表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/76

光の正体

楕円の光が、徐々に近づいてくる。

眩くて、なにも見えない。


その声は、低く、重く、ずっと奥に響く。


「……だれ!?」

「ここで何をしている」


目を凝らしても、その姿は見えない。光に目を焼かれるばかりだ。腕で目を覆って、光に向かって叫ぶ。


「……この樹を復活させたのか」

「だったら、なによ!」

「ーーここにどうやってたどり着いた?」


問いただすばかりの光から目を背けて真下を見ると、その光で照らされた谷底は、はっきりとその姿をあらわにしていた。影の落ちた樹の脇の地面には魔法陣が描かれている。見覚えのある魔法陣だった。


「ーーーー私は……ここで?」

「……記憶は、ないのか」


どこか、聞き覚えのあるような、その声を必死で思い起こす。不思議と恐ろしいとは感じなかった。


「……マリア様! この光は!?」


マルバスの必死の呼びかけに、私は思わず振り返る。眩しすぎる光に、マルバスは獣の目では耐え切れないのか、人の形に変えて目を覆っている。


「危ないです、戻ってください!」


マルバスがその体を前に乗り出したとき、枝が大きくたわむ。バランスを取ろうと枝を掴んだけれど、しなる枝は耐えかねてグッと下がっていく。指先が石に触れた。どうせこのまま落下するのならと、その石を手に伸ばす。冷たい感触と浮遊感は同時だった。


「マリア様!!」


枝が大きく跳ね上がる。その感触にマルバスは、私が落下したのだと勘づいて、叫んだ。


「……ま、るばす……?」


ふわふわと、浮かんでいる。

光の中に、自分の体が。あれほど眩しかったのに、その光の中に体をおけば、そこは見晴らしのいい場所だった。

殺伐とした谷底がよく見える。呆然としたマルバスも。


自分の体が抱き上げられていると知ったのは、膝の裏と背中に回った腕に気づいたからだ。恐る恐る視線を持ち上げると、そこにいたのは………。


「フラウロス……」

「ーーーーあれほど騒いで、よくものこのこと戻ったものだ」


ぼそっと呟いたセリフはあきれ返った口ぶりだったけれど、怒りは感じない。


「……なぜ私を助けるの、フラウロス」

「ーーーーその石が……聖職者としての力が、この世界に必要なのですよ、マリア様」

「この世界に……この世界を、あなたはどうしたいの」

「ーーーー今となっては、もうわからない……」


思い詰めた声に、思わず押し黙る。

その横顔は、寂しげで、あまりに人間的だった。その表情に絆されたのかもしれない。私は、一呼吸おいて、諭すように話し始める。


「……あなたの探す妃を……多分、見つけたと思う……」

「……なっ……!」

「ーーーー殺さなくてはいけない? あなたの顔は、まるで人間みたい。愛している人がいる、人間みたいなんだもん……。この石をあげる。必要なら、私が残ってもいい。だから、殺さないで。アンナは……何も覚えていないの……でも、ルシファーを愛してる。自分の息子を、とても愛してる。あんないい人、どうして殺さなきゃいけないの?」


感情的すぎる私の理屈を、フラウロスがどう感じたのかはわからない。

無言のまま、フラウロスは、ぐんぐんと上昇していく。深い谷底は、どんどん遠くなって、落ちたあの場所にあっという間にたどり着いた。ゴロゴロと石が転がるその場に下ろされて、地に足がついたというのに、浮遊感が消えない。


「……マリア様、あなたは彼女と違って、我が子を捨てても、支障なかったようだ」


フラウロスの言葉に、発作的にその頬を打った。


「そんなわけないでしょう! あの子を置いてきた私の気持ち、あなたなんかにわかるはずがない!」


そのびくともしない胸を左手で押して、何度も叩く。


「ルシファーとあの子のところに帰るために、ここにいるの! 必要なら、あなたを……」


右手の石を、フラウロスの鼻先に掲げる。


「……どんな力があるのか、わからないけど、これであなたを倒す」

「ーーふっ、ふふふ……」


フラウロスが笑い出す。


「威勢の良い方だ……。ルシファー様が愛した理由もわからなくもない……」

「あなたがルシファーを育てたんでしょう!? このままでいいの!? ルシファーは眠ったままだって聞いたんだけど……!」

「私が眠らせた」


フラウロスの言葉に凍りつく。

ということは……反逆罪の主犯は……フラウロスってことなの……?

私、こんなとこで、ラスボスにたった一人で……立ち向かってるってこと!?


「ーーーーなんだっていいから、ルシファーを……目覚めさせて!!」


頭の中でいろいろなことがごちゃごちゃと混じり合う。それを吹き飛ばすように、私は大声で叫んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ