石の力
アンナの言葉の意味がわからず、私の頭の中でずっとクエスチョンマークが飛び交っている。
手の中の石は、ほんのりと温かい。この石そのものが、まるで卵のようだった。
「この石を……この村の森で見つけたとき、懐かしいと思ったのよ……」
アンナはゆっくりと私に近づく。そして、その石に触れた。
「この石の近くに、この子の卵があったの。まさかドラゴンとは思わなかったけど、一緒に拾って帰ったわ。理由はわからないけど、そうしなきゃって思ったのよ」
「この世界は、ここ数年で一気に廃れたんだ。王が身罷られてすぐ、数代前からこの世界を守っていたドラゴンまで死んでしまった。いつもなら、王が死んですぐに後継者が生まれるらしいんだけど、今回は兆しがあっただけで、後継者は現れなかったんだ……」
勇者がボソッと話し続ける。
「本来ドラゴンは、王の後継者の母が孵化させるんです。後継者の母が子供を産んだとき、この世界に石が落とされる。その側にドラゴンの卵も現れる……」
ラーラが静かに話し出した。彼女の声は、ハープの音色のように、美しく響く。
「後継者が現れるって……この世界の王は、子供を作らないの?」
「この世界の王は、王が死んだら、次の王が生まれる……ほら、元の世界でもなんかあっただろ、そういう宗教がさ」
「記憶を持った子供が後継者……ってやつか」
「そうそう、まぁ、記憶があるかどうかはわかんないし、この世界の王はすごく長命らしいからな……」
ここは魔界のシステムと、微妙に違う。
この世界では、後継者は王が死んでから……。誰かが召喚しているということなのか……それとも、自然と呼ばれるのか……。
「じゃあ、ドラゴンを孵化させたってことは、アンナが産んだのが……王ってこと? だったら、ルシファーが……」
「時期が合わないわ。私は亡くなった王の治世を見ているもの。……多分、この痣があるから……この石を扱えたのよ」
「じゃあ、さっきバアルを大きくしたのは、アンナなの?」
「ーーーーそれは、あなたよ」
「私に痣はないよ、アンナ」
話を聞いていたナアマが、後ろから顔を出す。
「どんな痣です?」
「これよ」
マリアが痣を見せると、ナアマは平然と言い放った。
「ありますよ、マリア様に」
「は?」
「右耳の後ろに」
「え?」
「ほら見て」
ナアマが私の髪をかきあげると、みんなが覗き込む。
「あ、ほんとだ」
「あるある〜」
「お産の後、髪を洗ってあげたでしょ。そのときに見つけたんです」
「言ってよ〜〜!!」
「え、そんなことわざわざ言わないといけないの?」
不服そうなナアマに、確かにそれは求め過ぎかもしれない……。
「そうかもしれないけどさぁぁ〜〜。こんなとこに痣あるなんて、思いもよらなかったんだもん」
マンバもアンナも、私にはない力を持っていると思っていた。私にも、あの力があるということなんだと思うと、急に怖くなってくる。
「ーーーー王の死後も次期王が現れずに、国はだんだん落ちぶれていったんだ。みんな怖がっていたけど、ラーラが生まれたことで、みんなこの世界を守るドラゴンの誕生にホッとしたんだよ。だって、ドラゴンが生まれたってことは、王も生まれたってことだからな。ーーーー姿は見せないけど」
勇者が困ったような声で続ける。
「ーーーーそれって、いつ? それ、マンバがいなくなった頃?」
「……そう……か、そうだな。王が身罷られて、鍛冶場が忙しくなったんだ。弔問の奉納品で……」
勇者の顔が、こわばり始める。言い出した私も、徐々にピースがはまり出して、指先が震えだす。
「この……石は……マンバのものだ……。この世界の王は……」
「ブリトニ……」
ずっと押し黙っていたエリゴールが、口元を押さえる。
「なんてことだ……この世界の後継者が……魔界にいる」