そして私は村に火を放ち、逃げ出した。
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──『黒の人形』...
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「くそっ、どこに行きやがった!探せ、何としてでも見つけ出すんだっ!」
「奴に魔法の才覚など無いはずだ、そもそも誰も何も教えてなどいないッ!」
日が暮れ始め、空が薄暗く染まりゆく中で、村人たちの喧騒があちこちで響き渡る。
焦燥した者、怒りで煮え滾っている者、あるいは悲壮に満ちている者。
この場所に住む者たちの皆が全員、たった一人の少女を探し回っていた。
「力も素早さも人並みだった……もしも自力で何か魔法を覚えるにしても、精々基礎的な初級魔法1つが限界だったはず……」
「クソがっ、それが……よりによって、闇の魔法なんぞ覚えやがって!」
──よりによって?おかしな事を言うもんだ、と少女は思う。
ずっと迫害され続け、忌み子として扱われてきた日々。
生きる事を否定され、表の光を浴びることも許されない、生まれながらの罪人。
そんな風に私を扱っておいて、その私が闇の属性を選んだことに驚くだと?
火・水・風・土……あるいは光、闇など。
もしも、何か一つだけ私に似合うものがあるとすれば、それは闇だろうに。
他ならぬ村人たち自身が、ずっとそういう風に今まで言い続けてきていたではなかったか。
「王に、あれほど厳重に監視しておけと命令されていたというのにッ」
「まさかステータスが並以下しかない、ただの少女にここまでしてやられるとは……」
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彼女が使っている魔法は、自身の周囲に闇を集めて見えなくするという、極めて初歩的な闇の魔法。
長い月日の間、自力で初歩的な魔法一つを覚えるのが限度だった彼女が唯一選んだ魔法。
それは闇のエネルギーを集めて相手を攻撃したり、闇の霧で相手を撹乱させたり、そのような高等魔法では決して無い。
ただ、自分の周りに闇を集めるだけという……それだけの、単純な魔法。
それだけで、しかし彼女にはそれで充分だった。
静かな暗闇に紛れて彼女は佇む。音も何も一切を立てずに。
人が居れば無音で闇に隠れ、それが過ぎ去れば再び動き出す。
それだけの繰り返しで、彼女は以前から密かに村中のあちらこちらに忍び込んでいた。
全ては、この時の準備をするために。
──普通に逃げ去れば、追っ手にいずれ捕まるのは目に見えている……
ならば、それを回避するために、それをする覚悟はあるのか?
これまでの事を振り返り、思い出し、彼女は自答する。
何も迷うことはない、と。
予め仕込んでいた火気物に炎を投下する、村中に仕込んでいたその全てに。
炎は燃え広がり、次の藁などを巻き込み、やがて村全体を包み込むように夜を照らしてゆく。
私の捜索どころではなくなるように、村全体が甚大な被害を受けて、私への追っ手どころではなくなるように。
「うわっ、炎がっ! おれの家がっ! 冬を越すための、食糧が……ッ!」
「やっぱり、あいつは忌み子だったんだ! 不幸を齎す、厄災を生み出す呪われた子供だったんだっ……!」
・・・ああ、そうだね。
私は忌み子だったのだろう。運命でもなく、星の下の宿命でもなく、私自身の意志で。
確執たる自らの意志をもって私は村に火を放った。私が逃げるために、私のその自由のためだけに。
それが罪だというのならば、私は村人たちの言う通りで間違いはない。
全面的に認めようじゃないか、貴方たちの言っている事は何一つ間違っていなかった……と。
夜に覆われた赤く燃え盛る村を背にして、少女は歩き出す。
ステータスでは一般人以下の少女でしかない彼女が、大人が大勢いる村人たちを出し抜いて、外の世界へと向かう。
何もない自由へと、束縛されない自身の意志がある場所へと。
「待て、忌み子……っ!!」
年老いた、この村の長老が語りかけてくる...
──お前は……いつかきっと、外の世界に出たことを後悔するぞっ!!




