N○Kをぶっ壊す!
『緊急放送緊急放送、校内でNHKらしき女の侵入が目撃されました。校内の生徒は直ちに近くの教室に入りなさい。』
(NHがうちの高校に...?)
職員室での用事が終わり、体育館の隠しスペースの近くまで来ていた俺はその場に立ち止まった。2人が待っていてはいけないと思い念のため来てみたのだが、2人の姿は見えなかった。
近くに入る教室も無さそうなので、ひとまずここで次の指示を待つことにする。
すると突然、校内放送がかかり始めた。
『お昼のニュースをお伝えします。先月北朝鮮から発射された飛翔体に関して、日本政府は...』
...どこか様子がおかしい。昼の校内放送、しかもこんな緊急時にニュースが流れるはずがない。
しかし、そんな俺の疑問に構わず、女性キャスターは次々に原稿を読み上げていく。
『...続いてのニュースです。今朝から東京都練馬区で発生している立てこもり事件では、依然として、武器を所持している犯人と警察との間で膠着状態が続いています。現場から中継です。田崎さん』
すると、呼びかけ応じて男性キャスターの声が現場の状況を伝え始めた。
『はい、現場の田崎です。事件現場となっている住宅の周辺は依然として大勢の警察官に囲われていて、どこを見回しても警察官が世話しなく動き回っているような状況です。』
(...ていうか今朝から立てこもり事件なんてあったっけな?俺がたまたま知らなかっただけなのか...?)
『なるほど。ラジオニュースなので具体的に映像を確認することはできないのですが、田崎さんは今現場のどの辺からレポートしていますか?』
『さきほどまでは周辺を広く見渡せる2階にいたのですが、今1階の方に降りてきました。現場付近は危険なので一般の方は基本的に立ち入れないのですが、私は立場上、規制されたエリアの中から現場の模様をお伝えしています。』
つまり、この現場周辺には規制線のようなものが張られていて、男性キャスターはその中からリポートしているということなのだろうか。しかしいくら報道関係者とはいえ、現場に近づき過ぎるのは危険なのではないだろうか。
『ここで警察の方にお話を伺いたいと思います。すいません、少し取材させていただいても大丈夫でしょうか?』
『あーごめんなさい、今ちょっと忙しいんで』
『すいません、お忙しいところ失礼しました。』
(キャスターが警察に声かけていいもんなのか...?)
正直報道記者が現場の警察官に声をかけるなんて初めてのことだ。さっきからこの記者には取材の権限がありすぎるように感じるのだが気のせいだろうか。
『わかりました。現場の住宅には窓付近に椅子に縛られた女性がいるとのことですが、田崎さんの辺りからその姿を確認できますか?』
『はい、窓は通りに面しているので姿ははっきりと確認できます。女性は腕を後ろで縛られていて、脚と胸の辺りは椅子に頑丈に縛られています。ただ私が女性の隣を離れてからは、女性の周りには誰もいないようです。』
『田崎さんは先程まで女性の隣にいて警察官に向かって大声で叫んでいたようですが、その時は何を叫んでいたのですか?』
(...ん?男性キャスターが人質の隣にいて叫んでた...?)
一体どういう状況なのだろうか?
『私は先程まで警察官に向かって、とっとと金出せやゴラァ!何時間待たせるつもりじゃカス!こっちにも仕事があるんやぞ!!と叫んでいました。』
『なるほど。武器を持って立ち続けたり、大声で叫んだりするのはやはり大変ですか?』
『そりゃもう大変ですねぇ。警察も中々金を持ってきませんから動くに動けなくて』
(お前が犯人かよ!!!!!!!!!!!)
完璧に騙されていた。この田崎という男をてっきりキャスターだと思い込んでいたのだが、実はこの男が犯人だったのだ。
(ていうか警察も何インタビューされて普通に答えてんだよ!逮捕しろや!!)
『ちなみに身代金の額はいくらなんですか?』
『5000万円です。正直まあいきなりこんな額用意しろって言われても警察も困りますよね(笑)』
『まあそうですよねぇ。てかそんな額何に使うんだよみたいな(笑)』
『ほんとに。何バカなこと考えてんだか(笑)』
(...いやあんたが設定した額だろうが!何他人事みたいに笑ってんだよ!しかも普通にキャスターと談笑してんじゃねぇよ!!)
だめだ...大声で思いっきり突っ込みたくてしょうがない。
『でもよく家を出られましたね。大丈夫なんですか?』
『あ、はい。一応許可が出て。ただ30分以内に戻らないと仕掛けた爆弾爆発させるとか言ってるんで、すぐ戻らないといけないんですけどね...』
(...ん?言ってる意味がよくわからない)
『それは犯人が家に入ったときに仕掛けた爆弾ということですか?』
『はい。なんか部屋と玄関に仕掛けてるらしくて』
『そうなんですね...ちなみに犯人がなぜ自ら縛るよう要求してきたのかについてはわかってますか?』
『それがよくわからないんですよね...急に犯人の女が「私を縛って、あなたがおもちゃの銃を持って隣に立ちなさい」って言ってきたんで。ただ女も手に銃を持ってるんで、僕も勝手な行動ができなくて...』
「お前が人質かよ!!!!!!!!!!!」
...思わず大声で思いっきり突っ込んでしまった。
あぁ、武器を所持している犯人って女の方かよ!てかなに犯人が自ら縛りプレイを要求してそれを公衆の面前で晒してんだ!少なくとも公共の電波で流せる内容じゃねぇよ!!!
『えぇ、僕が人質ですよ。そもそも犯人だなんていつ言いましたっけ?』
「へっ?」
なぜか男が俺の声に反応した。どういうことだ?だってこれは生放送のニュースで...
そこで気づいた。これは本物のニュースじゃない。NHKの作り物なのだと。
女性キャスターの声もどこかで聞いたことがあるなと思っていたが、この声はまさしく今朝聞いたあの女の声だ。
そんなことを考えていると、後ろの校舎が急に騒がしくなり始めた。遠目なのではっきりとは見えないが、全身タイツとカツラを身につけた女が廊下で先生たちに追いかけられている。女は軽い身のこなしで年老いた先生たちの間をすり抜けて、どんどん下の階へと逃げていく。
つまり、さきほどまでの放送は、校舎のどこかでNHKがボイスチェンジャーか何かを使いながらその場で読み上げていたものだったということなのだ。