表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/34

仮面のあたしに愛の手を

書き手:桐原さくも


※激しくフィクションです。

 桃色のポニーテールを風に遊ばせたまま、さくもはぼんやりと空を眺めていた。

 彼女がいるのは、サークル棟の裏。中庭の茶室脇にある桜の花弁が、時折風に乗って迷い込んでくる。さくもの頭にも数枚乗っているのだが、気にしていない様子だった。

 それなりに大きな敷地を持つ那楼大学は、今彼女がいるここを含めた数ヶ所を除けば、非常に賑わいを見せているはずである。


 新入生の勧誘日。多少行きすぎたパフォーマンスも、今日なら堂々とできるのだから。


 実際、さくもの所属する文芸部も勧誘に駆り出されている。かくいう彼女もその一員なのだが……


(うへー……めんどい)


 胸中で呟くは、普段ほとんど見せることのない本音。


(第一さぁ、あんな濃い面子に追加メンバーなんて不要でしょ)


 酒飲み数名、コスプレ数名、武器持ち数名、謎の人数名。

 そんな部活である。もちろん、皆真摯に創作活動に取り込んではいるが……変わった部であることは否定できない。

 今日だって、親愛なる部長クレオメはパチンコ、参謀的な立場の望月もはモゴモゴゲー……。

(あたしがこうやってサボってることなんて、可愛いもんよ)

 それに、あの二人ならわかっているはずである。

 桐原さくもと言う人物の本質。『さくろ』とも呼ばれる、それなりに女の子らしい容姿とは正反対の本性を――


(あー、めんどくせえ)


 新入生の勧誘も。

 他の部員たちの知っている『容姿通り』の性格ですごすことも。


(演じすぎたなあ)


 入学してからの一年。なるべく当たり障りなく、『可愛く可憐に』をモットーに(若干名には恐れられている気がするものの)過ごしてきた(つもりである)。

 ぶりっこ生活はなかなかに楽しいものであった。(主にぶりっこに引っ掛かった男性陣の挙動が←)

 しかし――

(飽きた)

 生来、さくもはかなりの飽き性なのである。一年続いた自分を誉めてやりたいほどだ。

(このままだと、ヤバい) 最近自覚するほどに発言に黒さが滲み出ている。

 爆発させてしまいたい。

 が、爆発後を恐れているのもまた事実。

 それなりに付き合いのある、クレオメと望月は、年上なのもあって寛容に見てくれているが……

(他の人は、どう思うかなあ)

 ふとそんなことを考えていると、声が飛んできた。

「さくもん、なにやってるのさ。勧誘係っしょ」


 現れたのは、青髪の青年。同級生の銀雪である。

 あははーと適当な笑みを浮かべ、さくもは彼と目を合わせた。


「あー、ぎゃん。……で、なんで耳を押さえてるの?」

「そこは断固黙秘で」

 憮然とした表情の銀雪をみて、くすりと笑う。仕掛人である望月からネタは徴収済みだ。

 今度はにっこりって、爆弾を放つ。

「スコティッシュフォールドのお耳も可愛いと思うよ?」

「なぜ猫耳のことを! しかも種類まで! しかも今少し『へっ』って笑ったっしょ!」

「ぬー、気のせいだよ? 可愛いなーと思っただけ」

「目が笑ってないから!」

 半泣きのていになっている銀雪に、もう一度笑いかけ、立ち上がる。

「さてっ、勧誘にいきますか」

「さりげなくサボりをなかったことにしてない!?」

「何か言った?」

 少し笑顔を変えると、銀雪の顔がたちまち青くなる。何かを察したらしい。

(これくらいなら、そこまで腹黒じゃないよね、あたし)

 言い訳のように心の中で呟いた。




□■□■(´▽`)フィクションダヨ?■□■□




 新入生と在校生でごった返す講堂前。着ぐるみやらコスプレやらがあふれている。風船などまで使われていて、まるで某鼠の国のようである。もしくは中国のアレ。

 そこそこ身長のあるさくもと銀雪(観念して猫耳絶賛公開中)は、結局勧誘するでもなくぶらぶらしていた。

(ぎゃん情報によると、とりあえず入部希望者はいるみたいだし。別に声を枯らす必要ないよねー)

 そんなことを考えながら歩く。

 その時――

「あいたぁっ!? す、すいません……」

 少し前を歩いていた銀雪の身体がぐらりと揺れ、少し高めな少年の声が響く。姿は見えないが、さくもはその声の人物に思い当たりがあった。

「いや、こっちこそって、……何だたーくんか」

 予想通りの名前を銀雪が呟き、わきからさくもが顔を覗かせるとその人物と目があった。

 ウサギ耳を付けた、ピンクの髪の小柄な少年。名前は、たー。文芸部の一員である。

 ひどく息切れしている彼に、さくもは声をかけた。

「たーくんどうしたの? 勧誘は出来た?」


 たーは大きな瞳にさくもをうつしつつ、慌てた様子で答える。


「ハーツお姉ちゃんに追いかけられて、勧誘はまだ。で、何で二人はぶっ!!」

 どうやら、銀雪の猫耳がツボに入ったらしい。けたけたと笑いながら、ツッコミをいれる。

(……自分もウサギ耳なのに)

 さくもはそう思ったが、あえて何も言わない。

 否――言えない。


(……感想を、くれたから) 

 たーは以前、さくもが執筆した小説にとても丁寧な感想をくれたのだった。

 そして、作品を好きだと言ってくれた。

 そんな『良い人』を邪険には扱えない。

(理由はそれだけ)

 それだけだ。

 嫌われたくないだけ。

 好かれたいわけじゃない――


(くだらない)

 ここにいる自分は、偽りのかたまり。

 本当の、自分ではない。

(本当の、あたしなんて――)

 少し、視界が揺れた。頭をふる。くだらない思考を追い出すために。

 すると、視界に赤毛の少女が飛び込んできた。小さい、身長が。

「……中学生?」

 思わずそう呟くと、意外なことにたーも銀雪も反応を見せた。

 少女がこちらを見る。ぱあっとその顔が遠目にも分かるほどに明るくなった。 銀雪の名前を叫びながら、駆け寄ってくる。刹那、まるでオリンピック選手のごとく、銀雪が勢いよく地面を蹴り――

 何も言わずに、二人で駆けて行ってしまった。

 残されたのは、ふたり。

(……どうしよう)

 軽口で話題を作ろうにも、口が開かない。

(うるさい)

 自分のなかの、音。

 たーが何かを呟いたが、音に邪魔されて聞こえない。とりあえず、曖昧に笑い、口をどうにか開いた。

「たーくん知り合い?」

 それにたーは、どこかおどおどした様子で答える。

「一応、妹なんだ」

「そうなんだ……」

 沈黙。ただ、木偶のように突っ立っている、ふたり。


「さくもん、部室戻ろう?」


 しばらくしたのち、気を取り直したようにたーがいった。明るく、屈託のない笑顔をさくもに向ける。

 その笑顔がどうしようもなく羨ましく――その傍が、妙に心地よい。


(このひとの前では、なるべく『可愛い』あたしでいてあげよう)


 それは、自分のため。


 何気ない動作で手を握られる。伝わるぬくもり。


(いつか……嘘はばれる)

 でも――


「……そうだね」


 精一杯の笑顔をつくり、手を握り返す。


 もう少し――もう少しだけ。

はい、読了お疲れ様です!

たーくんの話とクロスさせてみましたw

激しく激しくフィクションです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ