マンバの気持ち
「ーーーーなにせ、勇者の子を宿した女だからな」
魔王の言葉にマンバは、笑いながら言った。
「人違いじゃないかって、言ってんだけど。私の知ってるブリトニの父親は、ホントだめな男で。まぁ、妊娠がわかってからは、ちったぁましになったけどさ」
「え、ここにどれくらい住んでるの?」
「ブリトニを産む前……妊娠二ヶ月くらいかな。村の近くの森で、薬草を摘んでたら悪魔がやってきて、さらわれたんだよ」
あっけらかんというマンバを凝視する。
「まー、連れてこられて初めは腹も立ったけど、もう5年? 6年? 考えたらこっちにきて、魔界で過ごす方が長くなったわ」
「か、帰りたくないの?」
「……うーん、マサルには会いたいけど。でも、生きてるか、死んでるかも分かんない。あの後、あの村がどうなったのかも分かんないし」
困ったような、泣きそうな顔をごまかして、マンバは俯いた。
「……ここの生活、どうなの? 人質、なんでしょ? ひどい事されてない?」
ズケズケと聞いて、魔王をちらりと見上げる。
「人質、って聞いてたんだけど。人間界では噂になってるんだよ。悪魔にさらわれたら、魂取られるとかね。でも実際こっちにきたら、ここの村で生活できるように、土地をもらって、割と自由に暮らしてる。なんで人質とか呼んでるんだろって感じだよ。まー食べ物は、どうしてもこっちとあっちで違うから、不作になると食べ物には困ったりするんだけど……奴隷、みたいなことはないよ」
ますます意味がわからなくなって、魔王を見上げた。
「なんだ」
「……人間集めて、どうしたいの」
「単なる人質だ。……部下に命じて、戦さの度に連れ帰っている」
「魂取ったりしないなら、生かすのは負担でしょ。なんのメリットがあるの?」
「人質だと言っているだろう。向こうには我々の同胞も捕らえられているんだぞ」
なんとなく、はぐらかされたような気がして、魔王の腕を掴んだ。そして、じっと見上げる。
「なんで?」
「ーーーー母が……いないかと思ってな」
そのセリフに、私とマンバは顔を見合わせた。
「かっわい〜〜!! 何それ! 可愛い!」
私とマンバは大声で叫ぶ。気恥ずかしくなったのか私たちを睨みつけて、くるりと踵を返すと、魔王は村に消えていく。
マンバに連れられて、マンバの家でお粥を出してもらった。
木の器に入ったお粥は、湯気を漂わせ、いい匂いを撒き散らしている。
いただきますも忘れて、私は貪りついた。米粒が異常に大きいけれど、味はお粥。とても美味しい。
「あ〜〜おいしい! って、いただいてます!」
「どーぞ。こっちは野菜スープ。しばらく食べてなかったって聞いたから、胃に良さそうなものにしといたよ」
「あーー、ありがと〜」
照れ笑いのマンバを横目に、私は魔界のお粥をばくばくと口に入れる。
「ね、マンバ。私、妊娠してるんだけど、いろいろ教えてくれない?」
「……いいけど。落ち着いて食べな。誰も取らねーって」
「んぐっ、あのさ、んぐぐ、魔王って、あんまり悪いやつじゃなさそうだね」
「だーかーらー」
私の口を布巾で拭いながら、マンバは教えてくれる。
「でもまぁ、戦争で家族を亡くした人もいるから、村の人は微妙。私はどうせ転生してきて、どこに行こうとなんか浮いてるし……まぁ、ブリトニがいればいいかな」
「マサル……さんは?」
「あー、アイツね。実はさ、森に薬草とりに行ったんだけど、なんの薬草取ろうとしたと思う?」
「……?」
「アイツ、鍛冶場で働いてるんだけど、最近若い女の子が入ってきたんだ。弁当届けに鍛冶場に行ったら、その子にデレデレしちゃってさ〜〜! あんまり腹たつから、下剤入れてやろうと思ってね」
「……それで、誘拐されたの」
「まぁ、そういうことになるね」
ブッと噴き出すと、マンバもつられて笑った。
「嫉妬でこんなことになるなんて、ね……」
「もー、こっちきてすぐは、毎日毎日自分のこと恨んだけど。まぁ、言っても返してくれるわけじゃないし。ブリトニも無事に生まれたから……きっとあの村も戦場になったでしょ。さらわれてなきゃ、戦争に巻き込まれて死んでたかもしれないし」
諦めた顔で、マンバは力なく笑う。きっとマサルさんに会いたかったんだろう。子どもも抱かせてあげたかったに違いない。
「勇者、なんでしょ? 助けに来てくれるかもしれないじゃない?」
「マサルが勇者なんて、ありえないって」
ふふ、と笑って口元を隠すマンバは、とても可愛かった。
「うまいこと逃げて、生きててくれたらいいなって思うよ」
そうとだけ言って、マンバは微笑んだ。




