第6話 「ランク戦は、日々変わりなく」
「それで? あれからどうなったんだ?」
ゼノが全速力で物陰に滑り込む。
それと同時に、バラララッと凄まじい銃撃音が響いた。敵チームが使っている『ウルフUZI』のフルオート射撃であった。
「何の話だ?」
シローは答えながら、朽ちた民家の壁から向こう側を伺う。
だが、すぐさま銃撃が再開したので、慌てて頭を引っ込めた。
「クリスティーナのことだよ。昨日、学食で呼び出されていただろう」
「別に。何もなかった」
淡々と答えるシローに、ゼノは肩をすくめて笑う。
その手には、いつもと同じ共和国製の旧式ライフルが握られている。
「はっ、あのブラコン娘のことだ。どうせ、兄さんは騙されています、とかいってたんだろう」
「わかっているなら聞くな。ランク戦の最中だぞ」
シローは無線機のマイクを首に当てながら、仲間たちに指示を出す。
「ユーリィ、ミリア。敵チームが来るぞ。援護を頼む」
離れた場所にいるであろうチームメイトに声をかけては、次に取るべき行動を静かに考える。
オルランド魔法学園で年間を通して行われる、学園ランク戦。
四人チームでの戦いで、相手を全員倒すか、降伏させれば勝利となる。チームの構成は自由で、《普通歩兵科》だけを集めたところもあれば、シローたちのように《狙撃兵科》や《砲兵科》など、様々な学科から構成されているところもある。
また、ルールの上では四人までとなっているため、敢えて三人や二人でチームを組んでいるところもある。少し前までは、シローもゼノと二人で組んでいた。
「――わかりました」
「――あうあう。が、頑張ります!」
無線の向こう側から、二人の少女の声が聞こえる。
ユーリィとミリアの声だった。
ユーリィは《衛生兵科》に編入したあとも、スナイパーライフルを使っていた。学園の備品である『イーグルM24』。彼女の手には大きいが、それでも確かな狙撃の精度を誇っている。
ミリアは学園でも数少ない《砲兵科》の生徒だ。手にしたグレネードランチャー『イフリート』と、学園屈指の破壊力を持つ『爆炎魔法』で砲撃することができる。
「ゼノ、また走るぞ。無駄口を叩くなよ」
「はいはい。わかったよ」
ゼノは怠そうに答えると、先に走り出したシローの後を追いかけた。
シローたちが戦っているフィールドは、一言でいえば荒野であった。
草木のない荒れた平原に、廃墟のような民家がぽつんと建っている。昔は牧羊にでも使われていたのか、忘れ去られたような石垣が所々に点在している。
学園のランク戦では、様々な場所が戦闘フィールドに使われるが、この荒野での戦いは初めてであった。
「走れ! 流れ弾に当たるぞ!」
「そんなにノロマじゃねぇよ!」
シローとゼノは軽口を叩いては、後ろから聞こえる銃撃音から全速力で逃げていた。
相手チームは、学園ランキング64位。
《普通歩兵科》と《衛生兵科》の混成チームだが、どうやら接近戦を得意としているようであった。連射性に優れたサブマシンガンを撃ちまくって、どんどん前線を押し上げてくる。拡張マガジンを採用しているのか、一度の斉射時間がとても長い。
「――敵チーム、捕捉しました」
そんな時、ユーリィの声が聞こえた。
スナイパーライフルを使う彼女が狙撃ポイントに着いたようだ。ミリアの砲撃と一緒に攻撃したいところだが、これ以上は待っていられない。
「やれ」
「――はい」
ユーリィの物怖じしない声がしたと思ったら、遠くから銃声が響いた。
そして、敵チームからは悲鳴が上がる。
――くそっ、リーダーが撃たれたぞ!
――狙撃だ! 狙撃に注意しろ!
それまで絶えず響いていた敵チームの銃声が止まる。
どうやら狙撃を警戒して、物陰に隠れたらしい。シローは後ろを振り返りながら、手にした双眼鏡で敵が隠れていそうな場所を探す。
「……見つけた。崩れた石垣のところだ」
シローは立ち止まって、無線のマイクに手を当てる。
今回、観測手として立ち回ると決めていたため、銃を持っていなかった。
「ミリア、聞こえるか?」
「――はぁはぁ。……は、はぃ」
走り続けて、息が切れたのだろう。
運動が苦手な彼女では仕方ないが、今はそんなことを気遣ってもいられない。
「廃墟になった民家の西。およそ200メートルくらいのところに、古い石垣があるのが見えるか?」
「――は、はい。見えます!」
「そこに敵がいる。ありったけの砲弾を撃ち込んでくれ!」
「――わ、わかりました!」
ミリアの慌てた声がした。
少し前まで、学生寮に引きこもっていた下級生は、今でもビクビク怯えながら生活している。少しは友達ができたと聞いたが、相変わらず人見知りは直っていないようだ。
そんな彼女であったが、《砲兵科》としての成績は優秀であった。特に、『爆炎魔法』の威力の前では、右に出るものはいない。
ひゅるるる、と間の抜けた音が聞こえた。
放物線を描く、黒い弾丸。
ランク戦仕様の模擬弾が、敵チームの潜んでいる場所へと落ちていき、……その直後に大爆発を起こした。
――ぎぇぇぇ!
――爆発したぁ!
――砲兵科だ! 砲兵がいるぞ!
爆風に乗って聞こえてくる、敵チームの悲鳴。
その場にいたら、また砲撃される。そう思ったのか、砂埃が立ち込める場所から人影が姿を見せた。彼らは、サブマシンガンを胸に抱きながら必死に逃げ惑っている。
そんな彼らの前に、銃声が鳴った。
数は三発。ユーリィが放った銃弾が、見事に敵チームを捕えていた。彼らは悲鳴を上げることもなく、ぱたり、ぱたりと倒れていった。
「おー、すげぇな。この距離を確実に狙撃するのか?」
ゼノが感心しながら、敵チームが倒れている場所と、ユーリィがいそうな場所を見比べる。
「さすがは、シローの嫁だな。お前の教え方が良かったんだろうな」
「……」
シローは何も答えない。
ユーリィに狙撃を教えたのは、シローであった。その成長は、彼女自身の素質や、帝国でスパイとして育てられたことが関係していたのだが、それらとは別に、もう一つの理由があった。
過去に、シローは一度だけ経験していた。
何も知らない少女に、狙撃のやり方を教えることを。




