表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/422

第8話 「朝練と狙撃銃」

ボルトアクション、というものを説明しています

わかりにくかったら申し訳ありません。

「それでは朝練を始めようと思う。ユーリィ、準備はいいか?」


「……準備はできていますけど、私の中は、シローさんへの不信感でいっぱいです」


 誰もいない射撃場で、彼女がジトッとした目で見上げている。先ほどの行動に対する抗議を込められていたが、彼が意に介する様子はない。


「学園長から聞いていると思うが、ユーリィには次のランク戦に出てもらうことになっている」


「はい、聞いています」


 ユーリィが頷く。


「学園のランク戦は、銃と魔法を使ったチーム戦だ。そこで聞いておきたいのだが、ユーリィの魔法はどういったものなんだ? 学園長が言うには、健康診断で魔力反応があったとか」


 シローは、学園長であるグラン大佐の言葉を思い出していた。


 オルランド共和国は、魔法の力を持って生まれる人が多い。

 だが、いろんな魔法を使えるわけではない。


 原則的に、一人が使える魔法は、ひとつだけ。

 それは生まれ持った才能であり、その人の個性でもある。この魔法学園においては、自分の存在を証明する力でもあった。


「え、えーと、ですね」


 シローの質問に、ユーリィはすぐには答えなかった。

 視線を落として、小さな手をぎゅっと握りしめる。

 そして、いつもの笑顔を浮かべるのだった。


「……たいしたものじゃないですよ。私にぴったりな、とても下らない魔法です」


 彼女は笑いながら、シローのことを見上げる。

 その顔はいつもより、諦めに満ちていた。


「……そうか」


 シローもそれ以上は追及できなかった。

 まぁ、次の相手は低ランクのチームなので、魔法を使ってくることはないだろう。そう思いなおして、説明を続けることにする。


「ランク戦は、隠れていれば勝てるわけじゃない。いろんな相手チームと戦うことになるだろう。だからユーリィには次のランク戦までに、この銃を使えるようになってもらう」


 シローは説明しながら、長細いバックを地面に下ろした。

 そして、黒い銃を取り出す。

 銃身が長く、全体的に華奢なイメージのある、……スナイパーライフルだ。


「狙撃用の銃については、何か知っているか?」


「はい。授業で教わったことなら」


 いつの間にか、ユーリィの表情は真剣なものになっている。


「まぁ、知っているかもしれないが、軽くおさらいしよう。これはイーグル社が開発した国産スナイパーライフル、『イーグル・M24』という名前の銃だ。狙撃用の銃ということもあって、撃った弾が相手にダメージを与えられる距離、……有効射程距離が長いことが特徴だ。ここまではいいか?」


「はい」


 にこり、とユーリィが微笑む。


「この『イーグル・M24』だが、その華奢な外見にしては、頑丈な作りになっている。そして、軽い。学園の女子生徒が使えるくらいの重さになっているらしい。試しに持ってみるか?」


「はい!」


 ユーリィが頷くのを見て、シローはその銃を手渡した。

 長細い狙撃銃が、彼女の小さな手に包まれる。


 戦争が終わり、技術提供という理由で、たくさんの帝国製の銃が国内に入ってきた。


 オルランド共和国の銃と言えば、伝統に縛られた職人の手によって作られたもの。新しい技術も現場の兵士の声も、伝統だから、という一言に消されていた。


 だが、帝国は生産性と実用性をとことん追求し、新しい技術も積極的に取り入れた。その結果、他国を圧倒する力を持った銃器を作り出す。頑丈で壊れにくく、しかも軽い。新素材の合成金属で作られた銃は、他国のよりも明らかに軽かった。


 そして、その技術は共和国にも伝わっている。

 学園で採用されている、唯一の国産ライフル。

 イーグル社が信念と誇りをかけて作り上げた、傑作の銃。それが、この『イーグルM24』である。従来の長所を生かしながら、新素材の導入により耐久性の向上と軽量化に成功。最高に使いやすいスナイパーライフルと絶賛された、誉れ高い銃なのだ、……なのだが―


「……まぁ、さすがに子供が使うことは想定されていないよな」


「何か言いました?」


「いや、何でもない」


 彼女の視線を感じて、シローは慌てて答える。


「それでは、説明を続けるぞ。スナイパーライフルは遠くを狙う銃だから、基本的には望遠スコープを覗きながら撃つことになる。……ちなみに学園の備品で使われているのは、8倍率のスコープだ」


「あ、本当だ。結構、遠くまで見えますね」


 ユーリィが銃を構えて、その上に載っているスコープを覗き込む。


「さて、このイーグルM24だが、国産のものでありながら、かなりの高性能を誇っているんだ。有効射程距離は800メートルで、その精度はAクラスとされている。それは帝国製の銃にはないものだ」


「すごい、……のですか?」


「あぁ。戦時中に使われていたイーグル系列が今も現役なのは、その高い精度を保持しているからだろうな。……そして、その精度を生み出しているのが、ボルトアクションと呼ばれる構造だ」


「ボルトアクション?」」


 ユーリィの頭に疑問符が浮かんでいる。

 説明するより、実物を見た方が早いな。そう思って、シローは銃の横を指さした


「ボルトアクションとは、弾を一発撃ったら、ボルトと呼ばれる金属の筒を操作して、次の弾を装填するものだ。……銃の横に小さなレバーが出ているだろう」


「はい」


「このレバーはボルトハンドルと呼ばれるもので、こいつを動かすんだ。このハンドルを一度起こして手前に引く。一番手前まで引くと、ボルトが動いて弾が装填されるんだ。……後は、もう一度奥まで押し込んで、ハンドルを横に倒す」


 やってみせよう、とシローは言った。


 慣れた手つきでボルトハンドルを手前に引き、弾を入れるための薬室を開く。

 そこに一発ずつランク戦用の模擬弾を入れていき、五発入ったところでボルトを一番奥に押し込んだ。

 最後に、ハンドルを倒す。

 カタン、と無機質な音した。


「……」


 そのままシローは、銃を構えて遠くの的を狙う。


 左手を銃身に、右手を引き金に。

 呼吸を止めて、意識を集中させる。

 一瞬が永遠に感じるほどの緊張感。ユーリィが黙って見守るなか、シローはゆっくりと、……引き金を引いた。


「……っ!」


 ダンッ、と重厚な炸裂音が響く。

 長い銃口から放たれた銃弾は、右回りの螺旋回転を保持したまま、高速で飛翔する。そして、遠く離れた円形の的の、その真ん中を撃ち抜いていった。


 鈍い銃声の残響と、かすかに硝煙を漂わせる。


「……ふぅ」


 シローは一度、銃を下ろすと、ボルトハンドルを起こして手前に引く。

 すると、弾を入れる場所から、空になった薬莢が飛び出てきた。カラカラ、と小さな音を立てて空薬莢は転がっていく。


「まぁ、こんな感じだ。このままハンドルを押し込めば、次の弾が装填される。今はやらないがな」


 シローは手動で弾を排出させると、再びボルトを奥へと押し込む。


 その間、ユーリィは黙ったままだった。

 今も、口に手を当てたまま、遠くの的をじっと見つめている。真ん中を撃ち抜かれた的を見て、驚いている様子だった。


「……び、びっくりしました」


「そうか? 50メートルの射撃なんて、ちょっと練習すれば、誰でも真ん中を当てられるぞ」


 彼女の見つめている視線を追いながら、シローは何でもないことのように言った。


「びっくりです。……シローさんって、本当は銃を撃てたのですね?」


 がくっ、と肩が落ちた。


「お、お前、俺のことをなんだと思っているんだ!?」


「え? だって、銃を撃てない『臆病者』だと聞いていたので」


「……ぐっ」


 返す言葉が見つからなかった。

 そんな彼に、ユーリィはにこりと笑いながら聞いてくる。


「でも、どうしてランク戦では撃たないのですか? 何か特別な理由でも?」


「あぁ、それは―」


 シローがそっと、手元の銃を見下ろす。


 一瞬だが、その銃が旧式のライフルに見えた。

 戦争中、大勢の人間を殺したスナイパーライフル『イーグル・M7』。彼の脳裏をよぎるのは、助けを求める悲鳴と、血と火薬の匂い。命乞いをする敵兵士に向かって引いた、引き金の感触。それが今もまだ残っている。


「……すみません。なにか嫌なことを聞いたみたいで」


 彼女の声で、意識が現実に戻ってくる。


「いや、何でもない」


 シローは、ぐっと手を強く握る。

 戦争は終わったのに、どうして自分は人を撃てないのか?

 ランク戦なんて、ただの学園の行事なのに。使っているのは、安全が保障された模擬弾なのに。なぜか、引き金を引くことに心が拒絶する。


 たぶん、自分は。

 まだ戦場にいるのだ。

 終わらない戦争に囚われ続けている。


 ユーリィが心配そうに見上げているなか、シローは力なく微笑んだ。


「さぁ、練習を開始しよう。次のランク戦までには、一人前の狙撃手になってもらわなくちゃな」


「はいっ!」


 シローの声に、ユーリィは笑顔で頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ