誓い
前に投稿した期間からかなりの時間が空いてしまいました……! 申し訳ありません!
いや、小説書くの難しいですね……毎日投稿している人とか、どんな脳しているんでしょうかね?
ともかく、遅くなって申し訳ありません!
3人の魔法使いたちは、朝食を終えると出発することにした。その前に、紫暮は広場の端にある自動販売機でコーヒーを購入した。すると、自動販売機のくじが当たったので、紫暮は、サヴィルへと振り向いて言った。
「当たりがでたから、もう一本タダで貰えるよ。僕はこれだけでいいから、君は何か飲みたいものはあるかい?」
「それじゃあ、コーラを!」とサヴィルは言った。
「了解」と紫暮はコーラのボタンを押した。
そして、出てきたコーラをサヴィルへと手渡すと、彼女たちが乗ってきたあのオープンカーの、後部座席へと座った。サヴィルは助手席、ケティーは運転席にとそれぞれ座っていた。サヴィルは頭を後ろへと向けて言った。
「いやあ、日本は凄いね。自動販売機の多さもそうなんだけれど、くじに当たるとただで飲み物が貰えるっていうのが最高だ。あれ、中々当たらないんだろう? 凄いね」
「そんなことはないよ」と紫暮は缶の蓋を開けながら答えた。
「こういったくじは、なんだか昔からいつも当たるんだ。僕は、運だけはいいんだよ」
「へえ、それは凄い! しかし、さっきの朝食でも飲み物は飲んだでしょう? あれだけじゃあ足りなかったのかな?」
「いいや、これは僕が朝食を食べた後に、何となく缶コーヒーを飲みたくなっただけだよ。朝食はごちそうさま」
「そうかい、それならいいや。さ、ケティー、そして紫暮、出発進行だ!」
「はい、シートベルトは締めましたね? 道交法ギリギリグレーゾーン超過で飛ばすので、注意してください」
ドライバーはペダルを思いっきり踏んだ。命令を与えられた車は、まさに矢の如くその広場から飛び出ていった。
道中、朝早くということもあって渋滞するようなこともなく、車は目的地へと順調に向かっていった。その最中、サヴィルは紫暮に対して色々と質問を投げかけては、紫暮がそれに答えるといったやりとりを繰り返していた。その内容は、このようなものだった。
「紫暮、君きは感謝しているよ。我々魔法使い連盟に協力してくれて、ありがとう。次郎やアーサーから、君の力はかなり強力なものだと聞いているから、戦闘向きの魔法使いであることには間違いない。そこで、今回はかなり危険なことをするから、君には私達のボディガードをやって欲しいんだ。私達は、これからフォイル・ファイアマンの拠点の一つと思わしき場所へと向かう。つまり、敵地に突入するんだ。私達も、戦うことはできるけれど、私の使う魔法は錬金術だ。直接の戦いには不向きだし、ケティーも体の頑丈さ、膂力はそこらの人間よりも強いけれど、戦いの経験なんてほとんどない。だから、もしもがないように、君に守って貰おうというわけさ。
そこで、ひとつお互いの信用を深めるためにいくつか話そうじゃないか。私達は、魔法使いとして、あの邪悪なる魔法使いを倒そうとしている。けれども、君は違うんだろう? 紫暮。次郎の観察によると、君は復讐者だそうな。なるほど、確かにその物静かな、風のない湖のように落ち着いた瞳の奥には、黒い炎が激しく燃え盛っている……改めて、こうして意識してみるとそのことがよくわかるなあ。
なに、復讐なんてくだらない、とかいうありきたりな言葉をかけるつもりはない。だから、そう睨まないで。背筋がゾクゾクするからね。ただ、私たちの敵がたまたま共通しているだけで、私は君を利用できるならそれでいいのさ」
「なるほど、それならば僕も君を利用するとしよう」と紫暮は言った。
「サヴィル。君の敵はフォイル・ファイアマン。僕の敵もフォイル・ファイアマンだ。お互い目的は同じなんだ。少なくとも僕たちが敵対関係になることはないだろう。そして、僕だってもともとは、君たちを利用しようとしている。フォイル・ファイアマンの元へとたどり着くには、僕自身の力だけではできない。だから、僕は君たち魔法使い連盟という巨大な組織を利用している」
「それでいい。うん、お互いがお互いのことを、同じ目的のために利用しているんだ。うん、これはなかなかにわかりやすい関係でいいじゃないか! さ、私たちは仲間だ。お互い仲良くやろうじゃないか。しかし、君は何だってそんなにフォイル・ファイアマンのことを憎むのかな? 私たちは、魔法使いだから、魔法使いの法律に則ってやつを討とうとしているけれど、君の目的は復讐。そんなに強い憎しみを抱くなんて、なかなかないだろう」
「それはいたって簡単なことだよ。僕はやつに恋人を殺された。ちょうど、その人の命日が明日で(これは東京全体が燃やされたから当たり前のことだけれど)ちょうど彼女の誕生日だったんだ。僕は、その日に、彼女に指輪を送ろうと考えていたんだ。僕と彼女はいつも、僕が借りている部屋で過ごすことになっていたから、僕は部屋をいつもより念入りに掃除して、彼女が来るのを待っていたんだ。彼女が来たのを知らせる、開くたびにキイキイ鳴く扉の音が聞こえた。僕は、すぐに玄関に出迎えに行って、彼女の姿を見ると唖然としたよ。とうとうやってきた待ち人は、全身血だらけで、火傷も負っていた。酷いありさまだったよ。彼女は、魔法使いであることを僕に明かし、この街を、魔法使いの掟を守るために、フォイル・ファイアマンと戦ったことを話した。そして、この魔法の力を僕に渡した。これは、彼女がフォイル・ファイアマンの計画を知っていたから、僕を魔法使いとすることで、やつの脅威から守ろうとしたんだ。そして、彼女は残った魔法の力を使って、東京中を燃やし尽くしたあの炎から僕を守った。気が付いたときには、すべてが無くなっていた。東京の街並みは消え去っていて、灰一つ残らない、黒い地面と薄暗い空、降り注ぐ雨の中を僕はふらふらと彷徨いながら、彼女を探したけれど、見つかることは無かった。それは初めから分かっていたんんだ、あの激しい炎に飲み込まれて、体ごと燃やし尽くされたなんていうことは、すでに分かっていたんだ。
僕は、何というのか、そう、いわゆる無感動な人間というやつなんだ。とりわけ、死というやつに対しては、なんとも思わないんだ。そのことが初めて分かったのは、数年前に飼っていたペットが死んだときだった。犬を飼っていたんだ、犬種は多分雑種だったかな? 茶色くて、体の大きい犬だった。名前を付けて、毎日エサをあげたり、散歩をしたり、芸を仕込ませたりしていた。もちろん、ペットとしてしっかりかわいがっていたよ。僕が呼ぶと、すぐに駆けつけてくるやつだった。でも、僕が高校生のときだったかな、その時はもうかなりの高齢でね。日々元気がなくなっていって、やがてばったり倒れたんだ。家族は皆悲しんだよ。母さんも、父さんも、いつも喧嘩ばっかりしている、乱暴者の弟も──でも、僕は悲いとか、そういう感情を発生させることは無かったんだ。なんでだろうね、ただ『死んだ』という事実を認識するだけだったんだ。
けれども、彼女だけは別だったんだ。そう、本当に僕は黒羽が心から大好きだったんだ。あの憎い魔法使いの手によって、全てが焼き尽くされた日、僕は彼女に指輪を渡すつもりだったんだ。いつも、僕が暮らしているアパートで一緒に過ごすことにしていたから、僕は彼女が家に来たら渡そうとしていたんだ。いつも通り、一緒に何か楽しいことを話したり、映画を見たり──そうして夜になって、食後のゆっくりと過ごす時間に、渡そうとしていたんだ。僕も、黒羽もロマンチックという雰囲気はあまり好きじゃないから、そうしたふとした時間に渡そうとしていたんだ。僕は、彼女が来る前に、部屋をいつもより念入りに片づけると、いつもよりそわそわしながら黒羽が来るのを待っていた。あの古い扉を開くのは、僕か、配達業者か、黒羽ぐらいのものだったから、扉がキイキイ言ったらすぐに来たということがわかるんだ。扉が鳴くと、僕はすぐさま彼女を出迎えに行ったんだ。彼女の黒い髪、吊り上がっていても鋭さは無く、そのかわりに優しさを感じ取ることのできる目、桜色の唇、しなやかな体つき──そうした彼女の姿は、いつ見てもドキドキしていた。それほどに、黒羽は美しかったんだ。性格も完璧だったよ。いつも落ち着いていて、気が強く、いたずら好きで僕をからかうこともよくあった。その度にドキッとしていたなあ。
いつものように、映画を見たり、本を読んだりして過ごしている、そうした日常の中で指輪を渡そうとしていたんだ。僕が前に住んでいたアパートは古かったから、扉が開くたびにキイキイという音を立てるんだ。で、僕の部屋に来る人といえば、宅配か、黒羽の二択だったから、扉の音がすればそれが来客を知らせる合図になっていたんだ。用意を万全に終えて、彼女がいつくるのかそわそわしながら部屋の中で過ごしていて、扉が鳴くと僕はすぐさま玄関に向かった。彼女はいつものように僕の好きな食材が入ったビニール袋を、笑いながら差し出してくれるのを期待していた。けれども、実際にはそれどころじゃなかったんだ。彼女の白い肌はところどころが傷つき、いくつもの火傷や血があった。僕は仰天して、何が起こったのか理解できなかった。黒羽はもう死にかけていた──彼女は残り時間が少ない中、何が起きたのかを僕に語って聞かせた。彼女は真っ先にフォイル・ファイアマンの存在と計画とを嗅ぎ取り、それを阻止しようと奴と戦って、負けたんだ。そして、彼女は魔法使いのことを伝え、魔法の力を僕に渡し、そして奴が放った炎から残った魔法の力で守ってくれたんだ。気が付いた時には、全てがなくなっていた。いくつもの建物、いくつもの人間──それこそ、数えきれないほどの数の物体が跡形もなくなっていた。全てが強力な炎によって燃やし尽くされ、灰ひとつ残っていなかったんだ。地面は黒色の土がむき出しになっていて、空には日光を遮るほどの分厚い、灰色の雲が雷鳴を放っていた。まさに、一つの地獄といった有様だったよ。そんな中、僕は地面に横たわっていた。喪っていた気を取り戻したあと、ぼうっとした頭でそうした光景を眺めていた。しばらくすると立ち上がって、ふらふらとした足取りで適当な方向へと歩いたんだ。そのとき、何を考えていたのかはあまり覚えていない。とにかく、あてもなく歩いていたんだ。きっと、無意識で黒羽を探していたんだろう。どのくらいの時間、どのくらいの距離を歩いていたのかはわからない。しばらくすると、足ががたがたになって、転んだ。その拍子に、ポケットの中から指輪を入れた箱が転がった。僕はそれを開けると、黒羽が死んだという事実を理解し──大泣きした。涙が枯れるまで泣いていたんだ。
なぜ涙を流すのか、それは悲しかったからだ。そう、僕はこのときはじめて悲しいという感情を経験したんだ。そして、同時に巨大な喪失感も味わった。僕にとって、黒羽はすでに自分の体の一部、自分の心の一部となっていたんだ。大切な臓器が無くなるような感覚だったよ。この時、僕は改めて理解したんだ。倉持紫雨という人間は、相川黒羽という人間が心の底から好きだったんだと。その後、東京は目覚ましい復興を見せ、あっという間に新東京へと生まれ変わった──その間、僕はあちこちを訪ねて、死人を生き返らせる方法は無いか探し回っていたんだ。魔法があるのならば、死人を生き返らせる方法もあると。そして、その方法を見つけることはできた。けれども、黒羽を生き返らせるのは不可能だったんだ。なぜなら、死者を生き返らせるための条件を満たす事ができなかったから。フォイル・ファイアマンは文字通りすべてを燃やし尽くしたんだ。つまり、建物や人間だけではなく、生き物の魂すらも跡形残らずに、燃やし尽くしたんだ。魂が無ければ、生き返らせることはできない。魂の現存こそが、人間を生き返らせるために必要不可欠な条件の一つだったからね。黒羽からもらったこの魔法の力でどうにかできないか、色々と試したけれどすべてが無駄だったよ。その後、僕はフォイル・ファイアマンへの憎しみを持ち始めたんだ。僕のすべてを奪い去った男──どんな姿をしているのか、どんな声をしているのか、僕は奴の姿を見たことはなかったけれども、その様子を想像することだけはいくらでもできた。奴のことを想像するうちに、あの憎き敵への復讐心はますます膨れ上がっていったんだ。そして、ある日この新東京に魔法使いの痕跡を発見したんだ。今となっては、その痕跡がフォイル・ファイアマンか、あるいはその一味のうちの誰かのものなのか、あるいは君たち魔法使い連盟のうちの誰かのものなのかは定かではなかったけれども、このとき僕は確信したんだ。フォイル・ファイアマンは、復讐するべき敵はこの新東京にいると。そのことが分かると、僕の憎しみは一層激しいものとなり、同時に胸の中の空虚さも増していった。僕はその空洞を憎しみという物体で埋め尽くし、新東京中を探し回ったんだ。そして、サヴィル。君たちという魔法使いのおかげで、僕はフォイル・ファイアマンへの手がかりをつかんだ。ありがとう、僕も、君たちも目的は同じなんだ。だから、今は協力しよう。実のところ、君には感謝しているんだ」
「そうかい、だったら遠慮なく戦えばいいさ。私たちは、フォイル・ファイアマンのたくらみを阻止することができればそれでいいんだ。さ、紫暮。君もそろそろ気が付いたんじゃないかな? 今、この車は新東京の地面の下につくられた、地下道を通っている。地下の道は実に複雑なもので、気を抜いたら迷子になってしまいそうだ。けれども、私たちはこの道をずっと走っているんだ。周りを見てみな。私たちの乗っているもの以外の車がいないだろう? つまり、ここは地下道の一部の空間を特別な魔法を使って、弄ってあるんだ。そこを見てみな。さっき私はこっそりあの壁に傷を入れてみたんだ。目印になるようにね。で、この車は間違いなく真っすぐ走っているのに、あの傷を見るのはこれで3度目なんだ。わかるかい? 気を抜くな。ここはすでにフォイル・ファイアマンのアジトの領域なんだ。さ、存分に復讐すればいいさ。私たちも、その手伝いをしようじゃないか!」
次は今月中に投稿します! 必ず!