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開幕戦

よろしくお願いします。

 


 紫雨の攻撃は、フォイル・ファイアマンの左隣りにいた、角を生やした人物が、二人の間に素早く入り込み、人差し指一つで、振り下ろされる槍の穂先を受け止めたため、敵に命中することはなかった。紫雨の攻撃を止めた男は、紫雨を蹴り飛ばした。紫雨の体は空中を飛び、彼がのいた場所とは反対側の位置にある壁に叩きつけられた。角を生やした人物は言った。


「全く、血の気の多い奴よのう。我らの長であるフォイル・ファイアマン殿が話している途中であったろう」


「良い」とフォイル・ファイアマンは言った。


鬼々童榊魔天獄ききどうじさかきまてんごく、控えよ。我らは彼らの敵なのだ。我らはここを外部から隠蔽及び、魔的、物理的な攻撃を防御するための結界を無理矢理破壊し、入ってきたのだ。非は我らにある」


「良かろう。確かに貴様の言う通りである。ここは引き下がるとしよう」


 紫雨はうめき声をあげながら、体を起き上がらせた。そして、立ち上がると再び攻撃するためにと駆け出そうとした。が、次郎は腕を伸ばし、紫雨の行為を遮った。紫雨は叫んだ。


「邪魔をするな!」


「止めておけ」と次郎は言った。彼の額から、頬へと一筋の汗が伝った。


「奴らは強いぞ、その振る舞い、その中に秘める魔力を見れば分かるだろう。特に魔力だ。紫雨、お前さんの中にある魔力と、フォイル・ファイアマンとの魔力では天地の差がある。後ろにいる二人の魔力、とりわけ右側の男の方はそれ程でも無いが、お前さんよりは多い魔力を所持している。それに加えて、あれは人との格闘戦を得意としている体だ。筋肉のつき方や、僅かな動作を見ればわかるぜ」


 フォイル・ファイアマンより、と鬼々童榊魔天獄と呼ばれた男は感心した様子を見せた。


「見事な観察眼よのう。そう言う貴様もまた、腕が立つであろう? その体の動き方を見ればわかるぞ。侍、忍び、あとは陰陽術か? この地に古くから伝わる、複数の術を修めていると見えるぞ」


 次郎は口笛を軽く吹くと、言った。


「まさか、そこまで見抜かれるとはな。鬼々童榊魔天獄ききどうじさかきまてんごく、噂には聞いていたが、御伽噺だと思っていたぜ。まさか実在していたとはな」


「ふ、この程度容易い事よ。しかし、今のメインは我ではない、フォイル・ファイアマン殿よ。すまないな、今時、術を修めた者に出会うとは思わなかった。懐かしくなって、少しばかり話し込んでしまった」


「別に構わん」とフォイル・ファイアマンは言った。


「さて、話を戻すとするとしよう。我々は革命者だ。この暗黒の世界を包む暗雲を振り払い、新たなる希望の光を地上に差し込ませようとしている。魔法使い連盟の長、サヴィル。そしてその同盟者達よ、諸君らは我々の手を取るべきだ」


 そうしたフォイル・ファイアマンの言葉に、サヴィルは笑って答えた。


「ふん、くだらないね。革命者? 希望? くだらないね! あまりにも滑稽すぎて笑えてくるよ。フォイル・ファイアマン、君はどうやら革命者を自称しているらしいが、間違った革命は、人々にとってただの攻撃、混乱をもたらすだけにすぎない。そして、君は間違った革命をしようとしている、この世界を混乱に陥れようとしている罪人だ。フォイル・ファイアマン! 君には魔法を隠匿するという、魔法使いの義務を破り、その挙句、万もの人々を魔法の炎によって殺した罪がある。我々魔法使い連盟、フォイル・ファイアマン討伐連盟は、罪人に対してそれ相応の罰を与える事にしている。今すぐ、その馬鹿げた企みを放棄し、我々の処罰を大人しく受けろ!」


「くだらん。魔法を隠さなくてはならない? 古い考え方だ」


「そうさ、古くからの伝統さ。だが、この教えは何の理由もなく続いているわけじゃないのは、もちろん知っているだろう。我々魔法使いは、魔法を使えない普通の人間の中に紛れつつも、魔法を隠さなければならない」


「魔女狩りの悲劇を再び引き起こさないために、徹底的に魔法使いは魔法を隠す──そう、我々魔法使い達は魔女狩りの再来を恐れ、魔法をひた隠しにし、地面の下にある狭い部屋で、こそこそと魔法を研究してきた。そのせいで、大掛かりな研究をすることはできず、また、大掛かりな魔法を使うこともできなかった。そんな時代が今までずっと続いた。魔法使いの暗黒時代だ。しかし、その暗黒も今代で終わるのだ。我らは魔法使いが、魔法使いとして大っぴらに生きることができる世界、すなわち魔法使いの楽園(エデン)を創り出すつもりだ」


「なるほど、それは中々に素晴らしい野望だ。魔法使いにとっての暗黒時代、なるほど言い得て妙だ。確かに、一部の魔法使いの間では、我々が堂々と魔法を使えるようになっていれば、魔法の研究は、今よりも100年ほど先を行くと囁かれているほどだからね。だが、東京の人々を、なんの罪もない人々を殺した理由はなんだ?」


 サヴィルは目を細め、鋭く、冷たい表情で問いかけた。それにフォイル・ファイアマンは、とくに変わった様子を見せるようなこともなく、淡々と答えた。


「決まっているだろう。私は魔法使いの楽園を創ろうと決心し、その為の方法を長年研究してきた。そして、ついに浮き上がった結論があるのだよ。すなわち、我々魔法使いにとって、障害となるもの、敵となるものを取り除くにはどうすればよいか、簡単な事だろう? 東京を燃やし尽くしたのは、その為の実験だ。結果は、私が予想していたものと全く同じだった。大成功だった。そして、その実験の結果を元に計算し、またいくつかの準備を行い、あともう少しでその準備も終わる。さあ、ここにいる魔法使い諸君よ、私の手を取れ。楽園(エデン)を望むものは、知恵の果実に寄り添わなければならない。さあ、我等と共に人類を滅ぼそうではないか!」


「狂っている!」とサヴィルは叫んだ。「人類を滅ぼすだって? そんな事ができる訳がない! フォイル・ファイアマン、お前が手に握っているのは、林檎ではなく蛇だ!」


「いいや、できるとも。我等が力を合わせれば、1ヶ月ほどで滅ぼせるだろう。その為に、自らの魔法を、より強力なものにする為の術も発明した」


「魔法使いの本文を忘れたか?」とサヴィルは激しい怒りを露わにして叫んだ。


「魔法は何の為にある? 人類の為だ。人類に恵みをもたらす為の奇跡だ。遥か過去より、我々魔法使いは、魔法を使い人々を助けてきた! 魔法は人類に幸福をもたらす為にあるんだ!」


「くだらん!」とフォイル・ファイアマンもまた、サヴィルと同じ様に、怒りに染まった声で叫んだ。しかし、その迫力はサヴィルよりも上であった。


「くだらん! 人類は、人間は、魔法をもたらし、自らを助けてきた恩を忘れ、我々魔法使いを迫害した! 殺戮の限りを尽くした! 邪悪なのはどちらだ? 何故、自分では何もできず、他人に恵みをたらしてもらっているというのに、その恵みをもたらす者に対して、笑いながら邪悪だと指差す事ができる? 笑いながら悪逆無道を尽くすことができる? この恩知らず共め! 恥知らず共め! 邪悪なのはどちらだ? 魔法使いでない人間など、滅ぼしてしまえばいいのだ! あのような無能共など、滅ぼしてしまえばいいのだ! あのような人非人共は悪魔なのだ!」


 そうしたフォイル・ファイアマンの激しい剣幕に、サヴィルは少しばかりたじたじとした。彼女はフォイル・ファイアマンの声、その様子から、彼の言葉には凄まじいまでの怒りが潜んでいるという事を読み取った。サヴィルは頭を振り、言った。


「そうか、フォイル・ファイアマン。君は、私の言葉では止めることが出来ないようだ。その体内に渦巻く大量の魔力、その仮面の下に隠していても分かるほどの、激しい怒り、なるほど、君の過去に何があって、それほどの怒りを得たのか。それは少しばかり推測ができる。何百年だ? フォイル・ファイアマン、君はその怒りを秘めたまま、維持したまま、何百年の間生きてきた?」


「それを聞いて如何する? 私もまた、会話によって貴様らを我らが同胞とする事は厳しいようだ。ああ、せっかくの同胞なのだ。私の意思が通じずとも、殺すことはない。こと(・・)が済むまでじっとしていてもらおうか」


 フォイル・ファイアマンの言葉が終わるやいなや、サヴィルは指を鳴らした。すると、たちまちのうちに、天井や床が柔軟性を持ち、太い棒へと変化した。その棒は、フォイル・ファイアマンおよび彼の背後に控えている2人を取り囲むかのように展開された。その檻は天井のコンクリートや、床板の木から、頑丈な鉄へと素材を変化させた。3人を牢へと閉じ込めたサヴィルは言った。


「そこでじっとしていてもらおうか。抵抗は無駄だ。このまま、この場で処罰を行うとしよう。フォイル・ファイアマン、そして彼の一味である魔法使いも同罪だ」


「大したものだ」とフォイル・ファイアマンは感心した様子で言った。「錬金術か。これほど素早く物体を変化させるような事など、そうそうは出来ないものだ。その年齢でここまでの力を持つとは、素晴らしい才能だ」


「褒めたって何も出ないよ? さ、そのまま大人しくしてくれると助かるんだけれど」


「そういう訳にはいかんな」とフォイル・ファイアマンは檻を握った。すると、檻はたちまちのうちに、凄まじい熱によって赤化し、どろどろに融けていった。檻が完全に融けると同時に、次郎とケティーは素早く、フォイル・ファイアマンの元まで移動し、次郎は手に日本刀、ケティーは硬く握りしめた拳と、それぞれの武器で、彼に攻撃を加えようとした。しかし、それらは、フォイル・ファイアマンの後ろに控えていた二人の手によって止められた。


 鬼々童榊魔天獄は次郎の前に立ちはだかり、笑みを浮かべながら言った。


「貴様の相手は我が務めるとしよう」


 次郎は、素早く数歩ばかり後ろに下がりながら言った。


「ああ、嫌になるなあ。オイ。鬼々童榊魔天獄。日本最古の鬼であり、地獄道の主であり、ダイダラボッチの正体と言われる神様が相手とはな。ま、俺の術はそうした鬼どもを退治するためのものなんだが。それでも嫌になるねえ。お前さん絶対に超強いだろう」


「そう言うな。我は嬉しいぞ? なんせ、この時代にあらゆる業を極めた達人がいるのだから。そして、それと見合えるというのは、喜ばしいことよのう。我はそうした奴等を捻り潰すのが好きであるからな。それ、それ、では早速始めるとしよう。まずは小手試しだ、ほうれ、行け、行け、我が着物より飛び出せよ、地獄の火炎よ!」


 と鬼々童榊魔天獄は腕を一振りした。すると、着物の裾に描かれていた炎の絵柄がゆらゆらと蠢き、布の上から、実際の炎となって飛び出し、次郎に襲いかかった。次郎は驚いた表情を少しばかり見せたが、すぐさま、ジャージのポケットに手を入れ、その中から符を取り出し、それを彼の正面に突き出し、次のような呪文を唱えた。


「『結界よ、あらゆる魔を拒絶する結界よ、我を災禍から守り給え!』」


 すると、符が淡い水色に光り輝いた。その光は、透明な、円形の盾となり、鬼々童榊魔天獄によって放たれた炎を受け止めた。次郎はすかさず、二枚目の札を取り出し、それを握った手を、横に薙ぎ払うように振るった。すると、符は日本刀に変化し、彼の手には日本刀が握られていた。その刀の刀身は、よく磨かれており、光をよく反射し、刃紋も美しい波となっており、そうそうたる名刀だということが伺えた。次郎は盾と炎とが消えると同時に、鬼々童榊魔天獄の元へと踏み込み、刀を振るった。その一撃は非常に鋭いものであり、鬼々童榊魔天獄は回避してみせたが、彼の指先に切り傷が一つできていた。彼はその切り傷から流れ出た血を舐めると、目を細め、口の中にある、白く、鋭い牙を見せながら笑ってみせた。


「やりよる。中々にやりよる。剣速も中々じゃのう。じゃが、まだ本気ではなかろう? それもそうじゃ、このような狭い場所では、お互いに本気を出せぬというものよ。我らが本気でぶつかりあえば、辺り一帯が更地になるまでやる(・・)じゃろうしな」


「確かにな、だからとはいって、お前さんを逃がす気は無いぜ? なんせ、お前さんは昔から神様として崇められ、妖かしの王として恐られる鬼だからな。本気を出さないうちに潰させてもらおうか」


「ほう、この場で仕留めると。よほど自分の腕に自身があるようじゃ。しかし、それは不可能と知れ。技量でも、膂力でも、魔力でも、我の方が上じゃ。まあ、遊戯に付き合ってやらなくもないぞ?」


「言ってろ、油断しているとその首、切り落とされるぞ?」


 次郎と鬼々童榊魔天獄の二人はぶつかり合った。次郎は刀を振るって攻撃し、鬼々童榊魔天獄は己の指先から生えている、鋭く、硬い爪を振るって応戦した。


 さて、ケティーの方を見るとしよう。ケティーは、止められた拳を引っ込め、ファイティングポーズをとりながら目の前に立っている大柄な男を睨みつけた。彼女は、警戒しながらも、男の様子を鋭い目で観察していた。


(得体の知れない男ですね、ですがその振る舞い、雰囲気から歴戦の戦士であることは分かります。しかし、彼からはどうにも魔力を感じ取ることができない。魔力を隠す魔法? それとも元々魔力を持たない? いいえ、後者である可能性は低いですね。なんせ、あのフォイル・ファイアマンは魔法使い至上主義といった様子でした。ならば、魔力を持たない人間、すなわち魔法使いではない者を己の仲間にするというのは、あまり考えられませんね。つまり、魔力を隠す魔法を使う可能性が高い。ですが、その戦闘スタイルが全く不明ですね。ここは、少しばかり様子を見てから、対抗策を取るのが吉でしょう。ならば、このまま殴ります!)


 ケティーは、数メートル離れている所を、一歩でその男の元へと接近し、拳を彼の腹目掛けて放った。男はとりわけ何の反応を見せるようなことは無かった。ケティーの拳は、鉄塊を割る事ができるほどの鋭さ、攻撃力で男の腹へと突き刺さると、衝撃と、空気を破るような甲高い音が鳴り響いた。しかし、それでも男は動かなかった。ケティーは、素早く数歩後退した。


 その時、初めて男は変化を見せた。彼はケティーを見、口を開いた。


「良い拳だ。俺の名はオルティス。オルティスだ」


「自己紹介ですか? それなら、私も名乗らなければいけませんね。ケティー・クラと申します」

「そうか、覚えておこう。ちょうど、お互いが殺し、殺される相手の名を知った。ならば、後は戦うだけだ。さあ、お前の武器はその拳でいいのか? ならば、とっととかかって来い。てっとり早く終わらせよう」


「おや、紳士なのですね。女性は敵とは認めていなかったご様子。ならば、お言葉に甘えて、もう一発ばかり打ち込ませていただきましょう。──魔力駆動! 我が魔力よ、我が体を駆け巡り、我が肉体を強化せよ!」


 そう叫んだケティーの目は、魔力によって緑色に光り輝いた。髪は変化を見せなかった。彼女は先ほどよりも凄まじい速度で踏み込み、さらに凄まじい速度で拳を放った。その速度は、常人ではとうてい捉えることはできないほどの速度であった。オルティスは、そうしたケティーの拳を、やはりなんの抵抗も見せずに、受け入れた。拳はオルティスの腹に命中した。しかし、彼はダメージを受けた様子は、一切見せなかった。ケティーは目を見開いた。


「馬鹿な……! 効いていない?」


「ああ、効かぬよ。貴様の拳など効かぬ。ケティー・クラよ、貴様の貧弱な拳など効かぬ。さて、次はこちらの番だ」


 とオルティスは素早く伸ばした手で、ケティーの腕を握り、そのまま彼女の体を振り回し、床や天井、壁に何度も叩きつけた。その度に、叩きつけられた壁や床には亀裂や凹みが入った。そうした行為がしばらく続いたが、ケティーは振り回されている中でも、必死に体をよじらせたり、じたばたしたりして彼の手から逃れようとしていた。その努力によって、彼女はオルティスの手から逃れた。彼女の服は汚れたり、破れたりこそはしていたが、彼女の肌に傷が入った様子は無かった。


「成る程な」とオルティスはそうしたケティーの様子を観察し、頷いた。


「どうりでやけに頑丈だと思った。普通は2、3回も叩きつければ死ぬのだがな。成る程、魔法によって創り上げられた人造人間か」


「ええ、その通りですよ。ですが、それがどうかしました?」


「いやなに、気になっただけだ。人間も、魔法使いも、作り物も変らん。では、死んでもらおうか」


オルティスはコートの袖の下に仕込んでいた銃を、手のひらへと滑らせ、それを握った。その銃の先には、銃身の半分ほどの長さのナイフがはめ込まれていた。

ストックが無くなって来ました……できれば明日。もしくは明後日投稿します。

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