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ガーディアンおぶ文芸サークル

作者:かけだし作家

 今は春。暖かい日差しに包まれて、新入生が那楼大学に入ってきた。そんな彼等を自分のサークルに引き入れようと、在校生達は必死になって声を掛けている。他のサークルより目立とうと様々なパフォーマンスが繰り広げられる中、一際異光を放つ一団がいた。

 文芸サークル。又の名を変人の集い。何故かは見れば分かる。

 ある者は仮面とマントを纏い怪しげな言葉を発し、またある者は凶器を幾つも隠し持っている。部長に至っては酒乱でベビースモーカー、おまけにパチンコ三昧である(一応成人なのだが)。そんなサークルの勧誘なのだから、恐ろしいことこの上無い。しかし、そんな危険なサークル活動を静かに見守る一人の青年がいた。

 校舎の屋根の上に佇む青年は水色の髪を持ち小柄な体格をしていた。服装は袖無しの白いパーカーに黒のジーンズ。脇にチョコチップ入りのメロンパンと相棒――午後の紅茶ミルクティーを携え、眼下で繰り広げられる惨劇を眺めていた。


「あ〜あ、あの新入生、よりによって道化ちんに捕まっちゃったでふ。文芸サークル入りは確定でふね」


 猫を連想させる口元からこれまた変わった口調を発する彼は、れっきとした文芸サークルの一員である。

 かけだし作家。それが彼のペンネームであった。


「懐かしいでふ。思えば僕も、一年前にあんな目に会ってたんでふね」


 かけだし作家もといかけだしは、懐かしそうに過去を振り返った。


 〜過去回想でふ(-ω-)〜




 桜の花びらの舞う中、那楼大学にも始まりの春がやってきた。皆が期待に胸を膨らませるなか、水色髪の少年――かけだしも同じように興奮していた。

 緊張で少々顔が強張っているが、それは仕方がないことだ。何せ今日から、各サークルの新入生勧誘活動が始まるのだ。それを楽しみにしていたかけだしは、心踊らせながら大学へ行った。


「す、凄い……」


 大学に着いたかけだしを待っていたのは、幾多ものサークルの怒涛の勧誘合戦だった。


「新入生の皆ー!俺達と一緒に青春を過ごさないかー!」


 と、サッカーサークルのメンバー達が熱く語れば――


「今時熱血漢はモテないよ。一年中冷暖房完備の室内で、神の一手を極めてみないかい?」


 向かいの囲碁サークルがクールに流す。


「大学ってスケールでかいな〜。高校より全然上だ」


 すっかり圧倒されていたかけだしだが、はっと我に帰る。


「危ない危ない、気をしっかり持たなくちゃ。とりあえずパンフレットを見て絞ろうかな」


 ジーンズのポケットからパンフレットを取り出し、一通り目を通し――


「ん?……ぶ、文芸サークル!?こんな素晴らしいサークルがあったのか!」


 拳を握り締め、爆発しそうな感情を必死に抑え込む。

 無理も無い。かけだしはアマの小説作家であるのだから、小説を書くことに打ち込める文芸サークルは正に彼の理想郷なのだ。

 と、その時、かけだしは背後から強烈な視線を感じた。何事かと振り返ると――


「こんにちる〜♪」


「ぎゃー!」


 そこにいたのは、とてつもなく異様な人物だった。

 顔に仮面を着け、マントに身を包んでいる。一言で言えば変態。それがどアップで現れたのだ。


「君、文芸サークル入部希望者でしょ?大歓迎だよォ!今ならのり巻きライスのおまけ付きだからァ♪」


「あ、いや、その……」


 かけだしの脳内はパンク寸前で、まともに言葉が出てこない。のり巻きライスっておにぎりだろ!と突っ込むことさえ不可能だ。

(僕が入りたかったのは文芸サークルなんだよね間違ってもコスプレサークルなんかじゃなかったよね)

 冷や汗たらして自問自答するかけだしを、変態仮面は

「る〜?」と言いながら見詰めている。

(この人絶対怪しいよていうか『る〜♪』ってなんなのさそれ以前に周りの人皆どっか行っちゃったよああこの人から逃げたのかそれなら僕も逃げないと)


「まだ悩んでるのかィ?しょうがない、のり巻きライスもう一個――」


「すいませんでした!」


 呆気に取られている変態仮面を殆ど無視し、かけだしはその場から逃走した。


「る〜」


 置いてかれた変態仮面は、寂しげにポツリと呟いた。


 〜でふでふ(・ω・)〜


「はあ、はあ、はあ……。こ、ここまで来れば大丈夫か」


 かけだしが駆け込んだのは図書室だった。静寂に包まれたこの空間なら、変な輩に邪魔されずに壁に貼られたサークルのポスターを見て回れる。これぞ一石二鳥だ。


「これは吹奏楽サークルか。音楽、また始めようかな……」


 先程の一見で文芸サークルのデンジャラスな一面を見てしまったかけだしに、最早その選択は無かった。


「あ、将棋も面白いかな?いっそのこと演劇なんかも……」


「文芸サークルは?」


「え!?」


 背後から掛けられた声に文芸サークル。この二つで忌まわしい過去を思い出し、かけだしは凍り付いた。


「そんなに緊張しなくてもいいよー。私も新入生だし」


 新入生。その一言に安堵してかけだしが顔を向けると、ピンクの髪をポニーテールにした少女が文芸サークルのポスターを見詰めていた。


「君、もしかすると文芸サークル希望だったりする?」


 恐る恐る尋ねるかけだし。だが、神は彼を見放したようだ。


「うん♪小説書くのも読むのも好きだから」


 少女は心からそう言っているのだろう。無邪気に微笑む彼女の笑顔を見て、かけだしの胸に変な使命感が沸き上がった。


「ダメ!ゼッタイ!」


「へ?」


「文芸サークルなんて名前だけだよ。さっきだって変態そうな人に声掛けられたし。とんでもないサークルに決まってるよ!」


 顔を真っ赤にして力説するかけだし。しかし、少女は首を横に降った。


「勘違いしてるんじゃない?その人は常日頃から恥を晒すことによって、執筆する時の枷を無くそうとしてるのよ」


「か、枷?」


「そうよ。普段から恥に慣れることによって、より自由な作品を産み出すことが出来るのよ」


 そう言われてみれば、確かにその通りかも知れない。文芸サークルは全身全霊で小説に取り組んでいるのだ。


「僕、間違ってたよ。やっぱり文芸サークルに――」


「あ、いたー!さくもん発見!」


「へ?」


 図書室の静けさなど何のその、高らかに張り上げられた声にかけだしは驚いて声の主に目をやった。

 かけだしの目に飛び込んで来たのは、緑のブレザーを着た自分以上に小柄な少年だった。まるで、いや、百パー中学生だ。しかし少年はただの中学生では無かった。


「バニー……ボーイ?」


 かけだしはあまりにも滑稽な少年に釘付けになった。

 その少年の髪はピンク色だ。ここまではいい。しかしその髪の上には、真っ白でふわふわそうなウサ耳がついていたのだ。


「さくも〜ん!銀ちゃんが耳取れないって泣いてたよ〜」


「そりゃそうでしょ。瞬間接着剤つけたんだから」


「……鬼」


「ウソだってば!だから泣かないで!」


 ウサ耳少年と知り合いらしい『さくもん』と呼ばれた少女。さっきは感じなかったが、いつの間にかこの二人からは変態仮面と同じ匂いが漂っていた。


「そうそう、私新入部員見つけたのよ」


「ホント!?さくもん凄いや!それで、その人は何処にいるの?」


「どこって、そこに……ありゃ、逃げられちゃった」


 『さくもん』が振り向いた時、既にかけだしはとんずらしていた。


 〜そこ、長いとか言わない!(-ω-)〜


「今日は厄日だ。カレンダー見たら大安だったり星座占いで一位だったりしたけど、絶対に厄日だ」


 走り疲れてぐったりしたかけだしは、木陰にあるベンチに腰を下ろした。


「文芸サークル、恐るべし。まさかもう新入生に手を出していたとは」


 『さくもん』には油断して、危うく入部しかけてしまった。一歩間違えば自分も変人オーラを身に付けていたのかと思うとゾッとする。しかしそれもここまでだ。決意を固めたマイハートは鋼の如く強固なのだ。

 その時だった。かけだしの第六感が警報を鳴らすと同時に、煙草でパンパンになった紙袋を引っ提げた女性が姿を現した。

 緑色の髪をした女性は、元は良いのだろうが、煙草臭さにだらしなさ漂う風貌で台無しになっていた。


「フフフ、大漁大漁。これで三日は煙に困らない。……むむ?私の喫煙スポットに人影が!?」


 かけだしを見て大袈裟に驚く女性。そんな女性に対し、かけだしは全くの無反応だった。

(身に纏っている雰囲気……。二度あることは三度あるって言うけど、これはないでしょ?これは)

 そう、かけだしは気付いてしまったのだ。女性の放つとてつもない変人オーラを。


「こやつ、文芸サークル部長の私を見ても動じぬとは。なかなかやりおるな!」


「い、いえ。そんなつもりじゃなくて……」


「文芸サークルに失望している、でしょ?」


「!なぜそれを!」


「この私に不可能は無い!」


 勝ち誇ったように胸を張る女性。そして崩れ落ちるかけだし。


「う、ウソだ……」


「うん、ウソだよ。かまかけた」


「……」


「ゴメンゴメン、つい癖で。だからほら、そんなに落ち込まないで〜」


 放心状態のかけだしを女性はぐわんぐわん揺さぶった。それでかけだしが重症になったのには勿論気付いていない。


「もういいです!僕のことなんかほっといて下さいよ!」


 かけだしはぐわんぐわん地獄から抜け出し、逃走を図った。だが、それは叶わなかった。


「貴方はそれでいいの?」


 凛とした声。そこには先程のだらしなさは微塵も無かった。


「小説を書きたいという気持ちはあるんでしょ?」


 女性はかけだしに語りかけてくる。優しく、それでいて諭すように。


「そんなこと……ありません」


 かけだしは自分でも声が上ずっているのが分かったが、構わずに続けた。


「僕は確かに小説が好きです。けど読むのが好きであって、書くのは別に……その、ちょっとした出来心なんです。だから、あんな変な人達と一緒に居てまで書きたいとは思いません!」


 これは間違いなく自分の言葉だ。勢いで書いてみたのも事実だし、文芸サークルの人達が変人だと思ったのも本心だ。

 それなのに、かけだしは何故か胸が苦しかった。嘘を突き通そうとした時と同じ気持ちだった。


「……君、無理してない?」


「僕が?そんなことありませんよ!僕は思ったことを言っただけです!」


 ちょっと刺激されただけでムキになってしまう。まるで子供だな、と思った。

(僕が無理してる筈が無い。感じたことをそのまま言ったんだ。……なのに、何で楽にならないんだ?)

 不快な感じだけが残る。それが堪らなく嫌だった。


「やれやれ。君の言う変人の方が、よっぽど自分に素直みたいね」


 女性は何気無く言ったが、かけだしはそれが気に障った。


「あの人達が素直?どこをどう見たらそうなるんですか!」


 口調が荒くなる。それは分かったが、止まるどころか更に大きくなった。


「大体、貴女にそんなこと言われる筋はありません!僕がどのサークルに入ろうが僕の勝手じゃないですか!それに――」


「確かに、私は貴方の何も分からない。けどね、皆は……文芸サークルの皆は、どこまでも自分に正直よ。言いたいことを言うし、書きたいことを書く。それが目立っちゃってるだけなのよ」


 女性は一度目を瞑ると、ゆっくり目を開けてかけだしを見詰めた。


「貴方はどうなの?本当にそれが本心なら止めないけど。深呼吸して、頭を冷やしてから考えなさい」


 指図されるのは嫌だったが、かけだしは渋々深呼吸した。すると、今まで胸につっかえていた物が消えていくのを感じた。


「どう?答え、見つかった?」


 女性は焦らず、かけだしが口を開くのを待った。


「わ、分かってたんです」


 しばらくして、ようやくかけだしが口を開いた。泣いているのか、時折鼻を啜っている。


「分かってたんです。今の自分じゃあ、どんなに面白い物語を考えてもそれを文にすることはできないんだって。だから、本気で小説に打ち込める文芸サークルを知った時は嬉しかったし、理想の食い違いに失望もしました。……全部、僕の我が儘なんです」


 かけだしは言い切ると、ガックリと膝をついた。


「最初から無理だったんですよ。僕なんかが小説なんて――え?」


 かけだしは何やら頭に被せられ、ハッとして手をやった。そこにあったのは、自分の髪と同じ水色のハンカチ。


「涙拭いたら?折角の顔が台無しだよ」


「ありがとう……ございます」


 かけだしは礼を言うと、目の周りをそっと拭いた。

 そんなかけだしに、女性はそっと声をかける。


「プロの作家だって、最初はヘタクソだよ。それでも一生懸命努力して、ようやく世間に認められる小説が書けるようになるんだよ。だから君だって。ね?」


 一時前まではだらしなかったのに、今のかけだしにはその女性が天使の様だった。


「あの、僕……」


 口ごもるかけだしに、女性は優しく手を差し出した。


「私はクレオメ。勿論ペンネームよ」


 差し出したクレオメの手を、かけだしは勇気を振り絞り握り返した。


「僕はかけだし作家です。クレオメ先輩、文芸サークルに入部させてください!」


 かけだしは深々と頭を下げる。先程の土下座とは違い、尊敬の念を込めて。

 そんなかけだしに、クレオメは優しく微笑んだ。


「これからよろしくね、かけだし君♪」


 〜自己最長が自分の小説じゃないってどういうこと?(-ω-)〜


「お〜い、かけだしー!くつろいでないで勧誘手伝えー!」


 クレオメはメガホン片手に部室のベランダに出ると、屋根の上に向かって目一杯の声で叫んだ。

 公害クラスの呼び声に、かけだしは目を覚ました。側にはメロンパンの袋と空になったペットボトルが転がっている。いつの間にか寝てしまっていたようだ……屋根の上で。

(やれやれ、クレちんも人使いが荒いなあ)

 心の中で文句を言いながらも、かけだしは屋根から飛び降りてクレオメのいるベランダに着地する。


「まったく、なんで屋根の上に登るかな?」


「風が心地良いし、日光でポカポカだし、何より皆を見てると面白いからでふ」


「分かったから。ほら、行った行った!たーくんが女子軍団にもみくちゃにされてケガしちゃって、戦力大幅ダウン中なのよ」



「分かったでふ。かけだし七変化!」


 刹那、かけだしが煙に包まれた。視界が戻った時には、かけだしは髪が水色なだけでたーくん――ウサ耳ちびっこ少年。かけだしと同じ二回生――のそっくりさんに変身していた。身長まで変わって何故髪色がそのままなのかが永遠の謎だが。


「それじゃあ一仕事してくるでふ」


 言うが早いか、かけだしもといウサかけは激戦が繰り広げられる広場へと消えていった。

 そんなかけだしを、クレオメは温かく見守る。


「かけ君も変わったわね。一年前はもの凄くシャイだったのに。それにしても――」


 突如、クレオメの全身から邪悪なオーラが溢れ出る。


「あんな簡単におもちゃが手に入るなんて。あの時の演技は我ながら傑作だったわ♪」


 闇に包まれたクレオメの本性を、かけだしは未だ知らない。

 那楼大学は今日も平和……でふ(・ω・)

 何だこれはと言いたくなるのは分かるでふ。しかしこれはフィクションなのでふ(・ω・;)だから、温かい目でスルーして欲しいでふ(ェ

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