魔界の山
焼かれた村は、いくら鎮火したとはいえ、日常を取り戻すまで時間がかかってしまうだろう。
焦げた匂いが鼻腔にこびりついてしまった。
こんな悲しいことを、繰り返さないために、一刻も早くこの戦いを終わりにしないといけない。
「マリア様」
ナアマの声に振り返る。準備を終えたみんなが集まっている。
魔界へと向かうメンバーは、私、バアル、悪魔たち、アンナ、勇者、ラーラ。
思いの外大所帯で、これで移動するのは割と目立つ。
厳戒態勢の魔界に突入するルートは、本当に悩ましい。
「これは目立つな……」
「目的で別れた方がいいだろう」
勇者とエリゴールが真剣に話している。敵味方に分かれていたはずの二人が、こうして組むことができるのだと思うと、心強い。
「俺は、マンバとブリトニを探す」
「私もそこに参加させて」
勇者とラーラはそれにしか興味がないようだった。
「石は……マリア様にしか探せないだろう」
「……バティムの記録にあるはずなのよ。私がどこに召喚されたか、書き残しているはず」
「じゃあ、バティムを探さなきゃ」
「違うの、あの記録は、人間の村にあったはず……悪魔の文字で書かれてて、私じゃ読めないのよ」
「ーーーーじゃあ、ひとまず人間の村に向かおう」
エリゴールの提案に、みんなが一斉に頷く。ただ一人を除いて。
「私は、ルシファーを探したいのよ……」
アンナの振り絞る声に、みんなの視線が集中した。アンナの血の気の引いた顔を見て、誰も何も言えなくなる。
「ーー魔王様の状況を知るために、城下町に潜んで情報を得なくちゃならないな」
「……それは、姿を変えられる私がするわ」
「俺は料理人だ、街には材料の買い付けで使っていた奴らも多い」
「じゃあ、ひとまずは……お前たちは情報収集を頼む」
「私もついていっても?」
「ーーーー申し訳ないが、人間は目立つ」
エリゴールの言葉に、アンナは目に見えて落ち込んだ。
「問題は、どうやって魔界に入るか、だ」
「最短ルートで突っ切ろう」
勇者の言葉に、エリゴールは首を振る。
「最短ルートは、魔族も利用している。バアル様があの結界を破れると知って、向こうはかなり監視を強化しているだろう。この人数だ。向こうは本拠地。かなりの数をこちらに派兵しているとしても数は圧倒的だ」
「……じゃあ、どうすればいいのよ」
たまらなくなって口を挟むと、エリゴールは小さな顎を撫でながら、ゆっくりと話す。
「魔界には、誰も立ち入らない山がある」
「山……?」
「……そこにはある悪魔が住んでいて、それは魔王にも匹敵する力を持つという……」
「あれは伝説だろう? 誰も見たことはない」
マルバスが口を挟むと、エリゴールがピンと片眉を上げた。
「だとしても、あの山には誰も行かない」
「あの山の地形が、あまりに危険だからだ」
「活火山で、いつ噴火するかわからない。一度噴火すれば、地獄の烈火が辺り一面焼き尽くす。その時に吹き出す熱風は、我々の羽を瞬時に焼き尽くすと……」
「それも言い伝えだ。私の知る限り、ここ数千年、あの山は噴火していない」
「あそこは呪いが……」
悪魔の間で、一触即発の言い合いが始まる。
いくら危険だとしても、そのルートしか警備が手薄じゃないとなれば、そのルートしかないんじゃないかと、私は思うんだけど……。
「この試練を乗りきれなかったら、どうせみんな見つかってはりつけよ」
中でも一番気弱なマルバスの背中を叩きながら、私は笑いかける。
「やってやれないことはない!」
「根性論とか、どうかと思いますよ」
冷静なナアマの台詞に、私は舌を出した。