第21話 「少女は、その笑みに隠された感情に気づかない」
やんわりとした口調とは裏腹に、そこには確かな感情が込められていた。
敵意や殺意とは、少し違う。
それは使命感。
父親の敵を討つ。それは同じ戦場に立っていた彼女とって、何があってもやり遂げなくてはならないことだった。
「敵討ちですか!?」
ユーリィの驚いた様子に、クリスティーナは神妙な顔で頷く。
「はい、姉さま。戦争とはいえ、私は父親を失ったのです。あの時の悲しみは、決して忘れることはできません」
「ですが、……たくさんの人が戦った場所なんですよね。それでは、誰がクリスティーナちゃんのお父さんを撃ったのか、わからないんじゃないですか?」
ユーリィが申し訳なさそうに指摘する。
すると、彼女は意外にもあっさりと肯定した。
「そうですね。実際のところ、父を撃った人間を見つけることは不可能でしょう。激戦区となったギガナ高地では、帝国も多くの戦死者を出したと聞いています。もしかしたら、父を殺した人物も、すでに死んでいるかもしれません」
でも、とクリスティーナは続ける。
「だからといって、諦めることはできません。私にとって、父は大切な家族です。忙しくて家に帰れず、戦争が始まってからずっと会えませんでしたが、父は私を愛してくれていたと思うんです。そんな父の無念を、私が―」
ぽつり、ぽつり、と呟かれる彼女の感情。
眉間に皺を寄せて、深刻そうな表情となっていく。
それはどこか、不機嫌そうな顔にも見えた。
……不機嫌な眠り姫。そんな言葉が、思わず頭に浮かんでくる。
「……そうか」
クリスティーナの言葉を聞いて、シローはどこか複雑そうな表情を浮かべる。
そして、彼女へ向けて、優しく微笑んでみせるのだった。
「……いつか、親の敵が討てるといいな」
「はい、ありがとうございます」
嬉しそうに微笑みながら、丁寧にお辞儀をした。
――クリスティーナは気づかない。
――シローの笑みの意味を。
――その奥底に隠された、ある感情を。
――彼女が、理解できるわけもない。
「シローさん? どうかしましたか?」
「いや、なんでも」
唯一、ユーリィだけが、そのわずかに変化に気がついたが、シローは言葉を濁すだけで答えなかった。
「ねぇ、兄さん。明日の放課後は時間がありますか?」
「ん? 別に用事はないが」
シローが答えると、クリスティーナは少しだけ真面目な顔になる。
「それでは、私の調べものを手伝っていただけませんか?」
「調べ物?」
「はい、そうです」
シローの問いに、彼女はわずかの躊躇をすることなく答えた。
「実は、生前の父について調べているんです。……オルランド共和国、第101歩兵部隊の指揮官。ヴォルマ・ビスマルク。その死について、ちょっと気になることがありまして。是非とも、兄さんの意見を聞かせてください」
それは、同じ戦場に立っていた『ホワイトフェザー』として話が聞きたい、という意味であろう。
今でこそ、クリスティーナ・ビスマルクは帝国に恐れられる登録魔術兵士であり、学園でトップクラスの狙撃手である。
だが、当時の彼女は、無名の新兵であった。
魔法の素養があるということだけで徴兵された普通の少女。
当然として、戦場の状況などわかるわけもない。自分がいる新兵隊を指揮していたのが、自分の父であったことさえ、戦後になってから知ったほどだ。
「兄さんなら、わかるんじゃないかと思うんです。あの戦場で、……無数の屍が積み上げられたギガナ高地で何があったのか。なぜ、父は死ななくてはいけなかったのか」
純粋な目をしていた。
真摯で、誠実で、揺るがない信念のようなものまで感じだ。
故に、シローは。
自分の奥底にある感情を秘めたまま、彼女に向かって頷いた。
「わかった。俺にできることがあれば協力しよう」
その顔は、やはり複雑な表情をしていた。




