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伝説の場所

 魔界の空気は、やはり人間界とは違った。

 湿っているような、じっとりとした重さが体にまとわりつく。


 ここから先は、悪魔の本拠地。

 どこでエンカウントするかわからない、RPGの世界だ。もう今までと違って、誰の庇護下にもない。


「先を急ぎましょう」


 黒獅子の濡れた鼻先に促されて、マルバスの背中に乗る。

 ここでは、まがまがしい悪魔の魔力が満ち満ちていて、姿を変えても問題ないらしい。姿を変えたマルバスは、私とモートルをのせても支障がないようだ。


「ここは息がしやすいな」


 機嫌のよさそうなマルバスの声に、彼らは悪魔なのだと再確認する。


「俺は乗せてもらえねーの?」

「お前、一応勇者だろ」


 吐き捨てるマルバスは素っ気ない。


「てかさ、マリア〜。おまえ、ああいう作戦あるなら、なんでモートル置いてこなかったんだよ〜〜」


 勇者の呆れた顔に、ハッとする。そうだ、確かにその通りだった。


「え、あ、そう言われたら……」

「所詮マリア様ですよ? バアル様を置いてくるって思いついただけでも褒めてあげてくださいよ」

「ちょ、ナアマひどくない!?」

「そうですよ! 俺っちは、絶対魔界に行きたかったんですからね!!」

「いや、モートル、そこじゃない」


 わーわー騒いでいると、ラーラがぴたりと立ち止まった。空を見上げて、首をゆっくりと左右に振った。


「……なつかしい……」

「ラーラ?」

「ーー私、ここを知っています」


 あたりを見渡すラーラを窺う。目を見開き、何かを探しているラーラを私は見守る。


「まさか、ラーラは生まれて人間界を離れたことなんてないはずだ」


 勇者は不思議そうに首を傾げる。


「我々、ドラゴンは、先祖の記憶も継承します」

「……だったら、魔界にもドラゴンはいるのよ。祖先が同じなのかもしれない」


 私の言葉に、ラーラは振り返る。


「えっと、魔界のドラゴンはね。バティムって言うの。凄くいい悪魔なんだ」

「……悪魔?」

「……うん、悪魔」

「ドラゴンは、ドラゴンですよ。悪魔なんかじゃ……」


 口許に手を当てて、何か思い悩んでいるラーラを覗き込む。


「大丈夫?」

「あ、いえ。大丈夫です」


 ラーラは物静かだ。口数は少ない。けれど、面差しはとても聡明で、きっと色々なことを考えているのだろうと思う。この子がブリトニを守ってくれるなら、安心だ。


「バティムって……ドラゴンは……いったい何者なんですか?」

「何者って……フラウロスって昔偉かった悪魔の手下みたい。エリゴールととっても仲良しなんだ」

「……フラウロス……」

「やっぱり、そっちでも有名なの?」

「名前は聞いたことがありますが……たしか……その悪魔は……」


 思い出そうとしているラーラに合わせるようにとなりを歩いていたマルバスが、小さく歩幅を広げた。


「ここが伝説の……」


 マルバスはナアマのそばまで走りよる。


「空気が変わった……」

「あぁ、確かに」


 二人の悪魔が、顔を見合わせている。


「急ぎましょう、ここはあまり良くない」

「……ここが、悪魔の伝説の場所?」

「そのようです。我々もここには来たことはありません」


 みんなの歩調が徐々に早まって、走り出す。


「……怖い場所なの?」

「……ここには立ち入るなと、暗黙の了解があったので」


 ぐんぐんとスピードが上がっていく。もうその速度に追いつける人間はいない。

 勇者は飛ぶように走るラーラに捕まっている。

 だんだんと霧が濃くなっていく。

 草一つ生えない、重なり合う岩の合間をすり抜けて、ただただ降りていく。

 走っているのか、滑っているのか、もうわからないけれど、勢い良く上下するマルバスの動きに合わせて、背中に背負った石が背骨に当たる。私の前に座って、マルバスにしがみつくモートルは、声一つ上げず食いしばっている。

 私も振り落とされないように、必死で捕まった。

 どんよりした雲が、黒雲に変わって、重い何かを孕むように、下へ下へと垂れ下がってきている。

 時折ビリビリと雷が細かく走るさまを横目でみていて、下山までこの天気が持たないことを覚悟する。


 パタ、パタ。


 大粒の雨が地面に落ちてくる。


 光は遥か遠く、バリバリと音がいっそう大きくなる。

 雨を凌がなくては、濡れれば体力は奪われて、下山することもかなわないかもしれなかった。


「マルバス、どこか……雨を」


 バリバリバリ……!


 目の前が一瞬、真っ白になる。


 ドォォン!


 爆発音のような地鳴りでみんなが飛び上がった。

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