ぼっちは新学期に一瞬で目立つ
教室には始業3分前に着いた。
「なあさとー、1時間目体育に変わったの知ってたか?」
「マジか」
教室に入るなり俺に話しかけてきたのは、席が後ろで部活も同じの島田だった。そして彼の机の横には幹が立っていた。彼もまた、俺と島田と同じソフトテニス部の部員だった。
あんなことがあった後に友だちに会うと、安心と、そしてそれとは対照的な、自分からあんなことをして、その結果迫害されたという自分の弱みは彼らに晒したくない、何ともないように装って隠さねばというしんどさと、自分を繕うことで彼らを騙しているのだという罪悪感が綯交ぜになって、不思議な感覚が自分の胸に一気に押し寄せてくる。その感覚はなんというか、強面の体育教師に死ぬほど怒られた直後に何も事情知らない友人たちと会ったときのような感覚に似ていた。
「なあ聞いてんのか?さとーくん」
「あ、すまん」
「どうせまたエロい妄想してたんだろ?さとーはすぐエロいこと考えるからなあ」
「お前みたいなエロ猿といっしょにすんな」
「あ?」
キーンコーンカーンコーン
そのときちょうどチャイムが鳴り、先生が入ってきたので、俺たちは解散して各々の席に着いた。
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「今日は50m走の予定だったんだけどな、昨日の雨でグラウンドの状態が悪いから体つくり運動にするぞ。さっそく3~4人組になって、できたやつらから座れ。」
俺は島田と幹たちと合流して座った。
他のグループも次々と座っていく中、1人周りを見渡して立ち続けてるやつがいた。
「どこか3人のグループで入れてやれるところはないか?」
先生の言葉に少しずつざわざわし始めた。
「おい幹、入れてやれよ。『菅谷くぅん♥』つって」
島田が言った。
「は?お前がやれよw」
島田と幹たちはときどきこういう感じになる。こういうことを元手に会話を盛り上げようとする。俺はそういうとき少し気まずくなって、会話から一時離脱する。
今回も俺は一時離脱して、菅谷の方へ体を向けた。
「菅谷、うちんとこ入るか?」
そう一言声をかけようとした。でもそのたった一言が、今日は口から出ない。その一言が壁にぶつかり、跳ね返ってきて、また心へと、肺へと戻る。
俺はこういう時に声を掛けられるのを自負していた。それはなんの特徴も取り柄もない俺の唯一の目印であり、この世界で与えられた役割みたいなものだった。
でも今日は何かが違う。何かがそれを遮っているのだ。
「しょうがねえな...栗木の班余ってるだろ?入れてやってくれ」
「はーい」
結局菅谷は、俺たちと別のグループに入った。