4-1 自由で気ままな一人旅
よくアニメや漫画のシーンであるだろう。
土の魔法使いが、飛んできた魔法や矢に対して咄嗟に土の壁を作るシーンが。
私はその魔法を再現してみようとして地面に向き合っている。
「ストーンウォールっ!!」
勢いよく詠唱をして、土の魔力を放ってみる。
地面はゴゴゴ……とゆっくり隆起して、高さ30cmぐらいになった所で私の魔力が切れた。
なんという低さ、これでは飛んできた矢など全く防げないではないか。
いや、しゃがみ込めばいけるのか? ……いや、ギリギリ無理っぽい。
というか、隆起するまでが遅すぎる。
こんなゆっくり盛り上がっていくような速度で、飛んでくる矢など防げるわけがない。
咄嗟に土の壁を作るとか、どう考えても上級者にしか出来ない芸当のように思える。
『魔法はイメージが大切』だとかいう、あのファンタジーの定番要素は何だったのか?
そもそもの魔力量が少なければどうしようもないのでは?
ただの練習不足感は否めないけれど……
私は地面に出来た高さ30cm程度の丁度良い椅子に座りながら溜め息を吐く。
ストーンウォールの試し打ちをしただけで、残りの魔力は空っぽだ。
少ないMPでは魔法の練習もままならない。
こんな時にルナさんが隣にいれば、ルナさんから魔力を分けて貰えるのに。
『MP譲渡』という技の感覚を思い出す。
あれは、両者のお互いの合意がある上で成り立っていた技だろう。
相手から一方的にMPを強奪するような技は難しい。
ゲームでも『アスピル』なんていう技は、フレアやメテオに並ぶ最上級に位置付けされている技だ。
きっとルナさんでも、MP譲渡は出来ても、MP強奪の方は出来ない。
MP強奪は難しい…… 生きてる魔物から、その意思とは無関係に強制的にMPを奪い取るのは至難……
ならば、生きてない魔物なら? 意思の無い、たとえば、只の物だったなら……?
私はマジックバッグから魔物を倒した時に入手した魔石を取り出す。
魔石は魔力の塊だ、石のような媒介に魔力が凝縮されていて魔物の核となっていた物。
魔力が欲しいのならば、此処にあるじゃないか。
私はルナさんから受けた時のMP譲渡の感覚を思い出しながら、魔石を両手で握り包む。
あの色々と強烈だったMP譲渡の感覚は、今でも色々な意味で忘れられそうにもない。
その感覚の通りに、私は魔石から魔力を自分へと移そうとする。
生きてる魔物から、強制的に魔力を奪おうというわけではないのだ。
決してそんな高度なテクニックを試そうとしているわけではない。
ただ、意思の無い魔力の塊の石から、その魔力を移そうとしてるだけ。
そして焦る必要も、素早くやる必要も、全くないのだ。
ゆっくりと、失敗も何も気にせずやればいい。
時間も何も、気にする必要はない。
・
・
結論から言うと、このMP移行の試みは成功した。
ただ、移行されるスピードが10分間にMP1ずつ…… という超低速ではあったのだが。
自身の最大値の少ないMPをフルに回復させるのに3時間以上掛かるという結果になった。
この速度では戦闘中に使うのはまず無理だろう、大人しく戦闘中は必要な場合に応じて魔力回復ポーションを飲むしか無さそうだ。
魔力を吸い取った後の魔石は、色を失ってただの石ころのようになっていた。
これはもうギルドでも買い取ってもらえないだろう。
価値の高い魔石ほど、やっぱり吸い取れる量は多そうだけど。
銀貨5枚の魔力回復ポーションよりも、銀貨1枚程度の魔石から魔力を回復させた方が安価ではある。
だけどその回復スピードは鈍足を極めてる……
宿屋で1日1度の睡眠回復するよりも、一応は早いが。
慣らしていけば、この回復するスピードももう少し早く出来るようになれるかもしれない。
取り敢えず、目的地に向けて歩きながらで魔石回復をやっていけば良いかという結論に落ち着く。
歩いている間に3時間程度で魔力が全回復すると思えば、まあ以前よりもマシか……
**
街道に出るとモンスターの数は一気に少なくなる。
そして出現するモンスターにしても、大したことのない低級モンスターばかりだ。
Cランク以上のそこそこ脅威のある魔物などは、やはり人通りから外れた森の中などに生息している。
低級モンスターならばミスリル製ショートソードを持っている今、1撃で倒していける。
苦労して高額な剣を買った甲斐があるというもの、爽快なモンスター退治が出来ている。
初級モンスターなど、出現すればただの稼ぎとしか思えない程だ。
ここは街道とはいえ、それが綺麗に整備されているわけでもなく、雑な道が続いているだけ。
一応は馬車が通れるような道ではあるのだが、山道の砂利道と変わりないような物。
モンスターがいる世界なんだからまあそれも仕方ないのかもしれないけど。
この世界には色々な国がいる。
エルフの国に、ドワーフの国、妖精の国に、獣人の国、そして、人間の国……
ゲームの主人公ならば、それぞれの国を訪れて武器や加護、奥義の習得などをするのかもしれない。
強い装備を整えるのならば、ドワーフの国だろう。
だけど今の所、別にゲーム中の最強装備とかを作りたいわけでもないし、そんな資金があるわけでもない。
金貨を何千枚だか積んで、オリハルコンだかの金属を何処かから取ってきて……
そんなレベルに今の私がいるわけでもない。
だからドワーフの国なんて後ででもいい。
今の所、一般市販されてる中でも相当な高品質武器であるミスリル製ショートソードで充分だ。
ドワーフの国なんてゲーム中最強装備なんてものを求めるような段階になってから訪れればいいだろう。
エルフの国は排他的だし、興味があっても近付けない。
森に近付けばエルフたちが樹々の上から弓を構えてて、「森から出ていけ…」とか言っているような場所だ。
あんな根暗な種族に近付くには何かしらの伝手とかが必要だ。
妖精の国は何処にあるのかも分からない。
獣人の国は脳筋たちの集まりだ、強ければそれでいいみたいな場所。
今の所、私が行くような場所でもない。
真っ向勝負を好む相手に、絡め手で倒しても認められないだろう。
仮に闇から麻痺霧で攻撃すれば倒せそうでも、それで卑怯者だと言われたらそれまでだ。
メルちゃんみたいな子がいっぱい…… そう思えば、まあいつかは観光に行きたいんだけど。
あとは、竜族の谷…… それと、魔物の村とか。
うん、まあ難易度が高い場所しか残っていない。
結局、私は消去法で今は人間の国にしか旅の選択肢がないのだ。
その人間の国の王国に、私は追い掛け回されているわけなんだけどね……




