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暗闇の最奥より一切を喰らいしもの

前話のあとがきで、今月中(3月)に投稿しますとか言っておいて、投稿するのは4月という。

申し訳ありません。無理でした……申し訳ありません……

 新東京に作られた地下道というのは、やはり念入りな開発計画によって効率的な移動が可能となるように作られており、いつも通りならばたくさんの車が行き来しているのであった。ところが、現在は紫暮たちが乗っている車以外に、ほかの車が走っているのは見られなかった。また、いつもならばその地下道は強力な白い光を放つ電球によって照らされているのであったが、今はその光はどこか黄色がかっており、数十メートル先が見えないほぐらいに暗かった。また、地下道の天井は大型の車でも通れるほどの高さであり、非常に広々とした空間も手伝い、彼らに緊張感を持たせるような様子だった。サヴィルは言った。


「ここは敵の領域だ。いつ何が起きてもおかしくはない、だからいつでも行動できるようにしていてくれたまえ。紫暮君。……ん? この音は何だ? 後ろの方から聞こえてくるぞ。コンクリートを金属でこすっているような……キィキィっていう音は? 敵だ! すぐそこにいるぞ!」


 とサヴィルは後ろを振り向いた。彼らが乗っている車から数メートル後ろの暗闇から、オルティスが地面を滑るような動きで走って、彼らの元へと向かってきた。彼は片手に持った銃の引き金を引いた。銃声が鳴り響き、放たれた弾丸は紫暮たちが乗っている車のタイヤへと命中し、破裂した。車はバランスを失ったことによって、横向きに、すさまじい速度で滑りながら壁に激突した。衝撃と衝突音との後に砂ぼこりが立ち込め、その煙の中から4、5メートルほどの大きさの、人の形をしたロボットが飛び出し、オルティスに、拳による一撃を与えた。それの体には、所々にタイヤやエンブレム、ミラー、ドアなど先ほどまでサヴィルたちが乗っていた車の特徴的なパーツがあった。サヴィルとケティーはそのロボットの内部にいた。錬金術師は叫んだ。


「どうだ、私が造ったこの車からロボに変形する魔道具は! 趣味半分、遊び半分で造ったけれど、性能は中々に強力なものだ。さあ、オルティス! この私とケティーが操縦する『グレイシャン・モンカー』が相手だ!」


 グレイシャン・モンカーと呼ばれたその機械は、大きなエンジン音をうなり声のように発生させると、火花を散らせながら地面を滑り、オルティスへと襲い掛かった。人の体を簡単に握ることのできる巨大な手による攻撃の威力は凄まじく、壁や地面にあたる度にコンクリートが粉々に砕け散り、その中に埋め込まれている鉄筋はちぎれ、ぐにゃぐにゃに曲がった姿で露出した。オルティスは、そうした一撃必殺の攻撃の全てを、素早い動きで回避しながら、手に握った拳銃から弾丸を放った。それらは全てロボットの体に命中し、火花と金属音を発生させたものの、鉄の皮膚には傷といったものは一切なく、火薬の粉が付着したのみであった。


「なるほど」とオルティスは呟いた。


「現代科学と魔法をうまく使う錬金術師は、時に科学を超越したものを造ることができるというが、これはその最たるものだな。だが、勝てない相手ではない」


「へえ、ずいぶん自信があるようだね」とサヴィルは言った。


「けれども、こちらだって負ける気はないよ。今回、君の弾丸対策のために私が趣味と実益を兼ねて造ったこの魔導科学融合式装甲型ゴーレム、クレイジャン・モンカーを引っ張り出してきたんだ。戦う前に、これだけは聞いておきたい。オルティス、君はなぜフォイル・ファイアマンに組する?」


「決まっているだろう。フォイル・ファイアマンが創る新世界は、戦争のない世界だ。彼に協力する理由は、俺もその世界を望んでいるからだ。故に! 闘争はここで終わらせる。これがこの惑星における最後の闘争だ。こちらも聞いておこう。お前たちは、こちらにつくつもりは?」


「あるわけないだろう? なるほど、戦争のない世界か。確かにそれはなかなかに素晴らしい世界だろう。けれども、その世界には魔法使い以外の人間はいないのだろう? 我々の隣人を滅ぼそうとしている奴には、強力なんてできないね」


「そうか。ならばやることはただ一つだ」


「だね。言葉で解決しないのならば、戦うしかない。昔からずっとそうだ」


 ロボットはオルティスへと向かって飛びかかった。鉄の拳は地面を粉々に砕き、鉄の足が走る度に金属音と火花が発生した。オルティスは敵の攻撃を回避しながら、銃弾を何発も放った。


 彼らが戦っている場所から、少しばかり離れたところを紫暮はコーヒー缶を片手に持ちながら歩いていた。サヴィルとオルティスとの戦闘時に発生する音が鳴り響くなか、彼は缶を少し口につけた後、ぽつりと言った。


「あっちは始めたようだ。こっちも、そろそろ始めようじゃないか。いつまでもコソコソ隠れていないで、出てくれば?」


 彼は後ろを振り向いた。暗闇が広がる通路の奥から、クレンペは姿を現した。彼の姿は、前に紫暮と戦ったときとはすっかり様変わりしていた。彼の体の所々が鈍い銀色の光を放つ機械となっていた。紫暮は言った。


「前に会ったときとはずいぶん様変わりしたようだね。どうしたんだい?」


「これですか。なあに、大したことはないですよ。貴方に負けた後、アニノ・クメール様が私をさらに強くしようと、改造を施してくださったのですよ。おお、なんと素晴らしいことか! これで私は一層、フォイル・ファイアマン様のお役に立てる! そのためにも、倉持紫暮。貴方には死んでいただこう」


「ずいぶんと自信があるようだ。けれども、死ぬわけにはいかないんだ。僕は、フォイル・ファイアマンに用事がある。クレンペとやら、お前はフォイル・ファイアマンの居場所を知っているか? 知っているのならば、見逃してあげよう」


「『見逃してあげよう』とは、ずいぶんと上から言いますね。それはこちらのセリフですよ。倉持紫暮、今すぐ身も心もフォイル・ファイアマン様に捧げるというのならば、見逃してあげますよ」


「お断りだ。僕が奴のもとにつく? 想像しただけで、全身に鳥肌が立つね。その冗談はあまり面白くないな。僕の邪魔をするつもりならば、お前も敵だ。奴の居場所を教えるつもりがないのならば、無理やり聞き出すまでだ」


「よろしい。私はアニノ・クメール様より命令されている。その内容はこうですよ。『倉持紫暮を抹殺しろ』私はその命令を速やかに実行させていただきます。お互い戦う理由としては十分ですね。前のように簡単にいくと思ったら大間違いですよ。それに、貴方が持つ槍はあとどのくらい持つのですか?」


 紫暮は眉をひそめた。クレンペは続けた。


「貴方の持つその聖槍ロンギヌスは、本来貴方のものではない。別人から渡されたものでしょう? その槍は他の魔導具とは違い、特殊な性質を持っています。そう、その槍は相応しい持ち手の元にしか現れない。どうやら、貴方はその槍の主としては相応しくはないようですね。その証拠に、使うたびに力が強まってはいるものの、槍の魔力は少なくなっている……槍の魔力が無くなれば、その槍は貴方の元から消滅する。そうでしょう? さあ、もう一度聞きますよ。貴方の槍はあとどのくらい持つのでしょうか? せいぜい、あと1、2回の戦闘が限界でしょうね。つまり、貴方は私との戦いでその力を完全に失うのです! 貴方が言うフォイル・ファイアマン様への復讐は悲しいかな、ここで打ち止めとなります!」


「そうだね。お前の言う通りだ。確かに、この槍の能力を本格的に発揮したのはつい最近の事だから、槍から力が無くなっているということには気が付いていたよ。……この槍は黒羽の形見だ。この槍は黒羽が与えてくれた魔法の力だ。この槍は黒羽が僕を助けるために与えたものだ。だから、僕はこの槍の力を喪うわけにはいかない。このまま槍を使って戦えば、君を一瞬で殺すこともできるだろう。けれども、その代わりに槍と僕を結びつける魔力──黒羽の魔力が無くなって、この槍は僕の手元から消え、ほかの相応しい所持者の元へ行くだろう。だから、この槍はここでは使わない。使えない。使うとしたら、フォイル・ファイアマンを倒すときだけだ。奴を殺すときだけだ」


「だが、アニノ・クメール様の分析によれば、貴方は魔法使いとしての素質がないようだ。だからこそ、別人の魔力によってその槍を無理やり貴方に縫い付けているのだろう。つまり、貴方は槍の能力に頼る方法以外で、魔法を使うことはできない。魔導具ですらも使うことはできない。そうですよね? しかし、魔法を使うことができなければ、この私は殺すことはできないでしょう。私も、貴方を見逃すつもりはありません。ここで殺します。さあ、どうしますか? 槍を使うしかないでしょう。そして、貴方は私と戦い、槍を喪うことになるでしょう。貴方の愛しき人の形見を喪うことになるでしょう」


「ああ、お前の言う通りだ。確かに僕に魔法の素質がないから、この槍に頼る方法以外に魔法を使うことはできない。だから、()()に頼るとしよう」


 紫暮は手に持っていたコーヒー缶を放った。缶は地面に落ち、何度か跳ねて転がった。そして、トンネル内に設置されている蛍光灯の光は途切れ、あたりは全くの暗闇へと包まれた。クレンペは「何?」と呟いた。彼は辺りを見回したり、腕を振り回したりした。


「何が起こっている? これは一体……何も見えない。……私の声が聞こえない? 私自身が放った声が、私の耳に届いていない? どういうことだ? これは一体どうなっている? このあらゆる闇の中でも、敵の姿をくっきりととらえることができる機械の目ですらも、何も見えない──どうなっている? これは一体……ええい、姿を現せ! 倉持紫暮! 堂々と私の前に姿を現しなさい!」


 と彼が言い終わった瞬間、闇は完全に晴れ、先ほどまでの地下道の景色へと戻った。クレンペは言った。


「元に戻った……? 何があったのかは分からないが、こうして無事ならばただのこけおどしか! 倉持紫暮、お前はここで死ね──何だ? 体が動かない? どうなっている? 私は攻撃をしようとしているのに、体が動かない……おお、何だ? 何が起こっている? 私の視点が下に落ちていく? 倉持紫暮の頭から胸、足──何だ? これは一体何が起こっている?」


「ああ、驚いた。首だけになっていても、生きているんだね」


 と紫暮は言った。彼の言葉によって、クレンペは自分の体に起きた変化を把握した。彼の体、首から下部分はすっかり消え去っており、彼の首は地面に転がっていた。紫暮は彼の首を踏みつけ、そのまま踏みつぶそうとした。クレンペは言った。


「貴様……! まだだ、まだ私は負けていない! アニノ・クメール様の科学力を舐めるな!」


「何?」


 と紫暮は彼の頭から足を退け、素早く後ろに飛び下がった。彼の首の切断面から、銀色のコードが蛇のようにうねうねと伸び、それらは床や壁などに纏わりついた。しばらくすると、コードが触れている部分の床や壁が金属へと変化し、次に棒やねじなど、あらゆる形状へと変化した。それらはパズルのように、次々と組み合わさり、頭のない人間の体へと変化した。その体は、クレンペの頭を拾うと、首にはめ込んだ。クレンペは言った。


「ふん! 一度体を破壊しようが、無駄だ! アニノ・クメール様の科学力は不可能を可能にするのですよ。このように、ほかの物質を機械へと変化させ、この肉体を再生させることができるのです。つまり、私の体がいくら無くなろうが、こうして何度でも作り直せばよいのです。さあ、先ほどは不覚を取りましたが、次はそうはいきません。覚悟しなさい! この私の鋼の肉体は、音速で駆け、あらゆる攻撃を弾き、岩をも簡単に砕くことができるのです!」


「そう。別にどうでもいい。それに、次なんてないさ。クラカケミヤ、飲み込め」


 クレンペは彼の言葉に警戒をした。しかし、しばらくたっても何も起こらなかった。彼は「何ですか? ただのこけおどしでしたか!」と言った。その直後に、彼の背後で物音が発生した。彼は素早く振り向いた。その音というのは、地下道天井にあるヒビから滴り落ちた水の雫によるものであった。彼はほっと一息吐き、紫暮の方を向いた。すると、紫暮の足元に落ちているコーヒー缶の口から、黒いそれは飛び出した。それは閃光のように素早く、あらゆる光を飲み込むことによって黒色のみの色であった。


次話は今月中に投稿します。今は4月頭だから、次話を書く時間は十分のはず……!

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