんて気にする必要のない生活になったのだから、いまが何時で今日が何日かなんてすぐに問題にならなくなった。毎日眠くなるまで本を読んで(メガネちゃんは活字の本を読んで、私はだいたい漫画を読んでる)、家具売り場のベッドや漫画喫茶の仮眠スペースで寝ていたりする。たまにダンボールで作った秘密基地で寝ていたりする。率直に言って楽しい。めっちゃアガる。


 食事に関しても完璧だ。ショッピングセンターに入っていたフードコートもレストランもそのまま移植されている。これらは前の世界のショッピングセンターと同期させてるそうで、日替わりメニューは毎日変わるし、ときどきテナント自体も変わったりする。


 いつでもなんでも好きなものを食べられる設定にもたぶんできたのだろうけど、メガネちゃん曰く、「想像力が尽きたら決まりきったものしか食べなくなってきっと飽きる」ということで、あえてこういう仕様にしたんだそうだ。メガネちゃんの言うことは高度すぎて、あたしには理解しきれない。


 あ、あたしの一人称もメガネちゃんの指導によって「わたし」から「あたし」に修正された。メガネちゃんの言うことには、この世界は神様的な存在が趣味的に作ったものだそうで、平凡でつまらないものだと思われると万一のときに不利に働くかもしれないから、多少でもキャラが立つようにした方がいい、ってことだった。よくわからないけど、「万一のとき」ってのが怖すぎる。


 若干の不安要素はあるけれど、おおよそ不満のない、だらだらとした日々を送っているあたしとメガネちゃんだけど、そんな退屈にして平穏な毎日にささやかな変化を与えてくれるのが旅人の存在だ。


 このショッピングセンターは瘴気領域という不毛の地の中にあって、めったに人通りはないのだけれど、「冒険者」という人々がたまーに迷い込んでくるのだ。冒険者って、めっちゃテンプレファンタジー。


 いまのところ、迷い込んできた旅人は大歓迎する方針である。別に不満があるわけではないけれど、毎日本を読んだり、映画を見たり(このショッピングセンターはシネコン併設だ)、スポーツアミューズメントパークで身体を動かしたりはしているのだけれど、結局あたしとメガネちゃんの二人だけなので、どうしてもマンネリになることは否めない。旅人という異物はそんな日々に刺激を与えてくれるスパイスってわけなのだ。


 最初の旅人に出会ったときはさすがにビビったけどね。だって、全身砂だらけでボロボロの服装をした集団が「ほんげりおん! じゃばばん! しゅんげすとりなすはんふるい!」みたいなことをみんなで叫んでんだもん。ホラーだもん。


 初対面で言葉も通じない集団にあたしがビビって硬直していると、助けてくれたのはドラム缶に腕を生やしたようなロボットだ。これもメガネちゃんがショッピングセンターの付属物としてリクエストしたもので、施設の整備や清掃、料理のサーブなんかをしてくれる。超有能なメイドってかんじ。


 あたしはこれに「ドラちゃん」と名付けた。誰かに怒られそうな気がするが、青くないし狸型でもないからきっと大丈夫。ちなみに足はなく、地上から3ミリほど浮いて滑るように移動している。


 ドラちゃんは硬直しているあたしと旅人集団の間に割り込むと、腹に響くような低い声で言った。


「ほんげだす。じゅばりやがん。ゆーげ、じゃがりなす、おんららぉん」


 いや、だからわからんて。


 旅人の集団は明らかに困惑しているようだった。そして周囲を見渡すと、無数のドラちゃんに囲まれていることに気が付き硬直した。よし、硬直仲間が増えたぞ。


 そこにさっそうと現れたのがメガネちゃんである。いつもの三編みに、いつものメガネ、そして古代ローマ人が着てそうな真っ白なトーガを身体に巻き付けている。いや、なんでだよ。


 メガネちゃんは荘厳な雰囲気を醸しつつ、荘厳な声で言った。


「ほんげだす。じゅばりやがん。しゅんげ、じゃがりなす、ふんどすこす。なーたるはげーする、めったすりになりらがん。うごーい?」


 いや、だからわからんて。でもメガネちゃんはなんというか神秘的な美人さんなので、なんか妙に絵になる。


 あとでメガネちゃんに教わったところによると、現地語で「ここどこなん!? 瘴気領域にこんなんあるのおかしない!?」ってパニクってた旅人たちに、「えーから落ち着けや。ここは神域みたいなもんで、きみらが悪させん限り歓迎するで」というかんじのやり取りをしてたそうだ。


 旅人たちはめっちゃビビりながらもフードコートで現代日本食を味わい、スーパー銭湯で汗を流し、マッサージチェアでまどろみゲーセンで遊ぶとすっかり警戒心を解いた。いや銭湯に入ってる時点でもう警戒心なかったと思うけれど。


 メガネちゃんが彼らの言葉を理解し、また話せたのはやはりドラちゃんのおかげだった。耳にぶら下がった、イヤリングのような小さいドラちゃんが聞いた言葉を翻訳し、首にぶら下げたチョーカーのような小さいドラちゃんが話す言葉を翻訳したそうだ。ドラちゃん万能すぎる。


 ずっと謎言語の応酬を聞いているのもつらいので、あたしもミニドラちゃんセットをメガネちゃんからもらった。初対面の人とか超怖いし、あたしは基本聞き専だけど。


 旅人たちは体感で三日くらい滞在したあと、再び瘴気領域へと旅立っていった。「一生ここに居残る!」と主張した人たちも数人いたみたいだけど、「一生は無理やで。調子乗んなやオラ」というメガネちゃんの言葉に一蹴されていた。旅人たちのリーダー的な人も、「この安逸は毒になり得る。神人以外は長居すべきでない」とかなんとか言ってメンバーを説得していた。あれ? あたしたち神人なんて設定になってるの?


 ともあれ、現地人とのファーストコンタクトを済ませてしばらくすると、旅人たちが来る頻度が明らかに増えた。体感的には月イチペースだろうか。最初の旅人たちから評判を聞きつけたらしい。ひっきりなしに来客が続くとうっとうしいので、そんなときはメガネちゃんがショッピングセンターを不可視モードにしてやりすごした。不可視モードて。そんな機能まであったのか。


 あたしには初対面の人と打ち解けて話すなんて高度なスキルがセットアップされていないので、遠間から聞き耳を立てたり、監視カメラ越しに得た情報だけれど、どうもこのショッピングセンターは「瘴気領域の神域」だとか、「忘れられた創世神の遺跡」だとか言われて、冒険者ギルドなるところで特級捜索対象として認定されているらしい。


 ここから何かを持ち帰ると、しばらくは遊んで暮らせるくらいの大金が手に入るそうだ。ときどき何かを万引して帰ろうとするやつらがいたけれど、そのせいか。普通に過ごしてれば適当にお土産渡して帰してあげてるのに。ちなみに、万引したり乱暴したりするような不埒者はドラちゃんたちが引っ掴んでどこかに連れ去っている。どこに行ったかは知らないしメガネちゃんにも聞かない。なんか怖いし。

同一世界を舞台とした話を「瘴気領域」シリーズとしてまとめています。

https://ncode.syosetu.com/s3806g/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ