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薬師渚の魔物退治奮闘記  作者: 水上瑞希
第二章 再会
15/41

14, 過去を乗り越えて

二章最終話です。

 翌朝、私も一緒に佑真のところへ行きたいということを九条にも伝えて、私達は朝食だけ簡単に済ませた後もう一度あの森へと向かった。昨日の場所が近づくにつれてどんどん苦しくなっていくがそれはもう我慢するしかない。顔色を見た東くんと九条にかなり心配されたけど、私は大丈夫だと言い張ってゆっくりと、でも確実に歩みを進めていった。心配した二人が手を繋いでくれていたので見た目はかなり不格好だったけど。

「そろそろ昨日の場所に着くけど大丈夫?」

 昨日灯を見つけたあたりで九条が問いかけてくれる。

「うん、私は平気だから行こう」

 私は力強くうなずき、率先して昨日の場所へと歩き出した。


 実験が途中だと言っていたのは本当のようで、あの機械は今日も昨日と同じ場所で稼働していた。もちろんその側には佑真とレオンもいる。

「佑真!」

 なんと声を掛けて良いかわからず、私はとりあえず名前を呼んでみた。すると、それに気づいたレオンと佑真が振り返る。

「お前たち、また来たのか…」

「渚、邪魔しないでって言ったはずだよね?」

 レオンはともかく佑真の冷たい視線が胸に刺さる。一瞬怯みそうになったが、ぐっと堪えて私は反論する。

「佑真がなんて言おうと私は佑真を止めるよ!魔物の強化実験なんて危険なものを放っておくわけにはいかないし!」

 私の昨日とは違う様子に佑真は驚き、一瞬言い返すのが遅れる。

「――渚が何と言おうと僕は止めない。渚がその気なら力ずくで追い払うまでだ」

 佑真はそう言うと、左手につけていたブレスレットに手をかざす。すると淡い水色の光を放って、両手で持って扱うタイプの大きな杖に姿を変えた。

(武器付きの魔術具!?)

 佑真の実家は私の家と変わらない財力だったはずだ。あんな高価なものを与えられるはずがない。…ということはレオンに与えられたのだろうか?魔術具は魔力と馴染むのに時間がかかるから、生まれたときに与えられた物を使い続けるのが常識なのに…。…まあでも例外もいるからなぁ。魔族が作った魔術具は理屈が異なるってこともあり得るし…。

 佑真は杖を構えると最後にもう一度忠告する。

「渚がどうしても退かないって言うなら僕は君を攻撃する。本当にいいんだね?」

「どんなに脅されたって私は退かないよ!こうなったら佑真と戦ってでも佑真を止めてみせる!」

 私は力強く言い切った。

 しかし本当は佑真と戦いたくなんかないし、杖を向けられているこの状況も辛くて、今も手足は小さく震えている。でもこれ以上逃げてたまるものかと目だけは佑真からそらすことなくしっかりとその姿を見据えている。

「…しょうがないね。それならこっちも遠慮しないよ」

 佑真はそう言うや否や杖を構え直し、小手調べに氷のつぶてを私達に向けて飛ばす。佑真は氷属性の魔法の使い手なんだ。

 私はそれをひらりと躱しつつ佑真に問いかける。

「佑真はなんで魔族なんかと一緒にいるの?生きてたなら村に戻ってきてくれれば良かったのに…」

「――渚に話す義理はないよ」

「私には言えない理由なの?」

「話す必要がないだけだ」

 佑真は村に戻らず魔族と行動を共にする理由を頑なに話そうとしない。よっぽど話したくない理由なのか、魔族の目的に深く関わる話になるのか…。

 どちらにせよ理由を話してもらえないのでは私は納得できない。佑真がここまでするのには何か理由があるのだろうと思うし、納得できる理由があれば佑真に対する思いを割り切ることができるかもと思ったんだけど、わかったのは一応何か事情はありそうだということだけで、詳しい中身は全くわからない。

 離れていた間の佑真のことを知るためにも、何とか聞き出すことはできないのかな…。

 私が悩んでいると、佑真の方が逆に尋ねてきた。

「渚の方こそなんでそんなに僕にこだわるの?4年も前にいなくなったやつのことなんて、さっさと忘れてしまえばいいのに」

 その言葉を聞いた私は少しカチンときて、ムキになって言い返す。

「そんなの…そんなの今でも佑真が大切だからに決まってるじゃん!ずっと一緒だった大切な幼馴染みのことをそんなに簡単に忘れられるわけないよ!」

「……っ。僕は渚のことなんて昨日会うまで忘れてたよ。渚も忘れればいい」

 佑真の態度が頑なすぎる。全く人の話を聞く気がない。

 ここまで関わりたくないと言われると逆に意地でも離れてやるもんかっていう気分になってくるよ。

「そんなこと言われたって私は絶対に諦めないから!あと、私の事どうでも良くなったのかもしれないけど、さすがに忘れてたってのは盛ってるよね!?その割には顔見てすぐに気づいてたよね!?」

「それは……」

 なぜか段々とくだらない口ゲンカみたいになってきた。昔毎日一緒に遊んでた頃でもこんなくだらない会話はしなかった気がするのになぁ。

 しかしこんなくだらない会話を続けつつも、実はちゃんと戦いも続けている。しかも佑真がめちゃくちゃ強い。レオンは手を出していないので3対1になっているのにも関わらず、私と話ながらも対等に戦っている…というか、ぶっちゃけ佑真の方が押している。こっちの方が人数が多い上、そのうち二人は余計な話をせずに戦いに集中しているにもかかわらず、だ。村にいるときの佑真はいたって普通の子どもだったはずなのに、空白の4年の間にまさかここまで強くなってるなんて…。

「渚、三人がかりでも僕一人にすら勝てないんだから、そろそろ諦めたら?」

「絶対嫌」

「…っ、ほんとに頑固だね」

「頑固なのはそっちでしょ!戻ってくるか、村を離れた納得できる理由を教えてくれない限りは絶対諦めないんだから!」

 押されているとはいえ佑真がとどめは刺さないから戦いも言い合いもジリ貧だ。ただ、言い合いはともかく、戦いの方は佑真が本気で私達を倒しにかかったり、ましてレオンが参戦したりしたら本気でやばい。

 …なんて思ってしまったのがフラグになった。

「佑真、こいつら口でどれだけ言っても退きそうにないから俺も参戦するぞ。このまま無意味な言い争いを続けても時間の無駄だ。話ならもう十分できただろう?」

 レオンの参戦宣言、今一番聞きたくなかった言葉だ。これで私達はほぼ勝ち目がなくなったことになる。

 …でも全然参戦しないと思ったら、気を遣って話せるように待っててくれたのか。意外と優しいところがある…のかな…?

「――わかりました。追い払うことができず、貴重なお時間を頂いてしまって申し訳ありません。ご協力、よろしくお願いします」

 佑真が頭を下げて一歩下がる。その代わりに一歩前へ出たレオンは魔力を溜めているようで、右手からバチバチと小さく放電している。どうやらレオンは雷属性の魔法を使うらしい。…あ、でもそういえば魔族は得意な属性以外の魔法も使用可能って聞いたことある気がするな…。チートじゃん…。

 そんなことを考えていると、突然九条にグイッと腕を引っ張られた。その直後、さっきまで私がいた場所に轟音と共に稲妻が落ちる。地面が割れてそこから煙が上がっているのを見て、私はその威力にぞっとする。

「渚、ちゃんと戦いに集中して。レオンが参戦した以上、油断してると死ぬよ?」

 こんな感じのセリフを言われるの人生で何度目だろう。佑真のことがあるから言い方はいつもより優しめだけど目が怖い。それに同じ事を言われすぎで、さすがに自分の学習能力の低さが悲しくなってきたよ…。

「どうした?顔が青いな。今のはまだただの小手調べなんだが」

 青ざめている私を見たレオンが小馬鹿にしたような態度で煽ってくる。

 ていうか、確かに軽い調子で攻撃しているように見えたけど、これで小手調べって…。この間の東くんの全力の攻撃に近い威力が出てた気がするよ?

 状況を把握し始めた私の背中を汗が伝う。これ、絶対本格的にやばい。

「次は全力でいくぞ。佑真の知り合いらしいし、せめて苦しまないよう一瞬で終わらせてやる」

 レオンがさっきより遙かに多い魔力を込めながら言う。

 小手調べでもあの威力なのに、全力っていくらなんでもやばすぎない…?

「…さすがにまずいから逃げるよ」

 九条が私と東くんに声をかけ、私達がそれにコクコクと頷いた時だった。突如凄まじい突風が吹いてレオンを吹き飛ばした。ただの風とは思えない、とんでもない威力だ。しかもその風はレオンだけでなくあの機械も吹き飛ばして破壊してしまう。

(な、何これ…どうなってるの…?)

 私達3人は逃げるのも忘れて呆然とその場に立ちすくむ。少し離れたところにいた佑真も唖然としている。

「ちっ」

 レオンは舌打ちをしながら突風の吹いてきた方を睨みつける。

 そのまま少し何かを考えている様子だったが、一度目を伏せた後佑真の方を振り返った。

「佑真、帰るぞ」

「え?」

 レオンの言葉に私達はもちろん、佑真も驚きの声をあげる。

 いくら機械が壊れたとはいえ、それだけで急に帰るなんて言い出すものだろうか?確かに機械がないと実験ができないからここにいる意味もないだろうけど…。

「早くしろ」

「は、はい!」

 レオンの短い命令に、突然の出来事で放心気味だった佑真が我に返ったように慌てて返事をする。そして、佑真は唖然とする私達、レオンは突風の吹いてきた茂みの方を一瞥した後、そのまま闇に溶け込むようにしてどこかへと去っていってしまった。


「なんだったの、今の…」

「ただの突風…じゃなかったよな…?」

 私達はレオンがしきりに気にしていた茂みを見てみるが、そこには特に何もない。でもそれは果たして最初から何もなかったのか、それともさっきまでは何かがいたのか…。

「――気にはなるけど、考えても仕方のないことだし、とりあえず今は助かってよかったと思うことにしよう。一応実験も中断されたことだし」

 言われてみれば機械が壊れて撤退していったんだから、実験も中止になったということになる。このままやめるとは思えないし、機械を直してまたここに戻ってきて実験を再開するか、ここじゃなくてもどこか別の場所で似たようなことが行われるだろうけど。それでも一応は私達の目的は果たされたことになる。

 ただ、佑真でも強いと思ったのにレオンの強さは別格だった。正攻法ではまず勝てそうにない。でも実験を止めさせたいのなら、どう考えてもレオンを倒さなければいけない。

 しかもレオン達が行っているのが魔物の強化実験だけだとも思えない。それにそもそも人間界で何かを企んでいる魔族は果たしてレオンだけなのだろうか?あんな化け物じみた強さのがごろごろいたら、ますます対抗できる気がしないよ…。でも佑真のこともこれで終わりにはしたくないし…。


 目の前の危機はなんとか脱することができたものの、まだ気になることも課題も山積みだ。宿に戻った後も色々と気になることが多すぎて、私は昨日とは違った意味でなかなか寝付けなかった。


次回から三章に突入します。また新キャラ(男)も登場しますよ。なぜか五章まで新しい女子キャラが出てくれないのです…。

ちなみに某人物のせいで個人的に投稿のハードルが高い章だったりします。

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