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狂気山脈

「……これはもう、坂道とか、山道とかじゃないわ」


 ゼイゼイと息を弾ませながら、ドーンとそびえ立つ断崖絶壁を見上げる。もうだめだ。引き返すことを真っ先に考えた。

 切り立った岩の隙間に、お情け程度に草が生えている。昔、ここで噴火があったのだろう、そのときに吐き出された岩が、ゴロゴロと積み重なっている。

 鋭い灰色の世界と空の青のコントラストが、目に痛いほどだ。


「この道にするとおっしゃったのは、マリア様ですよ」


 ナアマの完璧な尊敬語は、彼女の怒りに反比例している。


「……もっとホラ、あると思うじゃない? 悪魔がいっぱいいるんだから、魔力とか魔力とか魔力とか……」

「言いましたよね? そういう目立つことはできないって」


 ナアマのひと睨みに、私はもうそれ以上何も言えなくて、黙って歩き出す。悪魔の力は、お互い感知されることもあるらしく、とりあえずは自力で進むしかないようだ。バアルは大丈夫なのかと聞くと、普段のバアルの力はまだ赤子同然の微弱なものらしい。

 考えてみれば、ここにいる悪魔たちは、城に出入りするいわば、悪魔のトップエリートなんだと思い出す。


 そんな経緯で、私たちは、魔界の危険エリア・通称・狂気山脈と呼ばれる場所を歩いている。地名も言われたけど、私には発音できない名前だったから、もう聞き返しもしない。


「これ、何日かかりますかぁ〜〜?」


 私のセリフに、もはや誰も返事もしてくれなくなった。


 クッソォ、一応、魔王の妃なんだぞ。

 なんて毒づいてみたところで、私のせいで謀反人(悪魔?)にされたメンバーには、私に対して恨みこそあれ敬意なんてないに決まっている。


 このルートを選んだことも、そして、黙々とそれを歩き続けられない根性のなさも、みんなをイラつかせているのは重々承知だ。

 だけど、この道を文句も言わずに歩き続けられるほど、人間ができていない。


 険しい道のりは、魔界に入る前の人間界からの山から始まっていた。荷物らしい荷物は、マルバスとエリゴール、勇者も持ってくれている。とは言え、石だけは持ち上げられる私とアンナが交互で石を持っている。まぁ年齢的に私の方が持つ時間が長いのは仕方のないことだ。


 バアルはちゃんと自分で浮いているし、何なら多分、私のことも少しは軽くしてくれているのかもしれないけど、結局のところ、子供なんだから、これ以上望むのは母親として情けないことなんだろうなぁ……と思わないわけじゃない……(けど)。


 あの時、石の力を借りて大きくなったバアルは、あの後、よほど疲れたのか二日ほど寝込んでしまい、その間成長したバアルのリアルな重さを痛感しながら山を登った。

 まぁ、あの時はまだ山の坂はなだらかだったし、これほど強烈ではなかったから問題なかったのだけれど。

 石の力は、無限ではないらしい。そうなると気楽には使えないのだと思う。


「バアルをパワーアップして、この山を越えて、終わったらバアルを抱いて魔界の山を下るのはどう?」

「……むしろ、なにが起こるかわからないあちらまで、バアル様の力は温存しておきたいですね」


 クレバーなエリゴールの返答に、ぐうの音も出ない。


「ですよね」


 ずんずん進むみんなは、もう私の亀の歩みに付き合ってくれない。

 私はただ、みんなの後ろ姿を見失わない速度でついていくのがやっとだった。


 ハァァとため息をつくと、何か背後で影がちらつく。

 パッと振り返ると、何もない。

 実は、昨日から、何かの違和感を感じている。

 背後に、何か気配を感じるのだ。

 でも、何かあるなら、これだけ手練れがいるのだから、気づかないわけがない。

 私だけが気付くなんて、そんなことはあるはずがないのだ。

 首を傾げながら、先へと進む。


 その時、ガラガラっと大きな音がして、山の上から落石してきた。


「きゃあ……!」


 迫り来る石を、身動きも取れずに見ている。

 大きな影が、視界を遮った。


 ーーーーこんなところでゲームオーバー……?

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