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フィクションほど人の世界を混濁させるものはない

書き手:亥月


……フィクション要素ハンパないです(´▽`)

「眠たいすね、一美」


 欠伸をしたら、少し涙が出た。呼吸で少しずつ動く一美のお腹に凭れかかってると、あったかくて気持ちが良い。陽はすでに西に傾いて、淡い朱色の光で、空を境界線のぼんやりとした入り日色に染めていた。事実、俺が座っている芝生も、明るい金色に光っている。


「部長、忙しそうでしたね」


 ブヒッ、と一美が鼻を鳴らして答えてくれたら、少し安心した。銀ちゃんとか部長とかには「厳つすぎるわ」とか、「襲いかかってこないよね?」とか言われるけど、俺には何でそこまでビクビクするのか分からない。

 事実、一美にビクビクしているのは銀ちゃんや、たー兄、イソ兄くらいだけすけど。

 大学の、細長い第二棟と第三棟に挟まれた小高い丘の上は、誰も寄り付かない。人が近付いたらメンチを切る習性がある、一美の目力が低下しないように、気付けば毎日のようにここへ来ていた。

 ……誰、今笑った人。


「……今日はまったくもって、不運すね、俺」

「ブヒヒッ」

「俺、何か悪い事したすかね? たしかに部長の創作活動の途中に、テーブルの上にパン屑こぼしたりしたすけど」


 暖かな色に照らされた空の、空色と橙色の果てしなく微妙な境界線をなぞるようにして目を泳がせると、一美がもう一度鼻を鳴らした。飛行機雲に移った視線を切って、目を閉じたら、一美の体温が服の生地ごしに感じられて、眠気はさらに高まった。

 一美……高血圧なんすかね、俺と違って朝早いし。


「俺……将来、何になるんすかね」

「ブヒッ、ブーヒブヒッ」

「そういや、俺、何で文芸サークル入ったんすかね。俺、物理と幾何学のために、ここ来たようなもんなのに」


 確かに小説は書いてた。現在では趣味の端っこに存在する範囲でだが。小学校中学年から中学の頃は没頭していた。けど高校になってからは風化していって、物理と数学に興味が向き始めた。

 道化兄も、ハーツ姉さんも、たー兄も。

 みーんな那楼大学に行っちゃったから。俺も、とりあえずは物理学科や、理学部で幾何学を学べる此処に来たはいいが。

 唯一、高校生の時に没頭できた理学関連も、マンネリ化し始めてから一カ月と十九日。

 いや、一美のせいじゃないすよ。講義の時に二、三回連れてったけど、先生に追い出されただけだから。

 イヤ、マジ、ホント。

 


「俺は何になるんすかねぇ……」


 けど、元々俺は理系の頭じゃなかったすよ? 高一の時からつまずき始め……イヤ、俺ね、ちゃんと高校出てるから。高校で、ちゃんと卒業証書と「猪娘」の称号もらったから。

 つまずいて、先生に聞いて、やっとこさ……ほんのちょっと理解できただけでも、楽しかったすからね。先生の目を盗んで、夜中にこっそり一美と一緒に理科室で実験やった事もあるすよ。

 ……前髪焦げて、翌日バレたすけど。

 そん時は紙と鉛筆には見向きもしてなかったす。


「一美は将来、何になるすか〜?」

「ブヒィ、ヒヒィ」

「俺がお嫁に行くまで生きるのが夢? てか、なりたいものじゃなくね? 夢じゃね?」


 一美にツッコんだら……イヤ、俺、変な人じゃないすよ。俺と一美、アレ……意思疎通可能すから。僕らはいつも死んで……じゃなかった、以心伝心すから。



「……数学や物理もおもしろくなくなって……小説の波も止んで……俺はいったい何処に行くんすかね〜……」


 そう言って一美の方を向いたら、夕暮れの柔らかい光に照らされた景色に溶け込んで、一美はいつの間にか寝てた。

 ……今日も鼻息荒いすね。

 

 一美の緩やかな呼吸で動くお腹に凭れかかっていたら、どんどん眠くなってきて、また欠伸が出た。目が潤んで、何度か瞬きをしたら、頬をつつっと涙が伝った。

 抱えていた膝を投げだして、右手を何気なく上げてみた。果てしなく美妙な橙色と空色に染まった、広い空。雲は脇に避けて、誰かが引き裂いたかのように、端はじぐざぐして見える。

 空色は薄くなって、橙色に占拠されつつあった。橙色も、濃くなったり薄くなったり、蝶が飛ぶように気まぐれ。


「……俺みたいすね……」


 目を閉じたら、一美が息を吐くと同時に身が沈んで、そのまま俺自身の身体も、ずっと深くに沈みそうになった。



「何やってんの?」



 聞き覚えのある声がして、億劫に目を開けたら、橙色の太陽をバックにして立つ細身の人影が見えた。目にまでかかる、少し癖のある青い髪。

 ……今日は、ほしさんに捕まらなかったんすね。


「女の子が舌打ちしないの!」


 気付いてたら舌打ちしていたみたいで、半ば呆れたような語調で注意された。


「何すか銀ちゃん、こんなとこ来るとか暇すね」

「……いつも人を追っかけ回しといて、よくそんな口が叩けるな」

「何の事すか?」


 わざと、ばっくれてやったら、しかめっ面で溜息をつかれた。


「何、酢昆布切れたの?」

「切れてません〜、フランスパンも切れてません〜」

「……なんかムカつくな。ホラ、帰ろ」


 頭を掻きながら手を出してくれた。……今は歩くのも億劫すけど。


「メンドくさい」

「……ホントイラつくわ、こいつ。ホラ見ろ一美を、もう立ってるぞ」


 振り向いたら、一美が立ちあがって、ぶるぶる頭を振っていた。相変わらず鼻息が荒い。

 いいっすね……高血圧は。

 俺、低血圧なんすけど……。



「……仕方ないな」


 そう呟いて、銀ちゃんは俺に背を向けてしゃがんだ。




「眠たい……」


 銀ちゃんの肩に顎をのせたまま、目だけを動かして周りを眺めてみた。

 それぞれの棟も、橙色の気まぐれな夕方の景色に溶け込んで、一美の左右に揺れる大きな身体を覆う毛も、淡い金色に輝いている。


「何で迎えに来てくれたんすか?」

「部長が呼んでるんだよ」

「へー……」


 やっぱり眠いとテンションが低くなる。半分閉じかけた目を空に向けると、空の端っこは濃い橙色に染まって、艶めかしい程だった。銀ちゃんが歩く度に身体が揺れて、どんどん眠くなっていく。

 


「部長、どーしたんすかね……」

「どーしたもこーしたも、お前、部長に創作品ぐらい出せよ?」

「創作品……」


 楽しみにしてくれてるんすかね、部長は。


「今、マンネリ気味す」

「マンネリ?」


 肩越しに銀ちゃんが振り返ったら、さっき涙が伝った頬に、青い髪がかかった。また欠伸が出て、目の縁に涙が溜まって、瞬きすると一緒に頬に零れ落ちた。


「……マンネリなの?」

「そっす」


 案外、簡単に言えた。


「下手とか思ってるんじゃなくて?」


 予想外の返しで、出かけた欠伸が止まった。核心を突かれるとは思わなかった。一美が顔を上げて、ブヒッと鼻を鳴らす音が聞こえてくる。

 黙ってたら、銀ちゃんはちょっと立ち止まってから、俺をよいしょと背負い直した。


「下手でも何でも」


 一美がふいっと、下を向いた。


「書きゃいいんじゃないの?」



 眠い頭で言葉をゆっくり理解したら、また眠くなってきた。

 とても、心地よいまどろみ。



「何か今日変だな……どした?」

「眠たいだけすよ。明日になったら酢昆布パワー、充填して、銀ちゃん追いかけ回すつもりすから」

「……マジかよ」



 げんなりしたような銀ちゃんの言葉を聞いたら、柔らかい風が吹いて、前髪を揺らした。



「文芸サークルにいるって気づいてたんすかねぇ……俺は」

「ん? なんか言った?」

「何もないす」



 風にそよぐ、少し癖のある青い髪が目の前で揺れた。欠伸が出て、また頬を涙が伝った。

 

 


 

 







 数学者に言わせれば、数学は芸術らしい。

 俺にも、少し分かる気がする。

 それなら、俺も自分で「芸術」を描いてみよう。

 どんなに幼稚でも、どんなに拙くても。



 それを、「芸術」として見てくれる人がいるなら、私はいろんな種類の「芸術」を自分の手で、(えが)いてみたい。


まだ高校生未満ですが、今の俺の脳だったら多分、高校ではつまずきまくると思うので、書いてみました。数学と物理は今現在愛してますが……高校いったら危うい; そして銀さんに申し訳ない。

駄作ですが、読んで下さり、ありがとうございました。

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