ごめんなさいね。すいません。
「わたしの父は秩序維持法制定を主導した国家議員のひとりで矯清会の幹部。その父に仕掛けた盗聴器から聞こえてきたのがさっきの話よ。」
国会議員...?盗聴器...?
ぶっちゃけ今日初めて会ったうえに、NHKとかいうへんよくわからない組織で活動している女に突然こんなことを言われて信じられるほど、俺は騙されやすくはなかった。
「でも...そんな...」
「そんなこといきなり言われても信じられない。そう言いたい気持ちもわかる。けど今朝の出来事が全てを物語ってるわ。」
「......」
確かにこの人の説明は、今朝のあの異様な出来事に対する説明としては筋が通っていたし、自分で何か他にもっともらしい説明を加えるのも困難に思えた。
「ごめんなさいね。長たらしくお話しちゃって」
「あぁ、いえ別に」
「まあそういうわけで、わたしはこの歪んだ社会を変えるためにNHKを始めたってわけ」
そして女は、俺の顔色を窺うように尋ねた。
「どう?私の仲間にならない?」
俺は一瞬考えてから答えた。
「...すいません。無理です。やっぱ俺、あのことで普通に傷つきました。」
女は一瞬、どこか遠くを見つめるような表情で固まったが。すぐに俺を労わるような、ぎこちない笑顔をして言った。
「そうよね。あんなことがあったんだから無理もないわ。傷ついてる時にこんなこと言ってごめんね。」
「いえ...俺の方こそ申し訳ないです。せっかくなのに...」
でもやはり、俺は自分の気持ちとか考えとか、とにかく脳内をうまく整理できないままに答えを出してしまった。今朝の出来事、つまり自分が周りに排除されてまで弱者を守るということに、どこか負のイメージを持っているのは確かだったが、それは今朝傷ついたことからくるものなのか、あるいはまったく別の感情なのか、自分にはよくわからないのだ。
俺は心の中にわだかまりを抱えたまま女と別れ、そのまま学校へ向かった。