正しい子どもの扱い方
書き手:幼
どこまでも青い空の中を、数羽の小鳥がちちちとじゃれあいながら飛び去っていく。
飛行機雲はそんな青をゆっくりゆっくり二分していく。
そんな光景を見上げながら文芸部部長くれおめは、口に挟んだ火のついてないたばこを上下させ弄んでいた。
「平和だねぇ……」
ライターを取り出して、火をつける。ほどなく先端から煙が立ち上る。
ベランダと部室を繋ぐ戸が乱暴に開け放たれたのは、その時だった。
戸を開けたのは、しがない文芸部員の幼だ。
幼はずかずかとベランダに侵入すると、ベランダの柵を背にしてどすっと腰掛けた。
「くれさん」
「なんだい」
「……それ、一本ください」
「それって、……これ?」
「そう、それ」
「それ」と言って幼が指したのは、くれおめがくわえているタバコだった。
「どしたの、おさなん? タバコの煙、嫌いなんじゃなかったっけ?」
幼は両の手足を投げ出して、むすっとした顔をつくってみせた。
「私にだって、グレたい時はあーるーんーでーすぅー!!」
「ダーメ。未成年でしょ?」
「未成年でも吸ってる人はいるじゃないですかぁー!」
「ほら、コ○アシガレットあげるから」
「なんで持ってるんですか」
「パチンコの景品」
くれおめは幼の目の前で振ってみせた。すでに中身は少ないのか、からんからんと中のシガレットが箱に当たる音がする。
「ほら美味しいよ、ココ○シガレット?」
「誤魔化さないでくださいー!」
「じゃあこれ、要らないの?」
「要ります。要りますよ、ください」
手を差し出して細いシガレットもどきを一本受け取ると、幼はそれを口にくわえてがりがりと噛みはじめた。
それからしばらくの間、ベランダには小鳥がちゅんちゅんと遊んでいる音と、幼がシガレットをがりがりと噛む音だけが響いていた。
くれおめは白い煙をふぅと吐き出した。その手に持っているタバコは、既に半分ほど灰になっている。
そして頭上を通る飛行機が雲に隠れて見えなくなり、その飛行機がつけた飛行機雲が擦れかけたころ、不意にくれおめは話を切り出した。
「……おさなんさぁ、副流煙って知ってる?」
「知ってますよ、それくらい」
内側に出るのが主流煙で、外側に出るのが副流煙だってことくらい小学校で習いましたよ、とかなんとか小声で続けながら、幼はコ○アシガレットをがしがしと噛み続けた。
「副流煙ってさ、主流煙の数倍、有害物質が含まれてるんだってね」
「そうですね」
「つまり今私が吸ってる煙の、数倍の煙をおさなんは吸ってるってわけだ」
「……まぁ、そうですねー」
「そこでだ、おさなん。これを見てみ?」
くれおめはタバコを幼の目の前に突きつけた。
半分ほどになったタバコの先端からは、白色の煙が揺らいでいる。
何を言われているのか分からず、幼は首を傾げた。
「タバコですけど……」
「うん。おさなんが来たくらいに吸い始めたやつなんだけどね」
「はぁ」
「今半分ぐらいだよね?」
「それが何ですか?」
「分かんない? つまり、おさなんは今、一本分のタバコを吸ったってことになるんだよ」
幼はがぁんとショックを受け、固まった。そして、俯いてなにやらぶつぶつと呟いていたかと思うと、目を輝かせてばっと勢いよくくれおめを見上げた。
「…………くれさん賢い!!」
「はっはっは。もっと崇め奉るがいいー」
「さすが部長! 天才! 見直した! 頭いい!! それからえっと……」
くれおめは褒める言葉を捜している幼の頭にぽんと手を置いて、ぐしゃぐしゃと撫で回した。
「ほら、一本吸えたんだから、もう満足でしょ?」
「はい!」
幼はばっと立ち上がると、ばたばたと騒々しく遠ざかっていった。
それを見送ると、くれおめはやれやれと溜息を吐いた。
「扱いやすくていいねぇ、ああいう子どもは……」
本当は主流煙と副流煙では、煙の種類も酸性かアルカリ性かとかも違うのだが。
「まぁ、いいか……」
ふと見上げると、小鳥が数羽、ちちちちちと鳴き声を上げながら、擦れてしまってほとんど見えなくなった飛行機雲の向こう側へと飛び去っていったところだった。
今日も、平和である。
乗り遅れた感が否めないです。幼です。
短くてすみません……。
実はもう二本書きかけが放置されてて、
そのための時間稼ぎだなんて、そ、そんなことある訳ナイジャナイデスカ……!!(オイコラ
三十一番手、お粗末さまでした。