一応未成年には配慮する
書き手:工場長
五月も近づき木々の若葉が日の光にきらめいて萌える中、部室棟二階のベランダより煙が上がっている。
「やっぱり牛は炭火で焼くのが一番だね」
文化部部長くれおめはビールを片手に炭で焼かれた肉に舌鼓を打つ。
「部長、食べてばかりいないでたまには自分でひっくり返してよ」
くれおめの向かいでチューハイを片手に肉をひっくり返しているのは望月。ひっくり返した側からくれおめに食べられているので、自身はあまり肉を食べていない。
「まあいいじゃない、部長権限ってことで」
「権力濫用だ! 横暴だ!」
文句を言いつつそれに従う望月。またひっくり返した側で今度は右隣の人間に肉を持っていかれる。三年生の工場長だ。彼は発泡酒を持っている。
「工さんまで肉を食らうのか!」
「しょうがないだろ、おいちゃんよ。肉を焼く係になった時点でこうなることははっきりしていたのさ」
「じゃんけんで決まっただけなのに……」
「おいちゃん、所詮この世は弱肉強食なのだよ」
そんな三人のところへ部室から亥月とかけだしが飛び出してきた。
「三人とも、一体何をやっているのですか?」
慌てる後輩二人に対してくれおめは冷静に答える。
「何って……、焼肉」
「見れば分かるだろ」
チューハイの缶を揺らしながら答える望月。
「なぜベランダでそんなことをするのですか!? 周りに火事だと思われたらどうするんですか」
もっともな意見を言う亥月。しかし彼らに正論は通用しない。
「大丈夫だよ、『文芸部焼肉中』ってベランダに張り紙貼ってあるから。あとでほしちゃんたちも来るらしいよ」
そう言ってくれおめは張り紙をとって見せる。
「未成年に遠慮してベランダで酒を飲んでいるんじゃないか、いわばかわいいかわいい後輩のためだよ」
工場長がゆらりと亥月に近づく。
「先輩、お酒臭いです」
一歩下がる亥月。
「いいねー、『先輩』。いい響きだよ」
さらに近づく工場長と亥月の距離。そこへかけだしが割って入った。
「先輩、酔っ払っていますよ。亥月さんが困っているじゃないですか」
かけだし言葉を聞いたとたん、工場長はかけだしの襟をつかみ、
「男が『先輩』って呼ぶなあぁぁぁ!」
とかけだしの首を前後左右に振り出した。
「うわああああっ、目が、目がーっ」
もがきながら叫ぶかけだし。
「工場長、かけだしに用があるからそろそろ離してくれない?」
くれおめの言葉にやっとかけだしは解放された。
「むう……これくらいにしてやるか」
不満げながらも座って肉をつつく工場長。
「ところで部長さん、用はなんですか?」
「牛肉も飽きてきたからさー、豚肉買ってきて」
「へ? 豚肉!?」
目を丸くしておどろくかけだし。
「店が遠いんだったら、食堂のイソに頼んでもらってきてもいいからさー」
「うう……、分かりました……」
部長の命令には逆らえないので、泣く泣くかけだしは豚肉を取りに行った。
「亥月も立っていないでさ、こっちへおいでよ。ウーロン茶もあるから未成年でもOKだよ」
ウーロン茶の入ったペットボトルを見せる望月。
「そうですか、それなら私も……」
ベランダは狭いので、亥月は工場長と望月の後ろに座った。
「亥月、大丈夫だよ。先輩が肉を取ってあげるから」
「こんにちはー、焼肉食べに来たよー」
そこへ茶道部の二人もやってきた。
文芸部は今日も平和である。
どうも二度目の登場です。工場長です。
他の方々が長い作品を書いている中で、短くてプレッシャーです。
それではこの後も他の方々の素晴らしい作品をお楽しみください。