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立ち向かう赤髪少女  作者: 雪氷華
商業都市と毒霧の森
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3-45 最後の時間


目が覚めたら知らない天井…… ではないな。

ここはルナさんの私室、お店の2階にある部屋。

どうやら無事に連れ帰ってきてくれたみたいだ。


「おはよう、アリスちゃん。ようやく起きたのね」


声の主の方を振り向くと、ネグリジェを着たルナさんがいた。

普段の魔女姿とは違う、その魅惑的で扇情的な姿に思わず息を呑んでしまう。

私は咄嗟に自分の姿も確認すると、自分も着ているのは薄い下着一枚だけだった。


まあこうなる事はある程度分かっていたし、別に良いんだけどさ……

これは最初から折り込み済みの、想定の範囲内ってやつですよ。


「連れて帰ってきてくれて有り難うございます。何か変わった所はありました?」

「外の様子は大騒ぎよ。誰がエリアボスを倒しただとか、戦闘が今まで通りに行われないだとかで……」


んー、どうやらエリアボスの討伐の件は毒霧が晴れたことで既に知れ渡っているらしい。

誰が討伐したのかを一目見ようとするために、ギルドにも人が寄って集っているようだ。

これは騒ぎがこれ以上拡大しない内に、早めにさっさと換金しに行った方が良さそうだ。

これ以上時間が経てば話が変な方向に流れていきかねない。


「アリスちゃん…… 私もね、あなたが何を仕出かしたのか。ようやく今になって分かってきたところよ……」


聞けば“ターン制バトル”と“ダメージ固定計算式”。それから…… “マス目移動”の概念も取り払われたらしい。

ターン制バトルは論外として、ダメージ固定計算も本来ならもっとランダムでないとおかしいだろう。

目や心臓などの急所に当たれば大ダメージを受けるのがリアルという現実世界。

ゲームのようにある程度ダメージ量が常に決まっている方が実際にはおかしいのだ。


マス目移動の概念が取り払われたのは…… 戦略的なボードゲーム要素が消えたという事。

まああれもターン制バトルという大前提の上に成り立っていたようなものだから、消えて当然か。

現実世界にマス目なんて区切りは存在しないのだから。


世界を無理矢理ゲーム仕様に強制させていたモノが、消えてなくなっている。

それでもHPという概念、防御力、魔法の威力などはベースとして残るだろう。

ただステータスの数値が確実に絶対ではなくなっただけ。


これで私も、ようやく自由に動ける(・・・・・・・・・・)


「ギルドに換金しに行ってきます。ここに戻ることは、もう無いでしょうね……」


魔法があるだけ充分にファンタジーでゲームっぽい。

私がやりたかったのはもっと自由なファンタジー世界で動くこと。

あんなガチガチのレトロゲーム仕様で攻略なんかやってられない。

自由という無限大にこそ可能性は果てなく広がっている。


「待って! 私も一緒に向かうわ。その方が、色々と安全でしょう?」


私は首を横に振る。これはもっと早めに言うべき事だったのかもしれない。


「ルナさん、私は…… 国から追われている立場なのです。私の味方をするということは、国を敵に回すという事と同義なんですよ。ルナさんは、まだAランクでしたよね?」


ギルドに一緒に行って、この騒ぎの中でルナさんが私の味方をすれば、ルナさんにもその飛び火が降り掛かるだろう。

私はもう、この街で目立つことは避けられない。でも、だからといって誰かを巻き込みたくはない。

やがて後々に私の正体がバレたとして、その時にルナさんが私の味方してたのが分かると色々不味いだろう。


「私が、Aランクだから……? 国を敵に回してても平然としているような、Sランクみたいな強さがないから……?」


ルナさんが俯き気味に、少し悲しそうな眼をしながら問いてくる。

私はそうだ、と答えを頷き返し、ルナさんを宥めた。

ルナさんがもし国に追われた時、今のルナさんでは軍隊などに太刀打ちできない。

私が理由で、私のせいでそんな事に巻き込みたくはない。


「ギルドに行ってきます。それから、準備をしてこの街を脱出します…… 森の入り口で、また会いましょう」


この街とももうお別れだ。長い時間をここで過ごしてきた……

私は森の入り口での再会を約束し、そしてルナさんを優しく抱擁する。

それからこの店を後にした。


**


道交う人々の様子は慌ただしく、いつもと少し雰囲気が変わっていた。

エリアボスを倒した者の噂話、世界のルールが変わってしまった事に対する疑問。

それから、魔族との抗争が激化している等という話……


ギルドに向かう前に、宿屋に寄って挨拶を済ませる。

長い事お世話になったお礼、それから今日で引き払う事。

あと、メルちゃんにお別れの挨拶をするために。


「ゴメンねぇ。あの子は今、新しく入って来たお客さんと一緒に森の中に行っているんだよ」


どうやら留守中のようだ。

新しくやって来たお客さんってどんな人なんだろう?

メルちゃんと一緒にパーティーを組んでくれているというなら心強い。


私は伝言を頼んで、宿屋を後にした。

もし良ければ、森の入り口の方で会いましょう、と。


**


ギルドの建物に入っていくと、中は異様な雰囲気で包まれていた。

明らかな野次馬、興味深そうに周囲を観察してる者、誰か何かを探しているような者……

私が歩いていくと、「いつものEランクか」という視線が向いてくる。


このギルド内は模範と規律が行き渡っており、良くも悪くも事務的な対応をする場所。

わざわざギルド内で揉め事を起こそうとする者はいないし、そういう輩は直ぐに排除されている。

それに、冒険者の大半はCランク以上で中堅に位置する者たちだ。

右も左も分からない、社会の仕組みも分かってないような粗野な初心者クラスとは違う。


カウンター前に行き、一つ深呼吸をする。

これを目の前の者に渡せば、私は後戻りが出来なくなる。

・・大丈夫だ、少なくともこの“ギルド内”だけは問題なくクリア出来る。


「エリアボスを倒してきました。買い取りをお願いします」



そのEランクが放ったその言葉に、ギルド内にいた全員の冒険者たちが振り返った。

まさか、という声と、有り得ない、という声。

何の冗談だ、と顔を顰める者や、怪訝な表情をする者。


しかしその冒険者は大きな買い取りカウンターの前で、その素材を取り出す。

巨大な体躯、鋭い肉体、そして……

それを見た事のある者は、叫び出す。


「エリアボスだ、間違いねぇ! あの体躯はあそこの森に君臨していたボスに間違いねえよっ!!」


一人だけではなく、他にもエリアボスを見た事のある者たちが同じように騒ぎ出した。

この言葉を受けて、ようやく他の冒険者たちもそれが真実である事を理解していく。

走り抜ける衝撃、迸るような熱狂、その興奮が辺りに伝播してゆく。


エリアボスの討伐はギルドにとっての快挙だ。

それは冒険者たちの力を示す事にもなるし、事実的に周辺の驚異が一つ減る事にも繋がる。

現に、毒霧と呼ばれたエリアは霧が晴れて探索しやすくなった。

これは街の人達の安堵と、現実的な利益に繋がってくるだろう。


ただ、一つ懸念があるとすれば・・

それを持ってきたのが一人だけ、それもEランクの冒険者。

まだ年端もいかない幼い少女だったという点であった。

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