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魔法使い連盟

3話目です。

 


 手紙に記されていた場所に行くには、電車に乗る必要があった。紫暮が住んでいるアパートの位置は、一番外側の環状線の、数ある駅のうち一つの駅に誓い場所だったので、駅まで移動するのにはそうそう時間はかからなかった。彼は、目的地までの最寄りの駅までの切符を購入し電車に乗り、更に2、3度ほど電車を乗り換え、30分ばかりすると彼は目的地である駅へと到着した。


 その駅は、新東京の中層部分に位置しており、駅前には服屋に小物、軽食、そして何を売っているのかも想像のつかないような、若者達独自の感性を対象とした奇妙ななりをした店もあり、その他にも様々な種類の店が立ち並んでいた。実際、その通りで街には沢山の、若い男女があちこちを行き来しながら買い物や会話を楽しんでいた。紫暮はそうした人々の中に紛れ込み、しばらく通りを進むと誰の目にも映ること無く路地裏へと入っていった。その路地裏こそが、手紙に記されていた場所であった。


 紫暮は懐から手紙を取り出し、そこに描かれている地図を確認し、この場所が指定された場所で間違いないということを確認した。彼は辺りをキョロキョロと見回したが特にこれといったものは何も見当たらなかった。「場所を間違えたかな?」と紫暮が呟くと、


「いいや、それは無いぜ」という男性の声が紫暮の耳に届いた。


「場所は間違えていないさ、お前さんが持っている手紙が示している場所はココで合っている」


 紫暮はぎょっとして、再び辺りを見回した。しかし、人の姿はおろかその気配すらも感じ取ることはできなかった。この路地裏には、建物の窓も無く隠れることが出来るような場所は無かった。彼は警戒心を強くし、辺りを見回しながら叫んだ。


「お前が手紙を出した人物なのか? お前が僕をここに呼んだのか?」


「いいや、それは少し違うな。あの手紙を書いたのは俺ではない。だがまあ、俺はその手紙を書いた人物の使いっ走りといったところか。全く持って人使いの荒いやつだよ……」


「どこだ? どこにいる? 姿を見せろ」


「後ろだよ」


 紫暮は振り向いた。振り向いた先には、一人の男性が立っていた。歳は顔の様子から30、40ほどである事が伺えた。短い黒髪はあまり手入れされているような様子はなく、ボサボサに逆立っており、髭も細かく剃られておらず、無精髭となっていた。身なりも、上下黒いジャージでり、靴もサンダルということから、この人物がどのような性格をしているのかはすぐさま察する事ができた。


 紫暮はすぐさま、その人物から距離を取るように飛び退き、警戒心を露わにしながら問いかけた。


「いつから僕の後ろにいた? お前は誰だ?」


「警戒されてんなあ」と男性は笑みを浮べながら、頭の後ろをボリボリ掻きながら言った。


「それも当然か。俺は魔法使いだ。名前は打川次郎(うちかわじろう)。姿とか気配とかを消す事ができるんだよ。だから、こっそりと誰かの背後を取ることなんざ、小便の後の残尿を完全に振るい落とすよりは簡単なことさ。ま、そう警戒する必要は無いぜ? ともかく、お前さんも魔法使いだろう? それに、ウチのリーダーがよこした手紙を持っているということは味方だということは分かっている。目を見ればまあ……悪い考えとかを持っている訳じゃなさそうだ。これでも、オジサンは人を見る目は確かだからな。とりあえず、付いてこいよ。お前さんがあのフォイル・ファイアマンと敵対する者ならな」


 と打川次郎と名乗った男性は踵を返し、ビルの壁へと向かって歩き出した。あわや壁にぶつかるといったところで、彼の体は壁をすり抜け、その中に入っていった。紫暮は驚いた表情を浮かべるが、その後恐る恐るといった様子で次郎が消えていった壁を指で突いた。その指の先端は少しの抵抗を感じるような事はなく、壁の中へと埋まっていった。それから、彼は手のひらを押し込んだ。安全であるということを確かめると、次郎と同じようにその壁の中に入っていった。


 壁を通り抜けた向こう側は、壁と天井、そして床の四方全てにコンクリートが打たれ、天井には申し訳程度の照明が一つだけ設置されており、横幅は1メートル半、奥行きは5メートルばかりの廊下のような場所であった。そして、その廊下の突き当りには、木で出来た扉が嵌められており、その扉には「OPEN」という小さな看板が掛けられていた。紫暮はこうした景色に驚いた様子を見せた。次郎はすでにその扉の向こうに居るのか、廊下には居なかった。彼は後ろを振り向いた。そこにはコンクリートの壁があった。彼は扉の前まで歩き、その扉を開いた。


 その扉の向こう側の部屋は、正方形をしており、右端にはバーカウンターが設置されており、そのカウンターの向こう側にある棚には幾つもの酒瓶が飾られていた。左端には四角いカーペットの上に足の低いテーブルと、幾つかのクッションが置かれていた。そして、その部屋で紫暮を出迎えたのは、全部で4人の男女であった。彼らは各々の場所で、各々の様子を見せていた。


 次郎は壁際に立ち、壁に背を預けていた。バーカウンターの前に設置されている椅子に座っている少女は、笑顔で手を振りながら言った。彼女の容姿は栗色の髪をツインテールにしており、服装は、スプライト模様のシャツの上に、デニムのジャケットを羽織っており、ズボンはデニムのショートパンツ。黒のタイツを履いていた。目の色は緑色であった。


「やあやあ、ようこそ来てくれた。ま、ま、そう緊張した顔をしないで、もっと楽にしなよ。私達は敵とかじゃないから。むしろ味方だ。そら、私の隣に座りなよ。あ、私の名前はサヴィル。サヴィル・レンキミア。サヴィと呼んでくれたまえ。よろしく!」


「倉持紫暮。紫暮でも倉持でもどっちでも良いよ」


 紫暮はサヴィルと名乗った少女と握手をすると、彼女の隣に座った。


 バーカウンターの内側に立っている、黒い髪を、黄色のピンでヘアアップでまとめ、バーテンダーが着る物と同じ、ジレを着ている女性は微笑みながら、


「私はケティー・クラと申します」と胸に手を当てて小さく頭を下げた。


「サヴィルとは友達なんですよ。彼女は少々横暴な振る舞いをする所がありますが、子供ゆえの無邪気さだと思ってやってください。何か飲みますか? お酒以外にもジュースや牛乳もありますよ。軽食も用意できます」


「心遣いありがとう。ケティーさん。今は喉も乾いていないし、お腹も空いていないから大丈夫」


「そうですか。では、何か口に入れたくなったら何でもおっしゃってください。いつでも用意できますので」


「ありがとう」


「私は頼むぞう! ケティー、マスカット!」


 とアルミャは手を振り回しながら言った。彼女の要求はすぐさま叶えられ、ケティーはマスカットジュースが入ったコップをサヴィルに差し出した。


「なら、私も一つ注文。コーラ。角砂糖20個ほど砂糖追加で」


 と彼らが居る場所とは反対側の、机とクッションがあるスペースで、大きめのクッションに背を預け、ゲーム機をいじっている少女は呟いた。彼女は水色のパーカに付いているフードを被っており、前髪も目が隠れがちになるぐらいの長さであったので、その目の調子、表情をよく見ることはあまりできないが、彼女の態度、喋りかたから物静かな人物であるということが伺えた。



「またですか? 甘いものが好きなはわかりますけれども、砂糖の摂取のしすぎはよくありませんよ?」


「別に問題ない。甘い物が好き。砂糖をいくら摂取しても、私の体は問題なし。よって問題なし。私は角砂糖20個入りコーラを求める」


「わかりました。くれぐれもこれから先、後悔のないように。ああ、紫暮さん、彼女の名前はエレィエンツーと言います。エレィと呼んでやってください」


「倉持紫暮。協力者ならば、私は君を支援する。君も私を支援するように」


 ケティーはエレィエンツの注文をしっかりと答えた。


 こうして、この部屋にいる魔法使いたちは紹介を全て終えたのであった。サヴィルはジュースを一口飲むと、


「うんうん、流石! 美味しい! それで、ミスター紫暮君。私は君のことが知りたいね。とはいっても、君の年齢とか、趣味とか、好きな事とかは別に興味ないんだ。私の興味は、紫暮君、君が私達の味方だということかどうかだ」


「それについては僕も知りたいな」と紫暮は答えた。「サヴィル、君たちは果たして僕の味方なのか、それとも敵なのかを」


「それじゃあ、お互いの敵を確認するとしよう。『|Les ennemis de nos ennemis sont nos amis.《敵の敵は味方》』なんていう言葉があるぐらいだからね。共通の敵を持てば、少なくとも利害は一致する訳だから。まあ、私は君と敵であろうなんて思いたくは無いけれど。私達の敵は、そう、数年前に東京を炎で染めたソドムとゴモラ。フォイル・ファイアマンだ。私達はかの魔法使いと戦うために集まった。そして、彼と戦うための戦力を求めている」


「そうか、なら少なくとも君は味方ということになるだろう。僕の敵も同じだ。フォイル・ファイアマン。奴こそが僕の敵なのだから」


「ならば、手を繋ぐとしよう! 我々はフォイル・ファイアマン、ひいてはその一味を倒すために結成した、魔法使いによる連合、即ちフォイル・ファイアマン討伐連合だ。その一員なる、倉持紫暮。君を歓迎しよう」


 とサヴィルは紫暮に手を差し伸べた。彼はその手を握りしめた。


「よろしく、サヴィル。……待て、君はさっきなんて言った? 『ひいてはその一味を倒す』だって? 敵はフォイル・ファイアマンだけじゃないのか?」


「その通りだ」と次郎は言った。


「俺たちの敵はフォイル・ファイアマンだけではない。奴には何十人、あるいは何百人もの配下がいるということが確認されている。フォイル・ファイアマンを打ち倒そうというのならば、奴等も障害となりうる」


「んーっと……」とサヴィルは訪ねた。「紫暮、紫暮、君はフォイル・ファイアマンについて知っていることはあるのかい?」


「奴は強力な魔法使いで、魔法について世間に知られてはいけないというルールを破ろうとしている」


「『魔法を、魔法使いを普通の人間に知られてはいけない。その存在はひた隠しにせよ』」とエレィエンツは呟いた。「魔法使いが、魔法の事を自覚し、魔法を習う時に真っ先に叩き込まれる教え。それを破ろうというのなら、待っているのは制裁のみ」


「それと、何か恐ろしい計画を企んでいるということ。そして、奴はまだこの新東京のどこかに潜んでいる。僕が奴について知っていることはこのぐらいだ」


「成る程ね。ま、それだけ知っていれば十分か。ぶっちゃけると、私達もこの数年間、フォイル・ファイアマンについて全力で調査しているけれども、正体は全くの不明。知っているのも、紫暮と同じぐらいの情報ぐらいしか無いんだよねえ」


「フォイル・ファイアマンの容姿は判明している」とエレィエンツは取り出したタブレットの画面を紫暮に見せた。


 そこには、黒い布地に、複雑な、象形文字を思わせる文様を刻んだ金色の刺繍が施されたローブを羽織っており、フードから少しだけ見える顔は、右目にあたる部分のみに穴が開いている、真っ白な仮面で顔をすっぽりと隠しているが、その体つきから男性であるという事が推測できる人物が、手元に赤い炎を纏わせている人物の画像が表示されていた。その男こそが、フォイル・ファイアマンなのであった。


 紫暮はその画像を半ば睨みつけるようにして見つめた。その様子は、姿を忘れることがないように自分の魂に刻みつけるかのようであった。エレィエンツは言葉を続けた。


「身長や体重、髪色、目の色、肌の色、人種、顔つきなどあらゆる詳細が不明。でも、男であるという事のみは推測できている。私達は彼をこう呼ぶ。|フォイル・ファイアマン《詳細不明の炎》と」


「本当、嫌になるよねえ」とサヴィルはコップの中にある飲み物を全て飲み干した。


「なんたって、我々フォイル・ファイアマンを討伐するために集まった魔法使い連盟の面々が全力を出して調査しても、尻尾すら掴ませないんだから。ああ、連合っていうのはここにいる魔法使い達だけじゃないよ。流石にこの少人数でフォイル・ファイアマンひいてはその一味とやり合おうなんて考えていないさ……ここの他にも、新東京のあちこちに散らばった計38人の魔法使い達が数年単位で、懸命に調査している。ダウジングから占いに、失せ物の場所を教えてくれる悪魔を呼び出したりと色々な手段を使っているけれども、全て空振りだ。魔法だけじゃなくても、街中を歩いて手がかりがないか探したりとまあ、色々としているけれども未だに成果はゼロなのさ」


「全くだ」と次郎は両手を持ち上げて、頭を振りながら言った。


「捜査とかは俺の専門なのに、尻尾すらも得られないっていうのは、オジサンのプライドが砕けちゃうよ。いや、ホント」


「ところで」と紫暮は思い出したように問いかけた。「僕が魔法使いであることは隠していたはずだ。ルールもあるしね。なのに、何故君たちは僕が魔法使いである事が分かったんだ?」


「ああ、それかい。なあに、簡単なことさ。私達は元々フォイル・ファイアマンを打ち倒すために、新たな戦力を得るために、連盟に加わっていない他の魔法使いとコンタクトを取り続けている。とはいっても、魔法使いはやはり、己が魔法使いであることを隠しながら生活しているから、簡単にコンタクトをとる事はできない。けれども、今回はそこにいるジャパニーズニンジャ・オンミョージ・ザ・ラストサムライである次郎君が懸命に、この新東京を中心に、この国の魔法使いを探してくれているんだ。で、今回は君が魔法使いであることが分かって、とりあえず声をかけてみたということなのさ。


 それに、君だけじゃない。ここにいる魔法使いたちの他にも、我々の味方は沢山いるのさ。すなわち、どの魔法使いもフォイル・ファイアマンを倒そうと、あるいは彼の計画を止めようとしているのさ。故に魔法使い連盟というわけさ。なぜならば、それほどにフォイル・ファイアマンという魔法使いは危険だ。彼は、数年前に魔法を使って東京を燃やし尽くした。そのせいで沢山の人が死んだ。それだけじゃない、あとから調べて分かったことなんだけれど、彼はその際に魔法の隠蔽を行っていなかった」


 ケティーはサヴィルが、中身を飲み干したコップを洗いながら言った。


「お陰で魔法の隠蔽が大変だったらしいですよ。現代では監視カメラやら、インターネットやらが発達しているお陰で、そうしたものに魔法関連が映るとたちまちのうちに世界中に拡散されてしまいますからね。現に、数年前に東京が燃やされた時も、フォイル・ファイアマンは隠れようとせず、堂々と街中で魔法を使っていたせいで、ネットに彼の姿や魔法を使う所が拡散されました。それらを全て削除しなければいけなかったそうですから。……まあ、そのお陰で東京が燃えた説の中に、魔法使いが燃やしたという説はせいぜいが都市伝説というところまで落とし込めましたが。当時、情報の隠蔽を行った魔法使いたちはてんやわんやだったそうです」


 エレィエンツはコップの中に入っているコーラを全て飲み干すと、ゲップを吐いた。彼女は手に持っていたコップをテーブルの上に置くと、


「ケティー。コーラご馳走様。魔法の隠蔽は今でも行われている。ネット上に東京の炎が魔法だという説が現れると、真っ先にそれを沈静化させている状況」


 紫雨は呟いた。


「へえ、魔法使いもインターネットとかやるんだ」


「勿論」とエレィエンツは答えた。


「魔法は時代とともに移ろう物。新たな技術、新たな原理が発見されれば、それを魔法で再現、あるいは進化させる事ができないかどうかなど研究される」


「魔法使いとは」とサヴィルは言った。


「最近の時代の魔法使いは、研究者の意味合いが強いんだ。あるいは、過去からの魔法を途切らせないために、後世に引き継ぐ伝承者が殆どだ。例えば、次郎とかがその良い例だね」


 次郎は頷いた。


「ま、そうだな。オジサンは忍術と剣術と陰陽術を失伝させないために、魔法使いになったからなあ。いやあ、あれは大変だった。オジサンが、右も左も分からないガキの頃から、その為に複数人の魔法使いやら、隠れ里で奥義を守る剣士やら、現代に潜む忍者やら、全部で5人の師からから修行を受けたんだ」


「胡散臭いなあ」と紫雨は怪訝な顔をした。それに、次郎は笑い、その他の人物たちも笑みを浮かべた。ちょどそれとほぼ同時に、ゴンゴンという、石をハンマーで叩いたような鈍く、それでいて大きな音と、振動が部屋中に響いた。その音と振動は一定の間隔で続き、振動が発生するたびに部屋の天井から埃が落ちたり、棚にしまってあるコップや酒瓶が揺れたり、飛び上がったりし、幾つかのコップが棚から地面に落下して割れた。


「何だ?」と紫雨は椅子から降りて、あたりを見回しながら叫んだ。「何だ! これは?」


「結界だ! 結界が割られようとしている!」とサヴィルは叫んだ。彼女は紫雨と同じように椅子から降りた。


「エレィエンツ! どうなっている? 結界は?」


 そうしたサヴィルの言葉が終わると同時に、エレィエンツはタブレットを弄った。画面には、幾つかのウィンドウが現れており、そこには数値やグラフが表示されていた。エレィエンツはその画面を見ながら言った。


「外部から攻撃を受けている。魔力エネルギーによる攻撃。現在貼られている結界の耐久力は凄まじい速度低下。このままだと、あと1分もしないうちに破壊される。現在、相手の姿を確認中──」というエレィエンツの言葉を、次郎は遮って言った。彼は、この部屋に一つだけしかない扉に対して警戒をし、いつでも飛び出せるといった様子だった。


「相手の姿を確認する必要は無さそうだ」


 という次郎の言葉が終わると同時に、衝撃と音は鳴り止み、数秒もすると扉の板が、強い衝撃を受けて、サヴィルめがけて弾け飛んだ。それを、ケティーが、サヴィルと戸板との間に素早く入り、拳で叩き落とした。


 扉の向こうから、3人の男性たちが部屋に入ってきた。その内、真ん中に立っている人物は、エレィエンツが紫雨に見せた、フォイル・ファイアマンの画像と全く同じ格好をした人物であった。また、彼の左側にいる男は、180以上はある超身で、額には一本の、鋭い角が生えており、目の色は黒、髪も同じく黒色で、まとめていることは無く、腰のあたりまで伸びていた。服は和服であり、黒の布地の上に、地獄絵図に描かれているような、鬼が亡者に対して拷問をしていたり、燃え盛る炎や針山が描かれていた。


 それに対して、一番右側にいる男もまた同じ様にで超慎であり、同時に筋肉質な肉体をしており、服の上からでもその様子が見て取れた。頭には濃紺色の布を巻いており、着ているコートは、長年使われ続けていたのか、所々に細かい傷や、汚れがあり、ボロボロで薄汚れていた。そして、その眼光には何の光も宿っておらず、それでいながら非常に鋭い目をしていた。


 フォイル・ファイアマンは部屋にいる人々の様子を一瞥すると、仮面の下から口を開いた。その声は、得体が知れず、それでいて圧力を感じるような、低く、機械が動作時に発するようなときの音と似た声であった。


「魔法使い諸君らよ、我々は──」


「そうか、お前がそうなのか?」そうしたフォイル・ファイアマンの言葉を遮り、紫暮は目の前にいるローブの男を睨みつけながら言った。


「そうか、お前がそうなんだな……? お前がフォイル・ファイアマンか……?」と紫暮は震えるような声で言った。その声は少しずつ強いものへとなっていき、彼は叫んだ。「そうか、お前がフォイル・ファイアマンか……そうか、お前がフォイル・ファイアマンか!」


 紫暮は一目散に走り出し、叫んだ。


「──魔力駆動(タリオ・スタート)!」


 この言葉が彼の口から吐き出されると共に、彼の中に潜んでいた魔力が、彼の全身を血液の様に駆け巡り初めた。魔力の影響によって、彼の髪の色は黒から灰色となり、目も変色し、赤く光り輝きはじめた。そして、彼の手には、持ちての身長を超えるほどの長さをもつ、銀色の槍が握られていた。紫暮は腕を大きく振り、槍をフォイル・ファイアマンの脳天目掛けて振り下ろした。



次回は明日投稿します。

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