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普通という概念に縛られた窮屈な世界  作者: ( ^ω^)だお
2/10

「普通」の侵攻


俺の乗る快速が駅を出た。この駅からはあと10分弱で松瓦駅に到着する。


(やっと着くのか…)


中学まで自転車通学だった俺は、高校生活が始まって二週間経った今でもまだ満員電車には慣れていない。


 (こんなのがあと三年も続くとか…もうすでにやめてぇわ。高校。)


「ん?おっw吉田くんじゃん!www」

「えっ?あ、吉田くん!偶然だなおい!ww」


会話のない満員電車の中で、先ほどから唯一会話し続けていた二人組の中学生の声に、一人の、眼鏡をかけた背の低い男の子が応じた。その子は二人組と同じ制服を着ていた。周囲をはばからない二人の話し声に、満員電車の中で特に集中することもなかった俺は自然と耳を傾けた。


「あ…おはよう」

「wwあ、そっかwwまず挨拶だよなwww」

「そうだぞww優等生の吉田くんを見習えよwwww」


会話の様子から、良からぬ疑念を抱いた。


「そういやクラス変わってから好きな子とかできた?吉田くんは」

「吉田くんにもいんのかな?そういう人。」

「そりゃいるでしょ…吉田くんもそういう年だし興味津々だよww」

「wwwで、どうなの?やっぱ前のクラスから一緒の藤林?」

「え…あ…」

「wwやっぱ安定だよなぁ吉田くんはw」


疑念は確信に変わった。


「そういや修学旅行の班決めでどうすんの?誰かに誘われたりしてる?」

「……」

「…マジかww」

「班決め決まらないと居残りだからなぁ。誘われるの待ってないでさ、自分から

声かけないとみんな困るよ?マジで」


吉田くんと呼ばれている子を見てみると、こらえきれなかった涙が彼の頬をつたっていた。


「え…マジかよ…泣いてんじゃん」

「これで泣く?w普通」


吉田くんが泣いたことをきっかけに、車内は少しずつ騒ぎ始めていた。しかし、そこで生まれた非難の矛先は、俺の思っていた方向とは真逆の方へと向いていた。


「あの子もちょっとはまともに受け答えしたらどうなんだ?」

「ああやってろくに会話もできないからいじめられるんだよ」

「もっと普通に振る舞えないとな」


(…は?)


俺は思わず二人組の中学生に声をかけた。


「さっきから聞いてたらさ、わざとこの子が答えづらい話題ばっか振って困らせてるように見えるんだけど気のせい?」

「え…いや別に…」


俺は、二人組がじっくり考えて受け答えできるように、ゆっくりと彼らに語りかけ、十分に間を置いてから次の言葉を発した。


「君たちだってさ、答えづらい話ばっか一方的に振られて笑われたらどう思うわけ?」

「えっ…えっと…」


しかし、彼らはやはりなにも答えられなかった。


「自分たちだってそうやって言葉に詰まってんじゃん。話題もろくに合わせずにさ、相手を小馬鹿にしながら話しかけんのが会話だと思ってんのならそっちの方が普通じゃねえよ。」


ふと我に返ると、周りの視線は皆俺の方に向いていた。車内は完璧に静まり返り、その場を沈黙が支配していた。

その沈黙を、ある一言が破った。


「あの人…おかしい」


まるで道端の吐しゃ物を見るかのような目で。


「声なんてかけねぇだろ…普通」


まるで、自ら火に飛び入った蛾を見たときのような声で。


「まさかあの気弱そうな子を擁護するのか?あんな普通の振る舞いもできないような子を?」


まるで、罪人に石を投げる一般市民のような心で。


「…あ、もしもし?矯清会ですか?電車内で異端者らしきやつが出まして…」

「通報の必要はありません」


通報しようとした会社員を制したのは、一見すると普通のOLのような、二十代の若い女だった。

だが、俺はその女の正体を一瞬で悟った。


「矯清会異端取締官の者です。取り締まりのため次の駅でご同行願います。」


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