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革の手帳

「ここに書いてること、本当か?」


 モートルはまっすぐに私を見つめる。


「わからない。私はその文字が読めないから」

「……悪魔に連れてかれた、兄貴が……ここの魔界にいるって書いてる、あと、この手紙を持ってるマリアって人間が、村の人間を助けたって。みんな、自分の住んでた村と名前を自分で書いてる……ほらここ、兄貴の字で兄貴の名前が書いてある……」


 涙ぐむモートルに持たされた地図を見せると、モートルは手紙と地図を照らし合わしている。


「俺の村に印がある。この手紙を持って、あんたたちを印のある村に連れて行けって……あんたたちが、みんなを助けてくれるかもしれないって……そう書いてあるんだ」

「じゃあ、義勇軍は諦めて、私たちを村に連れて行って。モートルが義勇軍に参加する以上に、手柄が立てられるわよ、絶対」

「わ、わかった!」


 モートルは手柄という単語に鼻息を荒くする。

 まだ子どもなんだと、少し笑って、村人の顔を思い出す。モートルの兄は、一体どの人だろう。

 村人が自分たちをこんな風に助けてくれるとは思わなかった。

 ただただ必死で、身を隠してバアルを守ることしか頭になかったけれど、あの人たちは私たちに期待している。あそこに戻ると約束したけど、みんなはここに戻りたいんだと痛感する。

 連れてこれたらよかったけど、さすがにバアルにはまだそんな力はない。


「……マリア様、人間の村に行って、何をするんです? 匿ってもらうとか?」


 ナアマが不思議そうに私に問いかけた。


「……あなたは、どうしたいのです、マリア様」


 話を聞いていたエリゴールが、苛立った声で尋ねる。


「そうだなぁ。私、何がしたいんだろ。バアルを守りたかった、最初はそれだけだったんだけどね」


 マンバの掌の熱さや、村人の声。それから、魔王のあの言葉……。


「ーー正しいことを、したいだけなんだけど」

「虫唾が走りますね」


 エリゴールは吐き捨てて、私を置いて先に進む。

 村に向かって歩きだした私たちは、暗い森の中を焚火を持って歩く。

 フクロウがよく響く声で鳴いている。風は絶え間なく木々を揺らして、踏みつける草が足並みを知らせる。

 獅子の形のままのマルバスに乗って、私はよく眠っているバアルを胸に抱いている。

 連れられていくのはいいけれど、村でどんな風に迎えられるのか、想像するだけで疲れる。仕方ないことだけれど。


 気を取り直して、カバンから手帳を取り出した。先を知りたくて、手帳を開くけれど、暗くて読めそうにない。私がため息をつくと、ぼうっと光が灯る。驚いて顔を上げると、ナアマが魔力で光の玉を飛ばしていた。


「……ずっとは疲れるんで、途中でやめますからね」


 ぶっきらぼうにそう言うナアマに「ありがとう」と微笑みかけると、プイッとあちらを向いてしまう。ツンデレだなぁと笑いながら、私は手帳に視線を落とした。



 ーーーー魔王があまりに何度も訪ねてくるので、はっきりと断ろうと部屋に通した。

 羊の顔で、きっと毛むくじゃらなんだろうと思うと、ずっと吐き気がしていたけど、入ってきた魔王を見てびっくりした。


 イケメンだった〜〜!!

 目は赤かったけど! ツノは生えてたけど!

 あれなら、赤ちゃんは可愛い子が生まれるかもしれない。

 って、一瞬でも思ってしまった私はバカ。


 だって、魔王は息子を産んだら、母親は生贄にされる決まりがあると平気で言ったんだから、さすがは悪魔。

 それから、魔王は、私に聞いた。

 子どもを置いて逃げられるなら、逃げるか、と。

 絶対に、逃げないって、私が言うと、魔王は驚いた顔をしていた。


 彼の母親が逃げて、生贄にならなかったせいで、この国の国力が下がったらしい。今、魔界はかなり危険な状態にあると言っていた。

 生贄って、どう言うことかわからなかったけど、多分、私は殺されるんだと思った。

 物語のようで、いまひとつピンとこなくて、私はぼんやり考える。


 すると、びっくりすることに、魔王は、私に謝ってきた。

 私をここに召喚するつもりはなかったらしい。

(あのアザゼルとかいう悪魔が勝手にやったみたい)


 突然違う世界からここにきて、悪魔の子供を産むのは、恐ろしいことだろうと彼は言った。


 そして、驚くような話を私にしたんだ。


 捨てられたのは悲しいけれど、母が逃げてくれてよかった。

 母を殺した世界を守るなんて、あまりにも残酷だと。


 母親にも愛されない子どもに縋る世界は滅びてしまえばいい。


 私に、その共犯者になるように、とーーーー

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