異世界の地図
この世界の仕組みがわかっていなかったけれど、海があって、二つ大陸があって
その真ん中で分かれているのだと思い込んでいた。
「……地図見るの、初めてですか」
「うん、初めて」
でも、こうやってみると、球体かどうかも怪しい。
いや、多分、球体は球体なんだけど。朝も夜もくるのだし、季節もあるみたいだから。
砂時計のような大陸が、二つ、ハの字に並んでいる。
それに、よく見ると一番近付いた大陸の部分は糸のような細い山脈で陸も繋がっている。
「この世界は、反転しているのです」
「反転?」
「対になるものが必ずあります。山、川、湖、平野もそうです」
エリゴールは、地図を指差しながら説明してくれる。
「土地の活用は、お互い全く違うようですがね。魔界は命を育まない、この世界のように、何かを育てるということはない」
「もったいないよね、あそこの土地、割と作物育てるのに向いてるのに」
「そうなのか?」
「そうなのよ、大きく育つんだよね」
私と勇者が盛り上がっていると、マリアが割り込んでくる。
「こちらは人口増加で、食糧難よ」
「……戦で悪魔の数は減って砂漠化で拠り所も減っている」
「悪魔は新しく生まれないって言ってたけど、じゃあ、今いる悪魔はどこから来たの?」
「……そんなことも教えていないのか? ナアマ、何をしてたんだ。世話係だろう?」
エリゴールがナアマを責めると、ナアマがしれっと答える。
「生贄になるって聞いてたんで、そういうことお教えする必要性があるとは思いませんで」
ぐっと詰まるエリゴールを見て、思わず笑うと、エリゴールが私をにらんだ。
「まぁ、簡単にいうと、悪魔は悪魔の樹になる実に宿るという言い伝えがあるのです。昔はその樹に実はたわわになったとされていますが……。樹こそあるものの、その実を見たものはおりません」
「悪魔の樹……」
「そもそも、長い時間がたちすぎて、我々はどこから来たのか、誰も覚えていない……。本当に始まりはその悪魔の実だったのか……」
遠くを見るエリゴールが、虚ろだった。
「それに、その伝説の樹でさえ砂漠化で枯れ始めています。……あの大樹は近くに枯れ果てるでしょう」
「じゃあ、悪魔はこのまま行けば自滅してくれるってことだ?」
無神経な勇者の言葉に、悪魔たちは殺気立つ。
「我々の寿命は長い。お前たち人間の食糧難が続けば、愚かなお前たちは共食いでも始めるだろう」
勇者が飛びかかろうとするのを、私は間に立って、引き止める。
「我慢比べじゃないんだから。だったら、ルシファーの言ってた母なる海がどうこうっていうのは……?」
「これも伝承ですが……悪魔の樹は、母なる海から種が流されてきたという一文が……おそらく、それを探すためでしょう」
ずっと黙っていたアンナが、割り込んでくる。眉根を寄せて、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「だったら、あの子は……悪魔を助けたいの? だったら、どうして……悪魔を閉じ込めようとしたの?」
「……アンナ……ううん、お母さん。それは、ルシファー本人に聞かないと」
必ず二人を会わせたい、そうすれば、何かが変わる気がする。
「じゃあ、まず、こちらの世界からこの山脈を登って行って、あっちに入ればいいのね」
「……地図を指差すだけなら簡単ですけどね」
「え、ラーラの背中に乗せて貰えばいいじゃない?」
一斉にみんなの視線が私を突き刺す。
「何のためにこんな超絶危険ルート選ぶと思ってるんですか? 隠れる気、あるんですか?」
ナアマの声が震えている。それにみんながなんども頷く。
「この世界に一頭しかいないドラゴンの背中に乗って魔界に入って、見逃してもらえるなんて思ってんのか? ーーーーとんだお花畑なオツムだな」
勇者の言葉が突き刺さる。
「だ、だけど、この道は……アンナには厳しいかもしれないわね」
「いや、マリア様でしょ」
「え、大丈夫だよ! 私はいけるって!」
「……そうですよね〜〜、やってやれないことはないんですもんね〜〜?」
ナアマのわかりやすい挑発に、思い切り乗ってしまう。
「そうだよ! 武士に二言はない!」