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メイドの誘い

まず、お詫びを。

先週は忙しく、小説を書く余裕がなく、最新話を投稿することができませんでした。申し訳ありません。

 家に戻った紫暮は早速朝食を作ると、素早く食べ終えた。彼の様子は非常に落ち着いており、一人きりの生活には慣れきったというさまであった。彼は部屋の端に置かれた、昨日捨てることができなかったぶんのゴミ袋を手に取ると、アパートの下に設置されているゴミ置き場に捨てた。ちょうどその時、本望飛鳥もゴミ袋をぶら下げてやって来た。彼女の格好は、昨日見せたのと同じ、ジャージ姿であったが、斜めがけのバッグをかけたいた。紫暮は会釈をした。


「お早う、本望飛鳥さん」


「お早うございます、倉持さん。──何だか、雰囲気が変わりました?」


「そうかな? ああ、もしかしたらそうかもしれないね。ちょっと、いいことがあったから」


「そうなんですか、それは良かったですね。通りで、どこかスッキリしたような感じがしましたよ」


「どうやら、今まで迷惑をかけていたみたいだね。それについては謝るよ」


「いえ、大丈夫ですよ。あ! そろそろいかなきゃならないです。これからバイトなんです、電車の時間に遅れるといけないので、失礼しますね。それでは」


 と飛鳥はゴミを捨てると、その場から立ち去った。紫暮も、部屋へと戻った。ちょうどその時、彼のスマートフォンが着信を知らせた。彼は、ポケットからスマートフォンを取り出した。電話の相手は次郎であった。


「もしもし」と紫暮は言った。


「何か用かな?」


「ああ、これから迎えに行こうと思ってな」と電話の向こうで、次郎は答えた。


「しっかり家に居るな? 昨日、フォイル・ファイアマンにはお前さんの顔が知られてしまった。一人で外をうろついていると、何が起こるかわからないんだ。何も起こらなかったか?」


「大丈夫だよ。何も起こらなかった」


「そうか、なら良い。今から向かうが、何かあったら直ぐに電話をしろよ」


「ありがとう」


 通話は切断され、紫暮はスマートフォンをポケットに仕舞った。続いて、彼はキャビネットの引き出しから、二つの銀色の指輪を、細い鎖に通したネックレスを取り出し、それを首にかけた。その指輪の裏側には、それぞれ、紫暮と黒羽との名前がアルファベットで彫刻されていた。彼は、黒羽の名前が彫られた方の指輪を、指先で撫でるように触った。彼は、指輪を服の下にしまい込んだ。


 来客を知らせるインターホンが鳴った。


 紫暮は玄関へと移動し、扉を開いた。次郎は片手をあげて言った。


「お早う、早速で悪いが今日は一日中出かけるぞ。何か用事はあるか?」


 その言葉に紫暮は了解し、出かける準備をすっかり済ますと、次郎の後を黙ってついていった。電車で新東京の円の真ん中部分、つまり商業や娯楽施設が集まっている部分へと移動し、その中でも、かつての秋葉原を思い出させるような、いわゆるオタク街となっている場所へと移動した。アニメやら漫画やらのキャラクターの絵が、広告としてあちこちに張り出されていたり、おおきな通りでは、様々なコスプレをした女性たちがチラシを配ったりしている様子が見られた。


 紫雨はそれらの様子をキョロキョロと見回した。次郎はそうした紫雨の様子を見て、


「こういう場所は初めてか? ま、安心してくれ。遊びに来たわけじゃない。ここでとある人物と街合わせをしているんだ」


「で、その人物というのは、どんな人なのかな?」


「今時珍しい、熱心なキリスト教徒だ。もちろん、魔法使いでもある──いや、正確には魔法使いというよりは、剣士、騎士といった方がいいか。ともかく、真面目で、気のいいやつだ」


「それは魔法剣士とか、そういうものなのかな? まあ、僕は魔法使いのアレコレについては、全くの無知だから何とも言えないけれど」


「ほう、ということは、あの掟と、自分の魔法以外には何も知らないというわけか?」


「知らないね」


「成る程な。そういう魔法使いは珍しくはない。この現代では、先祖からひっそりと魔法を継承していくうちに、他の魔法使いとの繋がりが絶たれたりしていくところが多いからな。公になって魔法を使う機会なんざまず無いし、使うわけにもいかねえ。殆どの魔法使いが、自己完結の研究とか、子孫に魔法を継承することしかしないんだよ。そうしている内に、何かしらの理由で魔法が失われたりすることもあるし、隠匿性が高くなっていく内に、他の魔法使いとの繋がりが完全に無くなったりしていったんだよ。だから、今となっては何処の誰が魔法使い何ていうことは全くわからない。お前さんが魔法使いだとわかったのは、オジサンが、偶々、お前さんが魔力の痕跡を見つけて、それを正確に追っているところを見つけたからだ」


「ふうん」と紫暮は頷いた。


「あんまり関心がなさそうだな。それ、とっとと歩くぞ。そのへんの説明もあとでするとしよう」


 彼らは数分ばかり歩き、次郎は目的地に到着したため、足を止め、目の前にある建物を指差した。その店はルネサンス様式を意識したデザインをしており、石造りの看板には、『メイド喫茶 ふぁーもん』という文字が彫刻されていた。次郎は言った。


「そら、着いたぞ。ここが指定された待ち合わせ場所だ」


「メイド喫茶が待ち合わせ場所? 帰っていいかな?」


「オジサンもこういう場所に入るのは少しばかり抵抗があるが、あちらさんが此処を指定してきたんだ。なに、中にいるメイドさん達はどうせ、商売でやっているんだ。お前さんの顔どころか、名前すら覚えやしないから、恥じらいは捨ててくれや」


 と次郎は店の中に入っていったため、紫暮もその後を付いていった。すると、複数人の、メイドのコスプレをした女性達が各々、ウエイターをしたり、レジで料金の計算をしていたりしていた。次郎は「こっちだ」と言い、いくつかあるテーブルのうちの一つへと向かった。紫暮もその後をついていった。


「お、次郎君と、君が紫暮君だね? よろしく。私はアーサー・ヘイルだ。アーサーと呼んでくれ。さ、二人共こっちだ。僕が呼んだのだから、この場では奢らせてもらうよ」


 アーサー・ヘイルと名乗った男の年齢は、次郎と同じぐらいではあったが、第一の印象として、きっぱりとした人間であるということが挙げられるような人物であった。髪は金髪、目は青色、肌は白く、体型はすっきりとしており、身長も190程であった。彼は、自分の向いにある椅子に座るように、二人を促した。彼らが座ると、一人のメイドがメニューを差し出し、「ご主人様──ご注文はいかがしますか?」と言った。その声は、少しばかり上ずっていた。紫暮はメニューを見終わると、


「このコーヒーを。それとショートケーキも。あ、それと、バイト先がここだっていう事は誰にも話すつもりはないから。本望飛鳥さん」


「ありがとうございます」と飛鳥は赤ら顔をしつつも、ホッとした様子で答えた。


「そちらのご主人様はどうなさいますか?」


 次郎は答えた。


「オジサンはそうだねえ、紅茶でいいよ。ほかはナシで」


「かしこまりました、ご主人様達」


 と飛鳥はお辞儀をすると、厨房へと消えていった。アーサーは訪ねた。


「あの子、知り合いかい?」


「アパートの隣人だよ。それよりも、アーサーさん。要件は何?」


「そう急ぐ必要は無いだろう。そら、メイドさんがやってきたぞ。お疲れ様。さ、飲み物とケーキを楽しみながら、ゆっくり話すとしようじゃないか。何事においても、余裕というものは必要だからね。まず、私はサヴィル・ロウを頭領とする、魔法使い連盟の一員であることは言わなくてもわかるだろう。皆、フォイル・ファイアマンという邪悪を打倒しようと、正義の心を抱えて集まった者達だ。しかし、魔法使い全員が戦う力を持っているわけではないんだ。魔法というものは、本来は痩せた畑でも作物が育つようにしたり、天気が悪くならないようにしたりと、人々の生活で役に立つ為のものばかりだ。アニメやゲームの中に出てくる魔法のように、誰かと戦う為の魔法はあまりないんだ。例えば、錬金術師は畑の肥料を生み出したりとかね。魔法というのは、言ってしまえば物凄くアナログな科学みたいなものだ。


 連盟の中で、純粋に戦う為の魔法を使う、魔法使いはこの私と、そこにいる次郎くんだけなんだ。私は剣士、次郎君は日本の神秘様々。他の魔法使いは、戦い専用の魔法は使えない。それでも、強力な魔法使い達は何人かいるけれどね。彼らは、戦闘だけじゃなく、フォイル・ファイアマンの情報集め、他の魔法使いのコンタクト及び協力の依頼、その他にも色々と、各々自分に出来る戦い方をしている。さて、ここで君だ。紫暮君。君が扱う魔法がどのようなものか、戦闘能力はどのくらいか──今日はそれを確認し、君に合った役割を与える。そのために、私がいるのさ。次郎君は、そうした事は苦手でね。どの魔法にも、何かしらの役割がある。何かしらの役に立つ。私が適材適所を見極める」


「分かった。だけど、僕はしっかり戦える。君たちと同じ役割で構わないよ」


「それはこれから私が決めることだ」とアーサーは少しむっとした様子で言った。


「何にせよ、君がどれくらい戦えるのかを見極めないとね。けれども、それはまた後だ。まずは、確かめたい事がある。次郎君の人を見る目は、本当に確かなものだ。その彼が、僕達連盟と敵対する可能性は、まずないと認めたから、十分だけれども、改めて君の口から確かめさせて貰いたい。紫暮君、君は我々連盟に協力し、共にフォイル・ファイアマンと戦う意思はあるかい?」


「ああ、あるよ。アーサーさん。僕は、どうしてもフォイル・ファイアマンと戦わなければいけない理由がある」


 アーサーは少しの間、紫暮の顔をじっと見つめると、頷いた。


「よろしい。紫暮君、私は君が連盟の一員になることを認めよう。次郎君はどうだい?」


「オジサンも別にいいぜ」と次郎は答えた。


「よろしい。ならば、紫暮君。正式に君を我々魔法使い連盟の一員として認めよう。これからは、連盟の一員として仕事をしてもらう。いいかな?」


「構わない。僕にも目的はある。そのために、連盟という存在は非常に有り難いものだ。喜んで、君たちの仲間となろう」


「よし、ならば早速仕事だ。これから、私は、君がどのような魔法を使うのか、何が出来るのかを見極める。どうやら、君は戦うことに自身があるようだから、まずは軽く手合わせといこうか。このメイド喫茶から少し行った所に、広めのレンタルライブハウスがある。そこで戦うとしよう。何か質問は?」


「それじゃあ一つだけ。アーサーさんは何故、こんな場所を指定したの? 正直言って、居づらいんだけれども」


 アーサーは笑顔で答えた。


「そりゃあ、メイドが好きだからだよ。イギリスの職業としてのメイドよりも、日本のメイド喫茶のメイドたちは、実に素晴らしいじゃないか。さ、私達は会計を済ますから、紫暮君は先に出ていてくれたまえ。ついでに、次郎君と話すこともあるから、ちょっとだけ待っていてくれたまえ。何、5分もかかりやしないよ」


 アーサーは紫暮がメイド喫茶の外に出ると、小さな声で次郎に行った。


「紫暮君か。次郎君、君は気づいているんだろうね? 君の人を見る目は確かだから」


「ああ、気づいているぜ」と次郎は答えた。


「あいつの目を見た瞬間に気づいたぜ。激しい炎、強い意思が激しく、それでいて暗く燃え盛っている。ありゃあ、間違いなく復讐を目的にフォイル・ファイアマンと戦おうとしているな」


「そうか、何、目的が復讐だっていいのさ。フォイル・ファイアマンを倒せるのならば。私は改めて思ったよ。フォイル・ファイアマンは、間違いなく邪悪だ。復讐の意思があるということは、その前に深い悲しみに暮れたということだ。その悲しみは、やがて怒りへと移り変わり、怒りが長い間続くと、復讐心へと変化する──フォイル・ファイアマンが東京を燃やし尽くしてから数年経っている──怒りと復讐心を長い間抱え続け、それどころか強く保ち続けるというのはとうてい出来ない。何故ならば、想いというのは時間が経てば経つほど薄れていくからね。けれども、紫暮君はそうではない。私が今までに見たほどもないほどの、激しい感情を抱えている。抱え続けている。普通では、到底できないことだ。


 復讐が良いものかどうかを論じるつもりはない。ただ、彼を見ていると、私の魂に刻まれた騎士道精神が訴えるんだ。フォイル・ファイアマンのような邪悪をそのままにしていてはいけない、紫暮君のような者をこれ以上増やしてはいけないと」


 次郎は静かに頷いた。



次回は来週の土日に投稿します。


一度初めたからには、エタることは無いようにし、最後まで書き続けたいと思います。

居るかどうかは分かりませんが、読者の皆様はどうかお付き合いください。

また、小説を投稿出来ないというようなときは、活動報告にコメントを上げるようにするので、私が予告した日に小説が投稿されないと思ったら、活動報告をご確認ください。

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