それぞれの想いと未来
「そこにいますよね、猫神様」
公園から帰ろうとした直後、背後から呼び止められた。ゆみだ。
『おや、気付いてたのかい』
「ここにいるかどうかは勘でしたけど、絶対どこかで見ていると思ってました」
『やれやれ。見つかっちまったついでに、聞いても良いかい?』
「良いですよ。何ですか?」
『この騒ぎは何の為にやったんだい?』
「私考えたんです。悪い事をしてる訳じゃないのに、コソコソやるから変な噂になるんだって。だからもう、武史君が普段やってる事を皆に見てもらえば、他の人達から認めてもらえるんじゃないかって」
『あの子供達は?』
「事前に近くの幼稚園をいくつか回って、希望者を募集したんです。小さい子供なら、武史君でもあまり抵抗無く一緒にいられると思って」
『なるほどねぇ……アンタの思惑は分かった。見てる限り、ある程度の効果はあっただろう。でも一つ忠告』
「え?」
『猫への餌やりを隠れてやっていたのは、野良猫そのものを良しとしない人間がいるからさ。この街は理解者が多く騒ぎになっていないが、それでも用心に越した事は無いのさ』
「そんな……私、何も知らずに」
『そう落ち込みなさんな。確かに冒険ではあったが、発想自体は悪くない。これからは、アタイや兎羽に相談してみると良い』
「はい、ありがとうございます! ところで、"うさは"って」
『ハッハッハ! そうか、たまに会っていたが、名前までは知らなかったか。あのいつも危なっかしい、武史の母だよ』
「ああ。たけママさん、そんな名前だったんですね」
勝手に変なあだ名が付いていた。
『それじゃあアタイは失敬するよ。頑張りな』
「はい!」
この分なら大丈夫だろう。これは土産話が捗りそうだ。
「もうちょっとそっちに寄って下さい、猫神様。もうその大きさ猫じゃありませんよね」
『アンタこそ寄りな、そんな細っこい体してるんだから』
今アタイと兎羽は、社殿の物陰からこっそり覗き見している。
その先には……
「武史君」
「はい?」
「私、やっぱり邪魔かな?」
今まさに、審判の時が訪れようとしていた。
「……今の僕には、答えられません」
即で拒絶しなくなっただけ進歩か。
「これまで、あなたが僕の為にどれ程考え、行動してくれているかは理解しているつもりです。ですが、やはり僕には人間の世界に入る事は出来ません」
「良かった」
「え?」
「出会った頃の武史君は、それこそ取り付く島も無かった。でも今は、少なくとも人間と一緒にいる事を考えてくれてる」
「……」
「大丈夫! その意思があるなら、私が君と人間とを繋いでいてあげる」
「しかしそれでは」
「だから、君には私と猫とを繋いでいて欲しい、かな。私にとって、それだけで一緒にいる充分な理由になるから」
「麻田さん……分かりました」
「それじゃあ約束。そうだ! 約束の印に、これから私の事は夕美って呼んで」
「むぅ? そうですか」
上出来じゃないか。この短期間で良くこれだけ……
「武ちゃぁああん!!」
あっ、待てこの馬鹿!
今飛び出したら色々ぶち壊しだろうが!
「え? お母さ……うなぁ!」
あ~あ、やりおった。
息子の成長を喜ぶのは否定しないが、もう少し辛抱するべきだったねぇ。
『まったく、仕方のない母親だねぇ』
もう隠れていても無駄なので、三人の前に出て行く。
「一体何があったんですか? 猫神様」
『武史の知らぬ所で、色々あったのさ。まぁ一時的な発作のようなものだから、気にする事も無いさ』
「むぅ……」
『みゆ、良くここまでしてくれた。感謝してるよ』
「いえいえ、これは私が自らやると決めた事ですから」
『ふふ、そうかい』
人間は一人ひとりの個体差が非常に大きい。それ故時に衝突し、時に不合理な行動を起こす。
でもだからこそ、集まれば無数の景色を映し出し、アタイを飽きさせない。
みんな違ってみんな良い、は誰の言葉か忘れたが、正に人間の本質を表したものだと思う。
『この先どうなるかなんて分からないけど、だからこそ楽しみでたまらないよ』
お付き合いいただきありがとうございました。
楽しんで貰えたなら幸いです。