5-2 私の名前はアリスじゃない、アリスティアだ!
なんか金髪ツインテの女の子が私に突っ掛かってくる……
「あなた、本当はEランクじゃないのでしょう? 私に嘘を付いていたのねっ!」
ビシッと指差しながら、私にそう指摘してくる金髪ちゃん。
なんというか、面倒くさそうなのに絡まれてしまった。
正直もう帰りたいし、勘弁してほしい。
「私がEランクなのは本当だし。それに、心配しなくても、多分あなたの方が私よりもずっと強いよ?」
私は本心でそれを言う。Eランクで最弱なのは事実だ。
たぶんこの子にはHPや魔法力、その他のステータス面でほぼ勝ててないと思う。
Cランク間近だって言ってたし、間違いなく才能もある子だろうし。
まあ同い年の女の子だし、力だけならもしかしたら勝てる可能性もあるかもしれないけど。
「そう。ならステータスを計ってもらって、私にそれを見せてもらえる?」
「べつにいいけど…… それ、私にメリットは?」
そう聞き返すと、金髪ちゃんは「うーん…」と唸り始めた。
ステータスなんて基本的に他人に見せびらすものじゃない。
気の許した人や、同じパーティーを組んだメンバーにだけ開示するものだ。
いきなり会って見ず知らずの人に教えるようなものじゃない。
「……いいわ。もしあなたが本当にEランクで、ステータスもそれ相応の物だったとしたならば。その時はあなたの言う事一つ、何でも聞いてあげるわ!」
金髪ちゃんがそんな事を言ってくる。えっ、何でも……?
それ、女の子が絶対に口にしちゃいけない台詞だというのに。
思わずこの子の身体を凝視してしまう。
華奢な身体、私と同じくらいの身長、まだ幼い体つき。
魔法使いなのか、筋肉は付いてなさそうで柔らかそうな肉付き。
金髪のツインテールは綺麗で、勝ち気な吊り目だけど可愛らしい顔立ち。
ゴクリと唾を飲み込んでしまう……、いや何考えてるんだ私は。
そういう言葉でそういう事を思い浮かべてしまうあたり、私も少し毒されているのかもしれない。
駄目だ、これはちゃんと注意しておかないと……
「てぃっ!」
「あたっ!? い、いきなり何すんのよっ!」
私は金髪ちゃんの頭にチョップを入れた。
それから金髪ちゃんの顔を見ながら言葉を言い聞かせる。
「女の子が『何でも』なんて口走ったらいけません! 特に、あなたみたいな可愛い女の子はっ!」
「えっ? ……か、可愛い? わ、私が?? ええっと……えっ? ま、まさか『そういう意味』で?…… え、ええ~っ!?」
途端にプシュ~、と顔を真っ赤な茹でダコのように染め上げてしまった金髪ちゃん。
自分が何を口走ってしまったのか、ようやく少しは理解してくれたようだ。
耳まで真っ赤に染め上げながら、あうぅ~……とか言ってる。
それから両手で顔を覆いながら、指の隙間から何故かこちらをチラチラと見てくる。
なんだその仕草は。可愛いけど、それって一体何の意味があるの?
なんで私の方をチラチラと見てくるの?
あたふたしていて話がまるで出来そうにもない。
しょうがないので暫くそのまま金髪ちゃんが落ち着くのを、私は少し待っていた。
**
私と金髪ちゃんはギルド内の測定室の方へ向かって行く。
中に入ると、そこにあったのは“鑑定”の魔道具……
これは翳しただけで相手の力や素早さなどのステータスが表示されるという眉唾のアーティファクト。
うーん、まさかこんな所に前々からずっと私が欲しがっていたアイテムがあったとは。
さすがは王都といった所か……
ただ表示されるのはHPや力といったそういう表面的な部分だけの仕様。
たとえば“私がファイアーボールが使える”みたいな中身までは見抜けないようだ。
まあそれでも充分すごいんだけどさ。
「……さっ、ほら。測ってみなさいよ?」
金髪ちゃんが鑑定の魔道具の側に立って促してくる。
このままEランクであることを証明すれば、大人しく引き下がってくれるのだろうか?
私は魔道具の前に立って、鑑定による測定を行っていく。
名前:クロノ・アリスティア
まずは名前の表示から映し出されてくる。
黙っていても相手の名前まで解析されてしまうなんて、なかなか凄い魔道具だ。
これでは偽名など使っててもすぐにバレてしまうではないか。
「えっと、お名前は…… アリス、ね。ふふっ、可愛らしい名前じゃないの!」
「私の名前はアリスじゃない、アリスティアだ。間違えないでほしい」
全く、誰も彼もがみんなして私の事をアリス、アリスって……
私の名前はアリスじゃなくてアリスティアだ。そう言っているのに、いい加減にしてほしい。
どうしてみんな、こうも間違えてしまうのか。
まあ一部例外的にそう呼んでいるのを許している人物もいるけど、あれは少し特殊だ。
あの人は私に恩を売り過ぎた、ちょっと返し切れない借りとかを作り過ぎた。
だから名前ぐらいまあ好きに呼ばせてもいいかなと思っているだけで、それだけだ。
他の人にまで易々とアリスと言われる筋合いはない。
HP26 MP22 力7 素早さ11 身の守り3
続いてステータスの解析結果も映し出されてゆく。
この表示結果を見ると、前よりも少しだけ数値が上がっているようだ。
やっぱりEランクである事に変わりは無いけれど、まあ以前よりはちょっとでも成長していて安心する。
元々の数値が低い分、1や2の上昇が大きな割合を占めている。
「なっ…… 何よコレ!? わ、私の方が全然ステータスが高いじゃないのっ!!」
対して、金髪ちゃんは表示されたステータスを見ながら声を震わせて驚いていた。
だからそう言っているだろう、私のステータスよりも金髪ちゃんの方がずっと高いはずだって。
良かったじゃないか。自分の方がステータスでずっと強いって分かって。
これで金髪ちゃんの自尊心も保たれたはずだ。
「……これでもういい? じゃあ、私はもう行くからね?」
私はそれだけを言い、そのまま測定室を後にしようとする。
そーと、何事もなく。その自然な流れで退出しようとする。
だけど金髪ちゃんは私が立ち去ろうとすると、透かさず遮ってきた。
「……ま、待ちなさいよっ!!」
うーん、やっぱり駄目か…… まあ見逃がしてくれなさそうな感じはしてたけど。
でもステータスは見せたし、もう私達にこれ以上の問答は無いはずだ。
そろそろ宿も探しに行きたいところ。
「……ええーと、何かな?」
「な、なんでEランクのステータスしかないのにあんなに魔物を倒せてるのよ! おかしいでしょうが!」
金髪ちゃんは詰め寄ってきて私に近付けてくる。
私を問い質す気、満々みたいだ。それはそうと身体の距離が凄く近いんだけど。
「それに、さっき見せたマジックバッグ…… あれ、容量がかなり大きいサイズの物じゃないのっ! なんであなたみたいな歳の女の子がそんな物を持っているのよっ!」
マジックバッグ・中は金貨にして80枚もする高級品だ。
前世の基準で言えば12歳の女の子が800万円もの大金を持っているようなもの。
まあおかしいと言えばおかしいのも確か。
私はエリアボスを倒した報酬・金貨38枚とは別で
毒無効アクセサリー、マジックバッグ中、キュアとリジェネの習得など。
金貨8枚、差し引き金貨72枚、金貨6枚と金貨14枚……
そういった副産物で金貨100枚分の価値の物を上乗せで手にしている。
その中でも特に金貨72枚分の押し売りとか、まあぶっちゃけ有り得ないよね。
「これは妖しい雰囲気のお姉さんに惚れられて、それでなんだかんだで貢がれてしまったアイテムだよ」
「な、なによそれ。まったく意味が分かんないんだけど……」
うん、私も意味が分かんない。
今度いつかルナさんに会う機会があったとすれば、その時には金貨72枚分以上の物をビシッ!と送り返さないと。
たぶんルナさんは受け取りを拒否しそうだけど、それでもその時は頑張って問答無用で受け取らせるしかない。
「用件はそれだけ? なら私はそろそろ本当に行くね!」
私はそう言い、今度こそ本当に部屋から出ようとする。
さっきから身体の距離が近いし、金髪ちゃんの甘い女の子の匂いが漂ってきて変な気分になりそうだ。
膨らんでいる先の部分がお互いに当たりそうになって、それに意識を傾けてしまいそうになる。
「待って! 最後に、一つだけ……」
金髪ちゃんがまだ呼び止めて、その可愛い顔をなんだか赤めながら喋ってくる。
だから、顔が近いって…… これ以上近寄ったら色々当たってしまうってば!
そんなに瞳を潤ませて、こっちを見てこないでよ。
「そ、その…… さっきは疑って悪かったわ。それに、ステータスの方も無理やり見てしまったし…… だ、だから、そのっ! や、約束通り、あなたの言うこと、何でも一つ聞くわっ!」
そう喋りながら顔をどんどん真っ赤に染めてゆく金髪ちゃん。
耳の先まで赤くしながら、そんな事を言ってくる。
うーん、自分の非をきちんと謝れるのはすごく立派なことだけど。でも女の子がそんな事言っちゃ駄目なんだってば。
さっき、そう言ったばかりなのに。
あー、もう・・・
「女の子がそんな事言っちゃったら、こんな事されちゃうんだからねっ!」
私はそう言って、その手と腕を伸ばして金髪ちゃんの華奢な身体を抱き寄せた。
ぎゅーっと抱き付くと、目の前の女の子の柔らかい肉付きが服越しに伝わってくる。
ツインテに揺られた髪からは甘い匂いが漂い、それを呼吸一杯に吸い込んでしまう。
しばらく1分程そうしてから、私は金髪ちゃんの身体を離した。
同い年の女の子をぎゅーって出来てちょっと間の幸せを感じてしまう。
仲の良い友だちとか居なかったから、まるで同級生の女の子同士で気軽にじゃれあっているみたい。
私にそんな親友、似合わないのにね。
「……どう、分かった? 見ず知らずの人に、あんな事言っちゃったらいきなり抱き付かれたりするんだからね! だから特に、男の人には絶対に言っちゃダメだからっ!! ねぇ、分かった?」
私は金髪ちゃんにそう言って聞かせると、「はいぃ…」となんだか虚ろな返事が返ってきた。
大丈夫かな、この子? なんか目の焦点が全然合ってないんだけど。
顔も真っ赤なままだし、少し心配だ。
まだ私が女の子だからこの程度で済んでるだけで、相手が男だったら本当に洒落になってないっていうのに。
自分の可愛さを自覚して、ちょっとは言動には気を付けてほしいものだ。
まったく、無自覚って怖いよね。
金髪ちゃんは暫く正気に戻りそうにもない。
「あうぅ……」とか言ってる金髪ちゃんを後にして、ようやくドアに向かう。
そして私はそのまま今度こそ測定室を出ていった。




