電子世界デーモン
まず、前回予告した投稿時期から、かなり遅くの投稿になってしまい、申し訳ありませんでした。
リアルが思ったよりも忙しく、小説を書く時間がなかなか取れませんでした。活動報告にそのことをあげようにも、なんやかんやで上げることができませんでした。申し訳ありません。
家に帰った紫雨は、手慣れた様子で夕食を作りはじめた。出来上がった食事を机に並べると一人でそれらを食べ始めた。そうしていると、アパートの前の広場に取り付けられているオーロラビジョンがニュースを放送し始めた。紫雨はそのニュースの内容を流し見していたが、その中でもひときわ彼の興味を引くニュースが紹介されていたので、画面に目を向けた。ニュースキャスターはその内容について話し始めた。
「続いてのニュースです。今日未明、ライブハウス『Blue Seoul』にて機材の故障が発生したことにより、建物の一部が破損しました。床や壁は焦げ、天井には穴が開きました。オーナーはこの出来事に対して『けが人がいなかったのが幸いだった。今日は誰もライブハウスに来ている人はいなかった。修復代は……ああ、ぼうっとしていました。すみません。お金はそうだ、常連のお客さんが払ってくれます。ありがたい事ですね。再開するのは、再来週ごろになるでしょう』とのことです。けが人がいなくてよかったですね。それでは、次のニュースです──」
紫雨は呟いた。
「『今日は誰もライブハウスに来ていなかった』だって? そうか、魔法について知られると困るから、建物の破損は機材の故障ということで誤魔化し、僕たちが来たという事実は、あのオーナーを催眠術かなにかにかけてごかましたんだな。なるほど、こうして魔法使いは姿を隠していたというわけか」
彼が言い終わると同時に、オーロラビジョンから発されるアナウンサーの声は途切れ途切れのものとなり、画面にはノイズが走った。それはほんの一瞬のものであり、すぐに収まった。その後、紫雨が食事をしているテーブルの端に置かれたスマートフォンの画面が起動し、次のような声を発した。その声はエレィエンツのものであった。
「紫雨。こちらエレィエンツ。緊急事態、敵に攻撃されている。応援求める。応答は聞かない、強制召喚開始。ターゲットは紫雨」
「え?」と紫雨は声を漏らした。
彼が気がついた時には、その体がスマートフォンから発される光に包まれた。それが消えると、紫雨の姿は部屋から消えていた。彼は光の眩しさによって閉じていた目を開くと、アパートの前の円形の広場の真ん中に立っていた。レンガが円形の模様を描くように敷かれた広場には、パラソル付きのテーブルに、椅子などが設置されており、それらは客がカフェや移動販売車で購入した物を楽しむときに使われているものであった。その他にも、紫雨や飛鳥が住んでいるアパートなどが見られた。しかし、それらの景色はいつも紫雨が見ているようなものとは違っており、青色のポリゴン(ポリゴンとポリゴンとの境目は白い線であった)や0と1の数字の羅列によって構成されていた。
紫雨のすぐ近くに、エレィエンツは現れた。
彼女は言った。
「紫雨。応答感謝する。ここは電子の世界、0と1のみで構成された世界。私が使用する魔法は、電子魔法。電子世界を自在に駆け巡り、操ることができる魔法。私は電子世界にて、情報収集を行っていた。その最中、私と同じく電子世界に入り込んでいた、フォイル・ファイアマンの手下による襲撃が発生。敵戦力強力。私の力のみでは、撃退は厳しい。たまたま近い位置にいた紫雨。救援求む」
「わかったよ。晩ご飯の続きを食べたいから、とっとと終わらせよう。で、その敵っていうのはどこにいるの?」
「現在、こちらに接近中。数は合計50ほど。敵はすべてロボット。おそらく、電子世界を航行することに特化したマシン。動き素早い。防御硬い。攻撃強力。数超多い。私の手には負えない。敵接近まで……ついさっき完全接近完了」
とエレィエンツは空を指さした。示された先には、紫雨が前に遭遇したものと同じ形のロボットがいくつもの群れをなして、広場へと向かって飛んでくる光景があった。そのうちの一体が、目のランプを点滅させながら音声を発した。
「エレィエンツめ! ちょこまかと逃げやがって! この世界最高峰の電子魔法使いであるアニノ・クメールから逃げられると思うな! んん? そこにいるのは、倉持紫雨か? 助けを呼びやがったか。関係ねえな! 何人いようが、関係ねえな! むしろ好都合だ! この魔導鉄人兵団type:wormで皆殺しだ!」
「紫雨、周囲を囲まれた。こちらの勝利条件は、10分の時間を作り、電子世界より脱出すること。10分あれば、この世界から痕跡を残さずに脱出できる。あるいは敵全ての掃討。成功する確率は、前者の方が高い。しかし、どちらも難易度高い」
「問題ないよ」と紫雨は答えた。
「あのロボット達の力はすでに知っている。50程度ならば、時間を稼ぐぐらいなら余裕でやってのけてみせるさ。で、僕は何をすればいいの? 時間を稼ぐ? それとも、全部倒す? どっちでも構わないよ」
「頼もしい。なら、敵全ての掃討を。そちらの方が、これ以降も電子世界を安全に探索することができる。私も手伝う」
「舐めてくれるな! テメエら!」とアニノ・クメールは叫んだ。「いいぜ、だったら倒してみせろよ! できるものならな! 紫雨、前にテメエと戦った機体と同じだと思うなよ? こいつらは特別性だ! さあ、ワームどもよ、その真価を見せてやれ! なぜ寄生虫と呼ばれているのかを見せてやれ!」
その命令によって、ロボットたちは忠実な動きを見せた。彼らは周りにある建物や車、机などの物体に触れると、その体をずぶずぶと建物や車の中に潜り込ませた。すると、紫雨が暮らしているアパート、カフェ、ビルといった建物や、移動販売車、軽自動車にテーブル、花壇などのもの達は、細かく分解されるような動きを見せながら、それぞれの部位がそれぞれ全く違った方向へと動き始めた。やがて、ロボットに寄生された物体はそれぞれの形、色、部品に応じた、人型のロボットへと変改した。それらのすべてが、見上げる紫雨たちの顔が真上を向くぐらいの大きさであった。
アニノ・クメールは大笑いをしながら言った。
「どうだ! これこそがアニノ・クメール様の技術だ! 電子世界にある物体に寄生し、その形を自在に変え、操作する事ができる! ゆえにtype:worm! だが、まだまだ終わらねえぜ! さあ、真のショータイムはこれからだ! 地獄を見せてやれ! 魔導鉄人兵団共よ! さらに姿を変えろ! テメエらはすでに、この電子世界という名の断頭台に上がっている! さあ、その首を切り飛ばす処刑人のお出ましだ! その姿を見て、ガクガク怯え震えろ! 泣きわめけ! 命乞いをしろ! 無慈悲なる刃は既にテメエらの首すじの元だ!」
巨大なロボットたちはそれぞれが空中へと跳ね上がり、それぞれが人型から、腕や胴体、足といった部位へと変形し、一つに集まり、さらに巨大な人型のロボットへと変形した。その大きさは、天をもつくばかりであった。その巨人は目を点滅させながら叫んだ。
「どうだ! これこそが、魔導鉄人兵団の真価だ! さあ、死ぬ準備はとっくに済ませたか? ならば、ただ死ね! 死ね! 殺す! 殺してやるぜ!」
「まずい」とエレィエンツは冷や汗を一粒流した。
「アレのせいで、ここら一帯の現実世界にも影響がもたらされている。電気がついたり消えたり……パソコンやテレビの画面にノイズが走ったり……その他にも、色々な形になって悪影響がもたらされている。そして、このまま時間がたてば、建物や車自体にも物理的な影響が発生する。やがては建物が崩壊したり、車は勝手に走り出して大暴走したりする。アレは間違いなく、電子世界から現実世界を蝕む最悪のウィルス」
「へえ、それはかなりまずいことになっているね。それで? あれはどのくらいの強さなのかな? 正直、大きいだけでもかなりの脅威なんだけれど」
「私たち二人で戦えば、何とかなるかもしれない。けれども、時間はあまりかけられない。理由はさっき説明した通り。私は、動きを止める。紫雨はその間にアレを操っている根本を断ち切る。これまでの解析によると、アニノ・クメールは人間ではなく、自立したプログラム。間違いなく、アレの中にプログラムの核がある。場所はおそらく、胸、胴体の部分にある」
「なるほど、分った。さっさと終わらせよう」
と紫雨は光輝く槍を出現させ、戦闘時の姿へとなり替わった。同時に、エレィエンツも「戦闘超強化プログラム起動」と言った。すると、彼女の体はぐんぐんと大きくなり、ロボットと同じほどの大きさとなった。彼女は拳をロボットに突き出した。それを受けたロボットは、バランスを崩し、数歩ばかり後退した。
「うう、生意気な!」とアニノ・クメールはうめき声を漏らした。
「これでもくらえ!」
ロボットの腕の表面が開くと、そこからいくつものミサイル弾が飛び出し、エレィエンツの体に次々とあたり、爆発を起こした。エレィエンツはうめき声を漏らしながらよろめいた。しかし、すぐに姿勢を取り直すと「ウイルスバスター発動」という言葉とともに、青色の光線を放った。
「そんなモン、弾き返してやるぜ! おら、ファイアウォール展開!」
ロボットの前に、赤い光を放つ一枚の透明な壁が出現した。赤色の光線は、その壁にぶつかり、いっそう強い光を放った。その光が収まった直後、ロボットは片手を突き出してエレィエンツの体をつかみ、もう片方の手で彼女の顔を殴った。エレィエンツも同時にロボットの顔を殴った。二人はよろめき、お互いに後ろに下がった。
アニノ・クメールは叫んだ。
「クソが! テメエ、なぜやられねえ? オレは兵器だ! 地球上において誰よりも賢いアトランティスの民によって造り上げられたこのオレが! 誇り高き超魔導科学殺戮兵器であるこのオレが! なぜ、なぜ、目の前にいる敵を殺せねえんだ? くそったれが! ムーとの闘争で沈み、役目を終えて長く眠っていたところを、フォイル・ファイアマンが引き上げ、再び兵器としての役目を与えてくれたんだよ! 兵器は敵を殺さなければならない! オレは敵を殺さなければならない! だというのに、なぜテメエはいまだに生きている? それどころか、なぜオレと渡り合っている?」
「なるほど、これは驚いた」とエレィエンツは言った。
「ただの攻勢プログラムではないとは思っていた。まさかアトランティスが生み出したAIだったとは。それにしては、少々下品。アニノ・クメール。お前は私に勝てない。その理由はいくつかある。けれども、今はそれを語る場ではない。次で終わりにする。クラック・ファイアブレイクプログラム起動。このプログラムの前には、何人たりとも抵抗できずに消滅する」
エレィエンツは片手を前に突き出した。彼女の手のひらからは、先ほど放った光線よりも強い光を放つ、巨大な光線が発射された。
「上等だ! 上等だ! オレはテメエを滅ぼす! アトランティスの名にかけて! 誇り高きアトランティスの前に敗れ去るがいい! エネルギーチャージ200パーセント! 超一極集中灰塵魔導大砲ル=ア・ゼノスの威力の前には、何人たりとも無力だ!」
ロボットの胸部分が開き、そこから像ならば2、3頭ほど入ることのできるほどの大きさの大砲が現れた。その大砲から、赤色の光線が放たれた。二つの光線はぶつかりあった。攻撃の威力は拮抗していた。しかし、しばらくするとアニノ・クメールが放った赤色の光線が、エレィエンツの放った青色の光線を押し始めた。あともう少しで光線がエレィエンツの体を飲み込むといったところで、アニノ・クメールは大笑いをした。
「これで終わりだ! そうだ、これこそがオレの正しき姿! これこそがオレの兵器としての在り方! すなわち、目の前に立ちはだかる敵を容赦なく殺戮する悪魔! それこそがオレという兵器なのだ! これで終わりだ! アトランティスの前には何人たりとも無力なんだよ!」
「それはどうかな?」と紫雨は言った。
彼は、ロボットの近くにあるビルの屋上に立っていた。彼は槍の柄の真ん中程を握りしめ、ロボットの胸部分めがけて投擲した。槍は真っすぐにロボットの露出した胸の中にある核を貫き、粉々に打ち砕いた。
「エレィエンツが時間を稼いでくれている間、槍が届くギリギリの距離まで移動して、ずっと攻撃のチャンスをうかがっていたんだ。アトランティスだかアトラクションだか何だかは知らないけれど、これで終わりだよ。アニノ・クメール。お前の負けだ」
ロボットの体は、全身にヒビが入り、大砲から放たれている光線は止まり、エレィエンツの光線が全身を飲み込んだ。光に包まれるなか、ロボットの体は粉々に砕かれた。アニノ・クメールは断末魔とでも言うべき叫びを放った。
「畜生! オレの負けだと? くそったれ! 畜生め! このアトランティスの民が……! 負けるなんざ、あり得ねえ! たとえ、本体の一部から切り離されたサブプログラムだとしてもだ! くそったれめ!」
こうした言葉を最後に、アニノ・クメールはこの場から消滅したのだった。元の大きさに戻り、紫雨の隣に移動したエレィエンツは言った。
「何とか撃破完了。けれども、アニノ・クメールには本体が存在する。それは今のよりも、さらに強力なものと予想される。それはともかく、紫雨、急な呼び出しへの応答および協力、感謝する。ここら一体の破損したものは私があとで修復する。紫雨はこの電脳世界から退出する」
「どういたしまして。後片付けは任せるよ。僕には何もできそうにないし」
「了解。あと30秒で完全修が完了する。問題はない。紫雨を電脳世界から現実世界に退出開始」
とエレィエンツが言うと、紫雨の視界は光に包まれた。彼が目を開くと、彼はアパートの椅子に座っていた。あたりをきょろきょろと見回し、言った。
「なるほど、どうやら戻ったみたいだね。しかし、今回で実感したけれど、どうやら敵は僕が思っていたよりも強大なようだ。なんせ、アトランティスとかいう都市伝説が出てくるんだから。あの戦いにまともに入っていたら、僕はきっとひとたまりもなかっただろう。けれども、これで僕は復讐の方向性を完全に固めたぞ! フォイル・ファイアマン、お前はお前の目的を達成するために、ずいぶんと張り切っているようだ! ならば、僕はそれをすべて粉々に打ち砕き、お前のすべてを奪い取る! お前の大切なものをすべて奪い取ってやる!」
次回は来週か再来週の土日に投稿します。