第33話 「敵襲!」
――◇――◇――◇――◇――◇―
「ぎゃっ!」
突然、白衣の男が悲鳴を上げた。
何事かとザルモゥがそちらを見ると、男の肩が真っ赤に染まっていた。撃たれたのか、とすぐにわかった。
その直後。
目の前のことが、自分の理解を越えていることに気がつく。
銃弾はおろか、砲撃にすら耐えられる軍用倉庫なのに、なぜ隠れていた男が撃たれたのか。ザルモゥは必死に答えを探す。
だが、それ以上の思考は不可能だった。
男が撃たれた直後から、銃弾が雨のように降り注いだのだ。
音もなく、どこから撃たれているのかもわからない。チチィ、という金属が擦れるような音を立てながら、部屋にあるものを破壊していく。彼らが用意した拷問器具も、その全てが壊された。
ただ一人。部屋の中心にいるユーリィにだけには銃弾が飛んでこなかった。
「あ、あそこに行けば!」
ザルモゥは活路を見出したかのように、彼女に向かって走り出した。他の男たちが悲鳴を上げている中、彼はユーリィを盾にして助かろうと考える。
それが故。
手厳しい報復を受けることとなった。
「がっ!?」
突然、足元をすくわれたようにザルモゥが床に転がった。
その勢いは凄まじく、散乱した拷問器具の破片を盛大に巻き上げるほどだった。
「く、くそっ! 何が起きた―」
悪態をつきながら膝と立てると、ぽとりと何かが目の前に落ちてきた。
そして、それが何なのか理解した瞬間。
とうとう、彼は発狂した。
「な、なんで、……なんで俺の足がーーーっ!」
彼が手にしたのは、自分の右足だった。
まるで掘削機でも使ったのか、その断面は人体模型の様に綺麗であった。骨や血管、筋肉など、無駄な組織破壊を起こしていない。それは、あきらかに銃撃による傷跡ではなかった。
……ありえない!
……こんなことはありえない!
頭の中で何度も叫びながら、自分はとんでもない相手を敵にしたのかもしれない、と今更さになって恐怖するのだった。
――◇――◇――◇――◇――◇―
「なんだか、上の階が騒がしいな」
「気にするなよ。どうせ、あの帝国野郎が気分よく演説しているんだろう」
ギムガたちは階段下の踊り場で、小さくなって集まっていた。
自分たちはこれからどうなるのだろう。そんなことを考えていたせいで、他のことの関心が薄れていた。
そんな時だ。近くの部屋にいた帝国の元軍人が、ギムガたちに向けて言い放つ。
「おい、共和国のガキども! そこにいるんだろう!」
「……え、えっと、何でしょうか?」
リーダーのギムガは媚びるような声で返す。
「さっきから二階がうるさくて仕方ねぇ。お前ら、ちょっと様子を見て来い」
「な、なんで俺たちが―」
「さっさと行け! 死にたいのか!」
男がライフルを取り出すのを見て、ギムガたちは慌てて立ち上がる。
「はい、すみません!」
「今すぐに行きます!」
彼らは階段を駆け上る。
だが、元軍人の姿が見えなくなると、その場に座り込んでしまった。
「……ったく、やってらんねーよ」
「あぁ。やっぱり、ここから逃げ出そうぜ」
「逃げてどうするんだよ。学園に帰るのか?」
「まさか。俺たちの魔法があれば、金なんていくらでも手に入るだろう。近くの街に行って、女の手籠めにしてから金目のものを奪う。もしくは子供を誘拐して身代金を要求する。それで、しばらく生活できるだろう」
「おー、さすがギムガ。あくどいことを考えるぜ」
「じゃあ、こんなところさっさと逃げようぜ。戦争なんて俺たちには関係ないし、勝手にやってろって感じだ」
ギムガたちは互いの顔を見ながら、これからの悪事について計画を立てる。
もはや、二階の様子など見に行くつもりなどなかった。注意するべきは一階の動向。元軍人や傭兵たちの目を掻い潜らなければいけない。彼らは階段の手すりから身を乗り出し、一階の様子を窺う。
違和感を覚えたのは、その時だ。
バタバタと慌ただしく、元軍人たちが部屋を出ていったのだ。何があったのだろう、と耳をすませてみると、複数の男の声が聞こえた。
「あ? 誰だ、お前は?」
「何の用だよ? ここは関係者以外、立ち入り禁止だぜ」
「ガキはさっさと家に帰んな。ママが心配しているぜ」
そう言って、男たちの笑い声が響く。
この廃倉庫に誰かが来たようだった。
だが、それ以上の様子はわからない。ギムガたちは足音を立てないように、ゆっくりと正面玄関へ向かう。
その人物の声が聞こえてきたのは。
ちょうど、その時だった。
「だからさぁ、言っているだろう? 俺は、ここに喧嘩をしにきたんだよ」
聞いたことのある声だった。
それが誰だったか思い出そうとするが、それよりも早く。その男は次の言葉を口にしていた。
「ここに女の子が捕まっているはずだ。黒髪の小さな女の子だ。そいつは親友の女なんだよ。戦争が終わって、全てのことに無気力になっちまったダチが、ようやく掴みかけた守りたいものなんだ。……だからさぁ」
ピンッ、と空気が張りつめた。
「ここを通させてもらうぜ! オルランド魔法学園、《普通歩兵科》の学年主席を舐めんなよ!」
彼が叫んだ、その瞬間。
いくつもの悲鳴が折り重なって、倉庫内に響き渡った。
「ぎゃーーっ!」
「な、なんだこいつ!」
「とんでもねぇ馬鹿力だ! 抑えきれない!」
「敵襲! 敵襲っ!」
ギムガたちが見ている先では、ゼノが旧式のライフルで元軍人の男たちを殴り飛ばしていた。




