プロローグ
プロローグなので三人称ですが、1話以降は一人称になります。
「はぁ…はぁ…はぁ………」
森の中を少女が全力で走り抜ける。白銀のロングヘアーに薄い茶色の目をしたそこそこ顔立ちの整った少女なのだが、春半ばの暖かい日であるにも関わらずなぜか暖かそうなマフラーをしている。
「確かこの辺りだったと思うんだけど…」
少女が呟いた直後、少し西の方からかすかに遠吠えのようなものが聞こえてきた。それに気づいた少女は、声のした方へと全速力で向かう。すると3分もかからず少し拓けた場所に出た。そこには遠吠えの主であろう体長2メートルほどの狼型の魔物と、魔物に睨まれて震えている幼い女の子の姿があった。少女はこの女の子の悲鳴を聞いて駆けつけたのだ。
よく見ると女の子は右足を怪我して動けないようで、泣きそうな顔をしながら魔物と怪我を交互に見つめている。おそらく逃げている途中で転んでしまい、怪我のせいで逃げることすらできなくなったのだろう。恐怖と不安に歪む顔を見た少女はたまらず飛びだした。
「助けに来たよ、もう大丈夫だからね」
少女は女の子を安心させるように力強く声をかけながら背負い、魔物から少し離れた場所へ移動させた。
「…お姉さんは?」
助けが来たことで多少は安堵しつつもまだ不安の拭えない顔で女の子が尋ねる。
「私は渚、こう見えて退魔師なんだよ。だからもう大丈夫」
退魔師は魔物退治を生業とするものの総称だ。つまり魔物との戦いには慣れている。そのため渚の言葉を聞いた女の子の表情は一気に緩んだ。
しかし渚は大丈夫と声をかけつつも女の子と目を合わせられずにいた。
……不安にさせるだけだし、正直あまり強くないことは黙っておこう。
この世界の者ならば程度に差はあれど誰でも使えるはずの魔法がなぜか渚は全く使えない。魔力はある…というか他人より多いくらいなはずなのに、だ。
威力が弱いだけならよくあることだが、全く使えないというのはかなり異例なことらしい。それなのに魔力が特に強い者がなるはずの退魔師になるなんて無謀過ぎると、渚は周囲の者に散々止められた。事実魔法が使えないというのはかなり大きなハンデになるため反論しにくかったが、それでも諦められなかった渚は体術を鍛えることで反対を押し切り今までなんとかやってきた。しかし、やっぱり強力な魔物相手だと一人で戦うのはなかなか困難なのだ。
(…とはいえこのくらいの相手ならたぶん大丈夫だと思うんだよね。狼型の魔物とは相性がいいし)
あまり強くはないとは言っても、渚は決して弱いわけでもない。雑魚なら普通に倒せるし、目の前の敵は雑魚に毛が生えた程度なのでたぶんよっぽど大丈夫…なはず。…大丈夫だよね?
プロローグなので短め。1話も短いので同時に投稿しようと思います。