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1話ーー黒霧事件【起】

2200年4月


西の果ての地、イギリス・ロンドン


時計塔、世界特異監視室



「極東特異地区・オリエントの観測が何者かによって遮断されました!」


監視室にいるのは1人の人物。その人物、監視者の周囲にはドーム状にモニターが張り巡らされ、どこを見ても液晶画面があるだけの部屋だ。

その液晶画面の1つが点灯し、慌ただしい様子を十二分に伝えてくる音声が流れる。画面には極東を観測していた映像が映っていた。


日本と呼ばれる国は島国だ。極東の島国と呼ばれるその列島のさらに東に、どこの国にも属さない孤島が浮かんでいた。


しかし、今送られてきた映像にはその孤島が黒い影で塗りつぶされ、観測不可能になっている。



「オリエントに配属している者達との連絡は?」

「昨晩の定時連絡を皮切りに途絶えております!」



特異地区では想像を超える事態が日常的に発生している。そのための監視室なのだ。

今までにも異常が報告されることはあったが、ひとつの特異地区が丸ごと監視できなくなることは初めてだ。



「オリエントの監視はそのまま続行、変化があった場合、即座に報告を。定時連絡は3時間に一度」

「了解しました。監視に戻ります」

「ご苦労さま」



異能監視官の生体モニターは依然として正常値を保ったまま。まだ焦る必要もなく、ましてや対処に動く必要も無い。


「さて、どんな事件になっているのか」



極東特異地区・オリエント


特異監視支部


「案の定、定時連絡は不可能っぽいっすね」

「黒いモヤ? 影? 該当しそうな()()()は?」

「んー、流石にこの規模となると……居ないっすね」


異能者が生きる街、特異地区、呼び方は様々なれど、意味することは1つ。

人類という種族の理を逸脱した超人類が集められた街という事だ。


人が本来持ちえぬ力を扱う彼らのような人間ばかりが住むこの島では、異常こそが日常、まともな感性ではやってられない。



しかし今回のようなケースは稀だ。

昨日、昼が星の無い夜空に支配され、朝はまだやって来ていない。

島中が影に包まれ、外界から遮断された。外の様子がどうなっているかは分からないが、中から外に出ることは不可能だった。

部下に船を出させたが、影の中をさまよい続け、燃料切れで島に戻ってきた。時速40キロで2時間は影の中を進み続けた。

衛生映像では影の厚みが80キロもあるようには見えなかった。何らかのカラクリがあるのだろう。

それが『方向感覚を狂わせる異能』なのか『閉じ込める異能』なのかは分からない。


室長からの命令は『待機』だ。



「立川、ここよろしく」

「いいですけど、先輩どこ行くんっすか?」

「ちょっと散歩してくる」

「変なところでサボり魔になるんすから。まぁ了解です」

「ありがと」


私達が所属している組織『GOR』は異能者を監視し、管理している。組織の規模、とくに構成員に関する情報は一切ない。


構成員の増やし方は一つだけ。本部の監視室から住所と人相と名前だけが伝達され、そこに私達はスカウトに向かう。

基本的には特異地区以外、つまり普通の社会に溶け込んでいる異能者をスカウトする。

今直属の部下である立川新造たちかわしんぞうもその1人だ。



このオリエント支部には6人の監視官と見習いがいる。監視官と見習いのツーマンセルで行動し、オリエントという孤島を6等分して各チーム監視に当たっている。



異能者だけならば、監視官が必要になることはなかっただろう。一般人が力を得ても、それをそのまま悪行に転用しようと考える者は多くないはずだ。

それにここでは自分だけが特別な能力を持っている訳では無い。

1人が秩序を見出そうとすれば、直ちに周りの一般人に制圧されることになるだろう。



だが実際問題、監視官は必要だ。異能者の一般人からもその組織は必要とされている。

その理由はただ一つ。

異能者の暴走、自我の変質だ。



異能者本人の自我が異能に乗っ取られ、『鬼』になる。『鬼』となった異能者は問答無用で処分されるが、『鬼』となった異能者は別格の力を手に入れる。

そのため、『鬼』との戦闘は大きな犠牲を強いられる。


今起こっている事件も、『鬼』の仕業としか考えられない規模だ。


眼には眼を歯には歯を……鬼には鬼を。


正直なところ、私達だけでは今回の事件は解決できないと考えている。

単純に人手が足りないということもあるが、この規模の異能を発動させる鬼と退治した時、こちらが勝ちきれる保証がない。

むしろ、勝ち目は少ないだろう。



すっかり機械化が進み、鋼鉄の町となったオリエントのビル群の中を進んでいく。

異能者と言えど人間は人間。普通に企業に務め、給料で過ごしているものがほとんどを占める。


とあるビルの前で立ち止まる。


おかしな所が見当たるかと問われれば、おかしな所はないとしか答えられない。

しかし、この目の前のビルが他のものとは異質だ。


「あまり使いたくないんだけど、出てきてくれることはないもんね。【異装の魔眼】」



私の場合、少し特殊な例だが、異能発動によるアザが目の瞳に現れる。


黒瞳から紫瞳へ、それを合図に異能は発動された。


右目が少し痛み、手で押えた時には……目の前のビルは跡形もなく消え去っていた。

残ったのは、一つの椅子と、その上に座る男だ。



「……何日ぶりになるんだったっけ?」


「さぁ? あなたが1人で出ていってないなら。そうね、100日ってところじゃないかしら」


「まともな返答できるってことは、まだ魔眼姫のままかー。次会う時には鬼になってて欲しかったのになぁー」


「それは無理なお願いね」


呑気に会話を続ける男。いや、青年。

だが、軽めな口調やただの高校生のような外見とは裏腹に何を考えているか分からない存在。


異能の上位能力とも言うべき権能を備えた危険人物。

私はこの青年に手助けをしてもらいに来た。


「本題に入るけど、さすがに犯人とかは分からないよね」


「今回のは単純じゃないね。ただの鬼化の事件の方がまだ分かりやすくて楽だよ」


さらっと今何が起きているかを把握しているところも恐ろしいところだ。


「それってどういう意味?」


「鬼だったらむーちゃんが気配を感じられるんだけど、今回は鬼の気配を感じない」



前もそうだったのだが、この青年は鬼の気配を感じることが出来る。

前回手助けを頼んだ時は、そのまま鬼のところに向かい、戦い、勝った。


その青年が今回は単純じゃないと言った。

前回の時は30人以上の被害が出ていた。しかし、今回は目立った人的被害はない。


あの惨事を超える可能性を秘めた今回の事件。

早々に協力を求めて正解だった。


「まあ島を覆うほどの規模の異能ってことは何かあるはずなんだよな。協力するよ、もしかしたら、俺と同類かもしれないしさ」


彼の同類。私たち監視官は正確に彼の正体を掴んでいるわけではない。

そんな未知の戦力が新たに現れる、その事の方が鬼の出現よりも危機感を抱くべきことかもしれない。


「とにかく、現場に急行だね」


どうやら、鬼の気配ではないが、奇妙な気配は感じとれているらしい。

青年の案内に従って歩くこと30分。


私たちがその気配の元に到着する前に青年が呟いた。



「やばいね」



確かに彼の顔には明確な焦りがみてとれる。

しかし、オリエントを覆う異能にも変化は見られない。


「何か変化があったの?」

()()()

「っ!? 何が?」

「半鬼の気配」



半鬼化と聞きなれない言葉と、増えたという聞き流せない言葉が青年の焦りを私の心に伝播させていく。



「半鬼って奇妙な気配のこと?」

「おそらく……感覚的なものでしかないけどね。そして、それが増えた。元々俺たちが追っていた半鬼の気配は濃くなったね」


半鬼化は先例がない。

もし理性が残った状態で鬼化した……そんな都合のいいことはないだろうが、もしそうならば、まだ手の打ちようはある。

だが、監視の目から逃れようとしている時点で後ろめたい何かがあるはず。


「やばいな。結構バラけてる。島を覆う異能はこれをギリギリまで隠蔽することか?」

「ということはまだ何かやらかす、その準備段階ってことになるわね」


何者かが人為的に鬼を増やそうとしているのか、それとも、計画を成功させるために自ら鬼の力を飲まれているのか。


「あっ、気づかれた。逃げろ……魔眼姫! 半鬼の気配が多いのは西、少ないのは北だ!」


「鬼が来るのね!!」


「違うけど違わない! ここは鬼の巣だ!」


この時まで青年は奇妙な気配は一つだけしか感じ取っていなかった。

しかし、追いかけていた気配を塗りつぶすかのように、周りの気配が一斉に鬼のものに変わる。


つまり、周りにいる人たちが半鬼化しているのだった。


「まさか!?」

「そうだ! 誰かが人為的に鬼を増やしてる!」


そんな馬鹿なことが、と言いたいところだが、それすらも惜しいほど危険な状況だ。

私の【異装の魔眼】では対処しにくい状況だ。


「ここは任せるわ! 頼んだわよ」


黒幕がいる。

私はそれを突き止め、記憶の在処を聞き出す!



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