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立ち向かう赤髪少女  作者: 雪氷華
商業都市と毒霧の森
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3-34 パンドラの箱


──アクセス、『デバッグルーム』。


解析、全行動パターン網羅、全シミュレーション開始……

推計結果、対エリアボス勝利確率『確定0%』。

マザーシステムは65536パターン全てに対して勝率0%を回答しました……


「──これで、プレイヤー『黒の人形』も敗北か……」


0と1のプログラムに支配された空間で、狂ったようにテストを繰り返す。

ひたすらにバグのチェックを繰り返し、あらゆるパターンを試していく。

世界を管理し、調整し、過不足なく維持するための部屋。


──デバッグルームにアクセス出来る者には、決して勝てない……


それは転生時に、もしも何か1つだけ能力を貰えるとしたら。

そんな回答に対してベストな選択、それは突出した力やあらゆる魔法等では無い。

ゲームに詳しい者ならばこう答えるはずだ──「デバッグルームにアクセス出来る権限、もしくは能力を」と。


それはチートのような、ではなく。文字通りのチートを生み出すための場所。



「つまり、力の数値や魔力の高さ等は究極的には意味が無いんですよ」

「ええと? そのデバッグルームに居る者にとっては単なる数字に過ぎない、と?」


アリスちゃんは、この世界の真実を知っている…… そんな確信から、ついうっかり聞いてしまったパンドラの箱。

蓋を開けてみれば、そこには私には到底理解出来ないような話が詰まっており、聞いてしまった事に対して早くも後悔が襲っていた。

こんな話、この世界の誰にも理解する事はきっと出来ないと思う。


「この世界にデバッグコマンドが存在するのかどうかが、まあ一つのキーポイントですね」


世界の果てには何があるのか? その世界という枠の外側には?

そんな大層な質問に対して「世界の外側にはデバッグルームがあるよ」などという想定外の意味の分からない答えが返ってきた。

そして今度はデバッグコマンドなどという意味が分からない単語を扱い出し、説明し始めている。


「そのデバッグルームは、要するにプレイヤーという人種を警戒し、対抗するために作られた部屋なんです。そこで万全のテストを行い、万を期する。しかしその万全のテスト結果を上回り、信じられない事をするのがプレイヤーという人種」


デバッグルームにアクセス出来る者は、話を聞く限りは何でも出来そうだ。

しかしそのデバッグルームの存在理由というのが「プレイヤーという人種の厄介さに対抗するために作られた物」だという。

そんな超越者、何でも出来るような者が警戒し、対処に追われる「プレイヤー」とはなんなのか。


──デバッグルームにアクセス出来る者には勝てない……


いや、本当は一つだけある。

転生時にもしも何か一つだけ能力が貰えるとしたら。

そんな回答に対して「デバッグルームにアクセス出来る権限」以上に、至高の答えが一つだけあるとすれば。


「答えは、『何も要らない』…… それこそが、最低の答えでもあり、また唯一の最高の答えにもなりうる可能性」


もちろん未知数の答えには、必然的に結果が伴う必要がある。

何も要らないと答えておきながら、結局何も出来なければ只の道化だ。

でも、言葉通りに何も必要とせずとも大きな結果を残せる事が出来たなら。


「だから私は一人で戦うし、手助けは無用。そして私が能力を持たない理由でもあるし、それが私の正体でもあるんですよ」


目の前のアリスちゃんの正体とやらは、私が深部までその話を聞き入っても理解が出来なかった。

知りたかった本当の真実を包み隠さず話してくれたという筈なのに、私の頭が理解を越えてしまっている。

たぶん私は、この話の1割も理解出来てはいない。


デバッグルームに居る者は、何でも出来る。

だけど、デバッグルームに居るからこそ何でも出来るだけ。


周りが「有り得ない、信じられない」といった事を成し得るのはいつも正規のプレイヤー側。

不可能を可能に変えてくる、本物のプレイヤーという存在。

その有り得ないプレイを持ってして、周りを夢中にさせてしまったならば。


その一点、周りを夢中にさせるという点においてはデバッグルームのアクセス者でも勝つ事が出来ない。

プレイ動画を配信し、点数を稼ぐならただのチートプレイなんか見てて退屈なだけ。

それがチートを駆使し、チートなプレイをするしか出来ない者の限界点。



「大体、そもそもがこの場所には他の転生者も居る事が確実で、つまりはここがオフラインでは無いという事なんです。そしてオンラインにおいてのチート使用なんて、普通に考えたら即垢バン必定なんですよ!」


チートはオフライン限定にのみ許される行為。

それが野放しされている時点で神様が間違っているのだと。

いい加減な調整、ゲームに対する矜持が無い、素人が作った制作だの何だの……


アリスちゃんが何に怒ってるのか全く分からない。

ただ、神様に対してあんまり良い感情を抱いてない事だけは分かった。


「ルナさんは他に聞きたい事とかある?」


正直、私は今この世界の誰もが知り得ないような深淵を聞いている筈だ。

なのに、理解が追い付いていないせいで上手く言葉に表せないでいる。

うっかり世界の真実を知りたいなんて口走ったせいで、それがこんな結果になるなんて。


「……無いわ。でも、エリアボスの討伐だけは見届けさせてくれない?」


本当はパーティーを組んで一緒に戦いたかったのだけど、アリスちゃんはそれを拒んだ。

別に報酬とか分け前とか一切要らないと言ったのに、この件はアリスちゃんのプライドの問題らしい。

妥協案でしぶしぶ納得させたのが、私のエリアボス討伐の見届け人という立場。


見届け人として参加出来れば、いざという時にアリスちゃんを即座に仮死状態にして匿える。

私が裏でこんなに心配している事を、アリスちゃんはもっと汲み取るべきだと思う。

その可愛い唇、今度は無理やり奪ってしまおうかしら?


話が終わり、立ち上がる。

そして出口に向かっていくアリスちゃん。

店の空気が揺らぎ、外からの日差しがドアから射し込んでいた。


「あっ、そうそう。ルナさん知ってる?」


店から出ようとしたアリスちゃんが振り返り、その赤い姿を正面に見せてくる。

その唇から、その言葉が次に繋がれてゆく。


「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているらしいよ? 向こうも案外、『エリアボスの討伐確率は0%だぜ? クックックッ!』なーんて笑ってるかもしれないね?」


……ッ!! なぜだか急に、何処と無く覗かれている気配がした。

慌てて振り返ってみても、もちろん誰もいない。

魔力探知や、目や耳では認知出来ない『何か』が、さっきまでそこにはいた気がした。


……アリスちゃんに言われるまで、まるで気付かなかった。


私は妙な寒気がし、なんだか居ても立ってもいられなくなって目の前のアリスちゃんに抱き付いてしまう。

そのアリスちゃんは抱き締めていると温かく、まるで心に染みるような安心感があった。

……Aランクが情けない。だけど、アリスちゃんのこの温かさは何なんだろう?


デバッグルーム、0と1で構築されたプログラム世界、そして……

アリスちゃんの話は、私には理解出来ない物ばかり。だけど、何故だか無性に自分が怖くなるような話ばかりだった。

ねぇ、私は本当に(・・・・・)此処に存在しているの(・・・・・・・・・・)……?


言い知れぬ不安が身を襲い、ふと先代勇者が漏らした「私は本当の意味で世界を救えてない」という言葉を思い出していた。

でもアリスちゃんを抱き締めていると、その不安が消えて命の温かみに触れているような安心感が生まれてくる。

なんとなく目の前のアリスちゃんが、何に対して立ち向かおうとしているのか、私にも少しだけ分かった気がした……

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