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立ち向かう赤髪少女  作者: 雪氷華
商業都市と毒霧の森
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3-49 ミネアさんの正体


闇が辺りを包み始めた中、森の夜を過ごす為の準備をしてゆく。

周りを岩の壁で包み、侵入者を拒む隔たりを即席で仕上げてゆく。

半径10mの探知の魔道具を眺めながら、身体を休ませてゆく。


あれから、皆と別れてから森の中に入りモンスターの彷徨う中で静かな夜を迎えた。

朝日が出ればこの森を抜けて、一般の旅人が使う街道に出る予定だ。

土の魔法で壁を作れるようになって、初めて安心してこの森の夜を過ごせるようになる。


穏やかな闇の中、心地良い空気を深呼吸で吸い込んでゆく。

夜の森の静けさに気持ちの模様を重ね合わせていく。

しかし、その静寂を打ち破る訪問者がやって来る……


「アリスティアさーん、私です! 入れてくださ~い!!」


壁の向こう側からミネアさんの声が聞こえてくる。

森の暗い深淵を越えてこの場所へと辿り着いてきた訪問者。

その声を聞きながら、「やっぱり来たのか……」と私は軽く溜め息を吐くのだった。



**


水の魔法で身体を拭きながら、その訪問者に問い掛ける。

結界を張ったから探知の魔道具は見なくていい、と述べる訪問者を。

森の夜中だというのに、何の気負いもなくリラックスしてる様子は流石といった所か。

自分の張った結界に絶対の自信を持っているからこその余裕の表れだろう。


「……それで? 一体何の用で夜中に私を訪ねて来たんです?」

「またまたぁ、アリスティアさんなら言わなくてもおおよそ分かっているでしょう?」


やれやれ、と肩を竦めて呆れたような仕草をするミネアさん。

夜中だからテンションが上がっているのか、もしくは本性を見せに来たのか。

ここは教会でもない、そして周りの誰の眼もない、闇と岩に囲まれた私たち2人だけの密かな空間。


「……教会には属しませんよ?」

「そうは言っても、アリスティアさんは国から追われてますよね? 私たち教会の組織に属せば、色々と庇えますよ?」


ミネアさんの言う通り、教会は国とはまた違う独立した権力を持っている。

国から追われていても、教会が匿ってしまえば簡単には手を出せない。

ただそれは、私が何も無いただの一般人だったらの話だ。


「……神様と敵対している私が、その教会とやらに素直に受け入れられるとでも?」

「そこは実力でなんとかするんですよっ! アリスティアさんなら本気でやれば、どうとでもなるのでは?」


良くも悪くも、実力次第で神官や司祭になれる可能性があるのが教会だ。

問答無用で断罪しに来る王国よりか、まだ確かに幾分マシと言えばマシなのかもしれない。

光属性に大きな適正があるとも目の前の人から言われてるし。


「……どっちもどっちですね。普通にどっちもお断りですよ」


まあだからといって教会になんか所属するつもりはないけれど。

今のままが一番だし、ミネアさんだってそんな事は分かっているはずだ。

教会だって私と敵対している勢力の一つにしか過ぎない。


「うーん、まあ一応聞いてみただけなんですけどね。教会なら、どうかなーと思ってみただけですよ」


教会の内部に侵入し、教会の意識改革を内側から進めてしまうのも一つの手段で方法なのかもしれない。

上手く立ち回れば教会から神様至上主義の意識感をブチ壊し、奴への信仰心を減らせるかもしれない。

神様への嫌がらせとしてはそれもアリだろう。


性に合わないから、政治関係ルートの攻略なんかしないけどさ。


「信仰心を減らせれば、神様への嫌がらせになる──か……」


世界中に生きる人々が、みんな自力で立ち上がってくれたらいいのにね。

思考放棄で神様を信仰し、操り人形のままでいることは楽なのかもしれないけど。



**


「それにしても…… 見事な岩の対策ですね。結界で覆っているのと変わりない出来映えです」


岩の囲いを見ながらミネアさんが感嘆の声を洩らす。

適当な岩をマジックバッグに収納してきて、周りに並べただけの囲い。

土の魔力でそれらを固定して補強すれば即席の壁囲いの出来上がりだ。


「旅をするに当たって、アリスティアさんには結界の手解きが必要かと思いましたが…… 結界の習得は相当に困難です。でも、べつに結界など無くてもあなたなら大丈夫みたいですね」


夜の森を抜けるための手段、その最も単純な方法は結界の習得だ。

だけど結界など無くても同じような事は再現できる。

習得の困難な結界という上級魔法を必ずしも覚える必要は無いだろう。


「それにしても、今宵は綺麗な月明かりですね……」


夜空に浮かぶ疎らな雲と月を見ながら、ミネアさんが呟く。



静かな森の上には数々の星が煌めいて、夜の空を彼方に描いている。

月明かりを浴びながら星空を眺める彼女は綺麗で、神秘的にも見える。

水で身体を流していく姿は切り取られた絵画のようでもあった。


「あなたは世界中を敵に回している…… どの所属する勢力でも、あなたには何かしらの敵対性を持っている……」


星空を眺めながら語らいでゆく彼女の言葉を聴いていく。

そこにはシスターとしてではなく、ただのミネアさんという人がいた。

教会としての義務や信念とは別の、一人の彼女という存在がいる。


「でも、一つだけ。あるでしょう……? この世界で、あなたを全面的に受け入れてくれそうな勢力が」


ミネアさんの眼がこちらを見て、瞳を向けてくる。

妖しく月明かりを灯したその瞳は深い海のように漂っている。

その表情は昼間見せたことのないような顔をしていた。



「魔王軍……」


「そう、魔王軍ならば、アリスティアさんを全面的に受け入れてもらえるのでは?」


魔王軍は、人類を滅ぼそうと勢力を伸ばしている。

だけど、本当は、本当の目的は人類を滅ぼすことなんかじゃなくて……


「魔王が人類に侵攻しているのは、単に信仰心を減らすために、信仰する全体数そのものを減らそうとしてるだけ。本当の目的は、この世界の神を打倒する事」

「そうです。魔王の本当の目的は人類制圧などではなく、神様への反抗。この世界の真実を知っているのは、魔王も同じですから」


きっと世界に縛られていて、それを必死に抜け出そうとしてるのは魔王側なんだろう。

人類は神を信仰しているから邪魔なだけ、だから排除したいだけ、ただそれだけに過ぎない。

世界の真実を知っているからこそ、そういう行動に出ている。


私と本質的な目的は同じだ。

真実を知っているからこそ、そういう行動を取ることも。

私はまあ、人類を滅ぼそうなんて事、全く考えてないけれどさ。


「……魔王軍に入るための伝手なんて、今の所無いですけどね」

「では、こういうのはどうでしょう?」


ミネアさんが私の姿を見ながら語り掛けてくる。



「私の正体は、実は魔王軍の六魔将が一人、サキュバスなんですよ! そして、アリスティアさん。あなたを勧誘しに来ました」


ミネアさんが何処と無く冗談っぽく、そんな事を言ってきた。

それは嘘か本当なのか見分けが付かないような喋り方だ。

仮に本当だとしたら、少し色々と聞きたいことはあるのだけども。


「えーと、、魔王の配下さん? それが、街中で光属性の魔法を使ってシスターをやっているの?」

「アリスティアさんだって、闇属性持ちなのに光魔法に適正があるじゃないですか!」


「六魔将さんとやらが、人間社会で何やってるの?」

「潜入ですよ、潜入! 教会の内部から色々事情捜査ですよ!」


「全然、悪い人には見えないんだけど……」

「それは…… えへへ♪」


どこまでが本当か分からないけれど、一応は六魔将とかいう話で設定を通すつもりらしい。

本当かは分からないけど…… その大きな胸を見る限り、サキュバスとやらには説得力がある。

いや、胸の大きさで判断するのもどうかと思うけどさ。


そういえば、ルナさんがミネアさんに何気なく言っていたな。

「シスターの皮を被った肉食獣」だって。



満天の星々が夜空を埋め尽くす中、静かな闇夜は更けてゆく。

結界と岩に阻まれた拠点に侵入してくる者は他に現れない。

教会の眼にも触れない場所で、二人だけの秘密の時間を過ごしてゆく。


私は魔王軍からの勧誘とやらもお断りし、結局どこにも所属しなかった。

ミネアさんはそんな私を見て、何故かどこか安心したような顔をしていた。

それはそれでいい、それでこそアリスティアさんだ、と。



翌朝に目を覚めると、ミネアさんの姿はどこにも見当たらなかった。

結界だけはそのままで、夜明けの朝日を迎える前に早々と出立したようだ。

私に置き土産までして。


▽ 私は光魔法、キュアを習得した!!

▽ 私は光魔法、リジェネを習得した!!



教会の眼に触れない所で、善意の無償で魔法の習得をさせてくれた。

なんだかんだとやっぱりミネアさんは慈愛に満ちた気優しい女の子なんだと思う。

一応、結界魔法の手解きも受けたのだけど、こっちは一朝一夕では難しそうだ。


眠る気の無かった夜の森を、結界とミネアさんのおかげでぐっすりと眠り、朝の目覚めは良い。

このまま森を抜けて街道に出れば、王都へと続く道に出れる。

王都に辿り着ければ、また新しい冒険が待っているだろう。


**


私は一度、振り返って街の方角を眺める……


あの商業都市でも様々な事があった。

初めて来た時は、金貨1枚すらも持っていなかった。

弓矢を買って、トラップモンスターに苦しんで、それから……


色々な苦難もあったし、楽しいことや辛いこと、幸せなこともあった。

それらを乗り越えて、また新しい土地へと旅立ってゆく。

自由という名の私らしさと、胸に秘める一つの気持ちを込めて。


思い出と共に、商業で栄えていた都市を後にする。

そして、私の仲間たちを思い浮かべていく。


それらを記憶に刻んで、また再び歩み出してゆく……

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